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毎日不幸とかウケる。ウズベキスタン珍道中【第3話】~ただリボにしただけの女爆誕でもう無理~

※本作品は全10話の連載エッセイです。
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iPhoneかと思った

旅3日目の朝。遠くで誰かのiPhoneが鳴っている。あの、鳥のさえずりのアラーム音だ。
誰も止めない。隣の部屋か?お願いそろそろ止めてくれ…
そんなことを寝ぼけ頭で考えていたら、まさかの”リアル小鳥のさえずり”であった。
豚山も起床一番「誰かiPhone鳴ってなかった?」と言っていたので、本当にiPhoneすぎたのだと思う。

今朝は早起きをした。サマルカンドの大人気スポット『シャーヒ・ズィンダ廟群』に朝一番に行くという目的のためだ。
朝7時に現地に着くよう、ホテルを出発。宿泊しているホテルからは歩いて行ける距離だ。朝の空気が気持ち良く、異国で大いに健康を感じる
私たちが一番乗りかと鼻息荒く乗り込んだが、先客がいた。日本人である。日本人の勤勉さはここウズベキスタンの地でもしっかり発揮されている。

まずは”天国への階段”と呼ばれるレンガ造りの階段を上る。一段がクソデカすぎて笑う。これはもう、バリアフリーの対極にあるような階段である。
本来は雑念を捨て、段数を数えながら上らないといけないらしいが、こちとら雑念だらけである。出来れば私も天国へ行きたいのだが、果たして大丈夫だろうか。

”廟群”と言うだけあって、ここでは中央に通る路地を挟むような形で建物がひしめき合っていた。それぞれの建物には様々な”青”が降り注ぎ、その美しさは自分の処理能力を完全に超えていた。観光客に絶大な人気を誇るのも頷ける場所である。

ちなみに朝一番の時間帯に行くと、それなりに”写真ガチ勢”が集まっている。お互いの写真に写り込まないよう、譲り合いの精神は世界共通であった。

天国への階段

ホテルへ戻り、朝食。
実は今回宿泊している ホテル、ロケーションは最高だけど朝食はイマイチ、なんていう評判を聞いていたので、全く期待していなかった。

が!
サモサやパン、チーズやソーセージ、ヨーグルトはもちろん、クレープやフレッシュなフルーツに至るまで期待を裏切るラインナップ。そしてまさかの味も良い
乳製品はどれも濃厚で、ヨーグルトにウズベキスタンの名産品であるハチミツを垂らして食べればこの上ない美味しさだし、日照時間が長いことが功を奏しているのか、フルーツも瑞々しくて甘い。
2日目の日記で「ホテルはここが一番良かった」と書いたが、朝食面でもダンチであった。マジで美味すぎた。


まだ時間は午前10時。涼しいうちにレギスタン広場に行ってみることにしよう。
驚くべきことに、レギスタン広場に近付くと自然と足がジェラート屋に向かう身体になっている。さっきあんな量の朝食を食べたばかりだというのに、今度はジェラートを欲する成人2名。
気の向くままに行きたいところへ行き、好きなタイミングで食べたいものを食べる…大人の旅って最高である。

3回目のジェラートを食べ、いよいよレギスタン広場の中へ入る。
観光スポットの多いサマルカンドの中でも特に有名なこの場所は、3つの大きなマドラサ(神学校)で構成されている。そのひとつひとつが既にビッグサイズなので、3つ集まるととんでもないデカさだ。

どのマドラサも素晴らしかったが、その中でも特に『ティラカリ・マドラサ』の金色のモスクは目を見張るものがあった。肉眼では追いきれないほどの装飾の細やかさ…綺麗すぎて息をのむとはこういう感覚なのだろうか。他の観光客も皆一様に金色の天井に目を奪われている。
じっくり見ていたら案外時間が過ぎていたようで、豚山が「お腹が空いた」と言い出した。もうそんな時間か。


昨日のシャシリクが余程美味しかったのか、肉が食べたいと言う豚山。それならと、シャシリクで有名な地元の人気レストラン Shokhrukh Nur(シャシリク・ヌール)に足を運んでみたが、あいにくその日は定休日のようであった。予定を変更し、そこから少し離れたところにあるジョージア料理のレストランGruzinka Restoran(グルジンカ)へタクシーで向かうことにした。

この店がとんでもない大当たり!
揚げ茄子のサラダ、ハチャプリ、シュクメルリ、コーラをオーダーしたのだが、マジで何を食べても異常に美味い
ハチャプリに至っては、まずビジュアルがヤバい。熱々に溶けたチーズの海に卵黄が浮いており、さらにはバターの塊が泳いでいるって何事?平常ではいられないし、何なら取り乱すしかない。

ちなみにこちらは綺麗目な雰囲気のレストランで、ただのコーラをまるで高級ワインかのようにウェイターが注いでくれるというサービスの整いっぷり。丁寧に注ぎすぎて一切シュワーッとしないコーラが自分たちの浮かれ具合を教えてくれた。取り乱してごめんなさいね。

はちゃぷり!!

一度ホテルへ戻り、休憩。外はとにかく暑いので、時々こうしてホテルで休憩を取らないと体力が持たない。
少し休んでから『シヨブバザール』へ。言わずと知れたサマルカンドの人気バザールである。

ウズベキスタンのバザールでは商品の値段が表示されていないので、店主とのやり取りで価格を決めていかねばならない。
旅行中いろいろなバザールに行ったが、シヨブバザールにおいては、初手は割と強気の値段で来る。一周回って「それもう日本より高くね?」と思うことさえあった。こっちも疲れていたりすると、なんかもうそれでいいや~なんて思ってしまうかもしれないし、相手もそのあたりを見込んで強気で来ているような気もする。いずれにしろ、少し根気が必要なバザールかもしれない。

ここでは布バッグ、スパイスセット、ドライフルーツ、ナッツ、それから良い香りの紅茶を購入した。
紅茶は茶葉と一緒にカラフルなドライフルーツや花なんかも入っていたりして、見た目もとても良い感じ。香りを嗅ぐたびに現地の空気を思い出すことが出来る、一押しのお土産だ。


ベクという男

このバザールで一人の男と出会った。その男はベク(仮名)と名乗った。

バザールを歩いていると店の主から「ヤポン?」と声を掛けられることが多くある。こちらが日本人であるかを尋ねられている訳だが、その男は「ナニクデスカ?」と聞いてきた。

不思議な声掛けに驚き、なぜそんなに日本語が堪能なのかと尋ねてみると、「ワタシハアラカワクニスンデイマス」とのアンサー。まさかの東京都荒川区在住らしい。今は休暇でウズベキスタンに帰って来ており、たまたま店を手伝っているとのことだった。
聞けば、過去の「地球の歩き方」は彼が製作に加担していたそうだ。8ヶ国語が堪能で、テキストをパッと見ただけで覚えてしまうカメラアイである、といろいろ情報が多すぎる男であった。

買い物で荷物が増えたため、一旦ホテルに戻ることにした。
ホテルへ着くと、ちょうどルームクリーニングの最中であった。荷物だけ室内に置かせてもらい、私たちはテラスのテーブル席で「ベク凄くね?」と、ついさっき知り合ったばかりのベク話に花を咲かせた。

しばらくすると、掃除のお姉さんがウズベク語で声を掛けてくれた。多分、掃除が終わったとかそういう感じのことだろう。
天気が良かったこともあり、テラスでの談笑はとても気持ちが良かった。お姉さんに返事だけすると私たちは変わらずベク話を続けた。

15分くらい経った頃、ふと豚山が私たちの部屋のドアが全開であることに気付く。
「あれ?さっき掃除終わったとか言ってなかったけ?」
「そうだよね。でもドアが開いてるってことはまだやってるんじゃないかな?」
そう言って部屋に近づくと、室内にはもう誰もいなかった
どうやら”ドアを全開にしてテラスでお喋りに夢中”という、セキュリティ激低の日本人が爆誕していたようだ。またここでひと笑い。ほんと馬鹿すぎて申し訳ない。

部屋に入った途端、急に雨が降り出した。ゲリラ豪雨である。
驚いているうちに雷も鳴りだし、まさかの停電
一瞬で回復したが、停電なんて何十年ぶりかの経験である。

この国にいると、なんだか子供の頃を思い出してしまう。
どことなく懐かしい気持ちにさせる要素がこの国には多すぎるのだ。


急に寒いのですが

19時を過ぎた頃、雨も止んだので夕食を食べに行くことにした。だが外に一歩出てびっくり。雨が降ったせいなのかめちゃくちゃ寒くなっている。夕方まであんなに猛暑だったというのになんたる温度差。

一旦部屋に戻り、持ってきている服をとりあえず着込む。コーディネート度外視の風貌でホテル近くのBibikhanum Teahouse(ビビハニム ティーハウス)へ。
ウズベキスタンのガイドブックで初めて見た時からずっと憧れていた”タプチャン”席へ座る。タプチャンとは、座って食事を楽しんだり、横になったり出来る大きな縁台のような木製の家具だ。いかにも異国っぽいフォルムが旅気分を盛り上げるのに一役買ってくれる。
本来ならば、温暖な気候の中でこそ真価を発揮するであろうこのタプチャン席。しかしなぜなのか。今は寒いし寒すぎる。そんな中で食べたウズベキスタン名物のマスタヴァというトマト味のスープが冷えた身体に染みわたり、なんとも絶品であった。

食事の後、ホテルでもう一度本気の重ね着をして夜のグーリ・アミール廟に行くことに。サマルカンドでは様々な観光地を訪れたが、昨日見たグーリ・アミール廟の美しさは別格であった。サマルカンドにいられるのは明日の朝までだが、それまでにあの場所にもう一度行きたいと思ったのだ。

21時くらいにタクシーで向かうと、雨上がりだというのにそこそこ観光客が集まっていた。
夜のグーリ・アミール廟は幻想的にライトアップされており、昨日見た姿とはまた違う魅力があった。建物のバランス、規模感、デザイン、全部が良い。なんというか、佇まいが良いのだ。
私は建物に夢中になり、豚山はこの場所をねぐらにしていると思われるフカフカとしたシッポを持つ猫に夢中になっていた。

にゃんち

動悸が止まらない…サマルカンド最終夜

束の間の夢のような時間を過ごし、サマルカンド最後の夜が終わろうとしていた。
この夜、私にはどうしてもやらねばならないことがあった。キャッシングの繰り上げ返済である。
昨夜は疲れ過ぎていつの間にか眠ってしまったため、比較的体力の残っている今夜やることにした。

キャッシングの繰り上げ返済をする手順としては、以下のとおりである。

【ステップ①】
クレカのアプリから、キャッシングした金額の支払方法をリボ払いに変更する
【ステップ②】
ネットバンキングからペイジーを利用してリボ分の支払い額を払い込む

簡単クイック、この2ステップだ。
”リボ払い”というと、なんだか恐ろしいイメージが先行する。払っても払っても減らない元金、そしてウシジマの世界へ…。それが私の中のリボ払いのイメージである。当然これまでの人生でリボ払いを選択したことは一度も無い。
しかし繰り上げ返済をするためには、どうしても一旦リボ払いの形式を取らないといけないそうだ。抵抗はあるが仕方のないことだ。

緊張しながらリボ払いの設定を進める。一度リボ払いに変更すると、もう元に戻せないらしい。何度もしつこく「よろしいですか?」のボタンが出てくるので、本当によろしいのか自問自答したくなる。だがよろしいのだ。先へ進もう。

そしてステップ②、ネットバンキングから払い込む。
私はあまりネットバンキングを利用しないのだが、遥か昔に開設した口座があり、この日のためにその口座番号やパスワードも控えてきた。準備万端で進めていくと…まさかのエラー
ペイジーを利用するには銀行アプリをダウンロードし登録しろ、と画面に表示されている。言われるがままアプリをダウンロードし登録を進めようとするが、口座開設時に登録したメールアドレスのパスワード入力の場面で手が止まった。パスワードがわからない…。もう随分前に使っていたメールアドレスで、そのパスワードはスマホにも保存していない。自宅に帰らない限りわからないのだ。

…終わった。

旅行中はどうやっても振り込めないことが確定した。
つまり私はただ借金をリボ払いにしただけの女。最高にヤバい状況である。
一気に鼓動が速くなる。

まって、これどうしたらいいの…?
いやどうにもならんやろ…
でもリボってヤバくない…?
ヤバいけどどうにもならんやろ…

すべて私の心の中の声だ。背景にはウシジマのテーマソングが流れ始めている。
そして私は考えた末、全部忘れることにした。もう寝ることにした。

目を閉じても動悸が止まらない…
サマルカンド最後の夜は、ウシジマのテーマソングとともに更けていった。



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