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実践するドラッカー 実践編 第20話:強みを生かし合う組織を作る③(全5話)

事例5-3:個人の強みに気づく──正反対だから、背中を預け合える

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

前回は、「組織の強み」を基準に事業を集約していった意思決定を見てきました。今回はその延長線上にあるテーマ、「個人の強み」について、専務であるEさんの視点から追っていきます。

■ 組織の強みと個人の強み

組織の強みと個人の強みには、いくつかの共通点があります。強みを発揮している本人はそれを"当たり前"として気づきにくく、むしろ弱みに目が向きやすい。過去の経験や実績を丁寧に振り返ることで、初めて輪郭が見えてくるものです。

一方で、決定的に異なる点もあります。個々人の強みを足し合わせても、組織の強みにはなりません。組織の強みとは、長年の試行錯誤の中で蓄積された、仕組み・ノウハウ・関係性の集合体だからです。

前回、「やめる/続ける」の意思決定の軸としていたのは、まさにこの「組織の強み」でした。特定の誰かに依存するものではなく、組織としての蓄積に根ざした強み。だからこそ、それを判断の基準に据えることができたのです。

そして、もう一つ重要なことがあります。社員は会社の所有物ではありません。個人の強みに依存した仕事のやり方は、その人が退職した瞬間に失われてしまいます。どれほど優秀な人材であっても、その強みが組織の中で生かされる場面を設計していなければ、会社としての力にはならないのです。

だからこそ、個人の強みを「活用する」だけでは十分ではありません。大切なのは、人と人の接する場面をどう設計するか、ということです。誰と誰が、どのような役割で、どこで交わるのか。その接面を意識的に設計することが、一人ひとりの生産性を高め、組織全体の成果につながっていくのです。この視点を踏まえたうえで、個人の強みに目を向けていきます。

■ 同じ仕事なのに、なぜ差が出るのか

事業の整理が進み、「強み」と「必要条件」を軸に意思決定が行われるようになったとき、もう一つの違和感が浮かび上がってきました。

同じ仕事をしているのに、成果に差がある。

同じように指示を出し、同じように取り組んでいるはずなのに、すぐに成果を出す人と、苦労してもなかなか結果が出ない人がいる。その差は、想像以上に大きいものでした。

■ 努力の問題では説明できない

当初は、「経験の差」「努力の差」と考えていました。しかし現場をよく見ていくと、それだけでは説明できない場面が多くありました。

ある人にとっては自然にできることが、別の人にとっては非常に難しい。同じことを求めているのに、結果が大きく変わる。そこには、別の要因があるのではないか。

■「強み」という概念との出会い

そんなとき、再びドラッカーの言葉に出会います。

「人は強みによってのみ成果をあげる」

この言葉は、それまでの人の見方を大きく変えました。「できないことをできるようにする」ことではなく、「すでにできていることをどう生かすか」が重要なのではないか。

さらに、Eさんにとって決定的だったのは、次の一節でした。

上司の強みを生かすことは部下自身が成果をあげる鍵である。上司に認められ活用されることによって、初めて自らの貢献に焦点を合わせることが可能となる。

『実践するドラッカー 思考編』第3章 貢献なくして成果なし
/上司の強みを生かす(p.136)
(経営者の条件 p.128)

 人物観察の洞察が深いドラッカーは、著作の中で興味深い人物像に触れています。優秀な高級官僚の話です。優秀であるがゆえに、上司となった新任の大臣に「○○大臣は~するものです」と"助言"をし続ける。この「助言」は、実は新任の大臣の欠点や非効率なやり方が気になって仕方がないために、上司を「矯正」し「改革」しようとしている状況です。しかしそれは、相手の個性を弱みとして捉えているからこそ生まれる発想でした。

一方、より優秀な官僚は違う動き方をするといいます。新任の大臣が「経済界とのパイプが太いのか」「省庁内での調整が上手いのか」といった強みに着目し、その仕事に専念できるよう、他の仕事をサポートするように動くというのです。

視点を逆にすると、まったく違う景色が見えてきます。自分から見えている上司の弱み、それはつまり、自分には見えているということ。その見えている部分をフォローし、補う動きをすることこそが、自分の強みを使って全体の成果に貢献することになるのです。上司を変えようとするのではなく、上司の強みが最大限に発揮される環境を整える。それが、部下としての最大の貢献でもありました。

部下一人ひとりの個性を生かそうとすると、「人を見て仕事を振り分ける」ことになります。しかし通常、上司よりも部下の数の方が多い。気づけば上司の仕事は増え続け、やがて疲弊してしまいます。一方、上司の強みを生かすことを起点に考えると、視野は自然と仕事全体へと広がっていきます。そして上司は、組織全体を調和させるための情報をより多く持っているものです。

つまり、「上司の強みをどう生かすか」という問いは、組織全体の力を引き出す問いでもあったのです。Eさんは気づきます。自分の強みを発揮する以前に、「社長の強みをどう生かすか」が、自らの成果を左右しているのではないか、と。

■ 性格が違うから、ぶつかる

強みという視点を持ったとき、Eさんは改めて社長との関係を振り返ります。

二人は、気質も行動スタイルもまったく異なっていました。社長は直感的に動き、新しい場所へ踏み込み、人を巻き込みながら勢いをつくっていく。一方のEさんは、状況を丁寧に整理し、関係を積み上げ、足元を固めながら物事を進めていく。

こうした性格の違いは、通常、摩擦を生みます。相手の行動が理解できない。なぜそう動くのかが分からない。そして気づけば、すれ違いや対立へと発展していく。傍から見れば「仲が悪いのではないか」と思われても不思議ではない組み合わせでした。

■ 全体の成果を意識したとき、景色が変わる

しかし、「全体の成果」を共通の目標として意識したとき、二人の関係の見え方が変わります。

社長が前に出て新たな可能性を切り拓くとき、その後方では何が必要か。組織の内側を整え、関係を丁寧に維持し、足元を支える動きが必要です。そしてその役割は、まさにEさんの自然な強みが発揮される領域でした。逆もまた然りです。Eさんが内側を整え続けるためには、外から新しい風を運び、組織に勢いをもたらす誰かが必要です。その役割を、社長が担っていました。

相手の弱みを矯正しようとするのではなく、相手の弱みが見えているということは、自分がそこを補えるということ。その気づきが、二人の関係を根本から変えていきました。

性格が違うから対立するのではなく、性格が違うからこそ、互いの見えていない側を守り合うことができる。全体の成果を共通の目標に据えたとき、正反対の二人は初めて、本当の意味で背中を預け合えるパートナーになったのです。

■ 正反対だから、背中を預け合える

そのとき出会ったのが、次の言葉でした。

強みを生かすことは、行動であるだけでなく姿勢でもある。しかしその姿勢は行動によって変えることができる。同僚、部下、上司について「できないことは何か」ではなく「できることは何か」を考えるようにするならば、強みを探し、それを使うという姿勢を身につけることができる。やがて自らについても同じ姿勢を身につけることができる。

『実践するドラッカー 思考編』第4章 強みを生かす
/行動によって姿勢を変える(p.174)
(経営者の条件 p.133-134)

「自分の強みを発揮する」以前に、「相手の強みをどう生かすか」で成果が決まる。強みは個人の中だけで完結するものではなく、人と人の接面の中で発揮されるものだということに、Eさんは気づいていきます。

二人は、似た者同士だから組んでいたのではありませんでした。違うからこそ、互いの見えていない側を補い合うことができた。そしてそれは、意識的に「全体の成果」へと目を向けたからこそ、初めて見えてきたことでもありました。

■ 組織の見え方が変わる

強みという視点を持つことで、組織の見え方が変わります。なぜあの人とうまくいかないのか。なぜこの組み合わせだと力が出るのか。

問題の原因が「人」ではなく「関係性と接面の設計」に見えてくるようになったのです。

■ 次回予告

次回は、人と人の相性から一歩進んで、「人と仕事の相性」というテーマを見ていきます。強みを生かすために、組織の役割分担をどう見直したのか。具体的には、社長と専務それぞれの仕事をどう整理していったのかを追っていきます。

■ 今回の問い

Q:あなたの周りの「あの人とは合わない」と感じている人は誰ですか?逆に「あの人とは考えることが一緒」という人は誰ですか?

私たちは、人間関係で問題が起きると、「相性が悪い」「価値観が違う」と考えがちです。

しかし、本当に問題なのは「性格の違い」なのでしょうか。

Eさんたちも当初は、社長との違いに戸惑っていました。

直感的に動く社長。
慎重に整理して進めるEさん。

考え方も、動き方も、まったく違う。だからこそ、ぶつかることもありました。

けれども、「全体の成果」を共通の目的として見始めたとき、景色が変わります。相手の弱みだと思っていたものが、「自分には見えていない世界を見る力」なのかもしれない。相手の行動が理解できないのは、能力が低いからではなく、自分とは違う強みで動いているからかもしれない。

ドラッカーは、「人は強みによってのみ成果をあげる」と述べています。つまり、成果を上げる組織とは、
「欠点の少ない人」を集める組織ではありません。
 違う強みを持つ人同士が、互いを補い合える組織です。

そして、そのために重要なのが、
「相手を変えようとする」のではなく、
「相手の強みをどう生かすか」を考える視点
です。

相手の弱みが見えているということは、逆に言えば、自分にはそこが見えているということでもあります。

だからこそ、

  • 自分が補えることは何か

  • 相手が最も力を発揮できる場面はどこか

  • 二人が組むことで、全体にどんな成果が生まれるのか

を考えることが、組織全体の成果につながっていきます。

一方で、「考え方が同じ」「話が合う」という関係だけで組織をつくると、視野は狭くなりがちです。

似た者同士は安心感があります。
しかしその安心感は、ときに「同じものしか見えていない」という危険にもつながります。

だからこそ、問い直してみる必要があります。

「合わない」と感じるその人は、本当に問題なのでしょうか。
 それとも、自分に見えていない世界を補ってくれる存在なのでしょうか。

強みとは、個人の中だけにあるものではありません。人と人の接面の中で、初めて成果として現れるものなのです。


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この一連の物語の第①話はこちらからどうぞ!


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