実践するドラッカー 実践編 第21話:強みを生かし合う組織を作る④(全5話)
事例5-4:まず仕事を設計する──組織構造が成果を変える
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
前回は、性格の異なる二人が、全体の成果を共通の目標に据えることで、
対立ではなく互いの背中を守り合う関係へと変わっていく様子を見てきました。
今回はその延長線上にある問いを追っていきます。
相性の良い組み合わせを見つけることができたとして、それだけで組織は安定するのでしょうか。
■ 相性から始まった気づき
強みは個人の中だけで完結するものではなく、関係性の中で発揮される。前回見えてきたのは、そういう事実でした。
しかし専務は、そこで一つの限界にも気づきます。
相性に頼るだけでは、成果に再現性がない。
組み合わせが良ければうまくいくが、そうでなければうまくいかない。
それでは、組織として安定しないのです。
さらに、別の問題も起きていました。
相性を中心に仕事を設計していくと、人の好き嫌いが常に問題になります。
「あの人とはやりやすい」「あの人とはやりにくい」といった調整に、多くの時間とエネルギーが奪われていきました。
気づけば、似た者同士が集まり、同じところしか見えていない。
組織としては、非常に危うい状態でした。
■ 個性の違いは、優劣ではなく色彩の違い
ここで、一度立ち止まって考えてみます。
個性の違いとは、結果の優劣を争うものではありません。
たとえるなら、色彩の違いです。
色の濃い淡いは優劣かもしれません。
しかし、赤と緑のどちらが良い色か、という問いに意味はありません。
赤には赤の、緑には緑の、それぞれが映える場があるだけです。
問題は、赤い色を緑が映える場所に置いていること、あるいはその逆が起きていることでした。
個性そのものではなく、置かれている場所と個性がかみ合っていないことが、成果の出ない本当の原因だったのです。
■ 問題は「人」ではなく「仕事」
では、どうすればよいのか。
その問いに向き合う中で、視点が大きく転換します。
問題は「人」ではなく、「仕事の設計」にあるのではないか。
その理解を支えたのが、次の言葉でした。
仕事を生産的なものにするには、仕事が客観的な存在であり、スキルや知識は仕事側ではなく労働側の問題であることを認識しておかなければならない。
/人材の無駄遣いを避けるために(p.140)
(マネジメント(上) p.251)
この言葉に触れたとき、はっきりしました。
まず「仕事」を設計し、そのうえで人を生かす。
それまで自分たちは、逆のことをしていたのです。
■「人から仕事をつくらない」という原則
ここで見えてきたのは、シンプルな原則でした。
人から仕事をつくってはいけない。
人に合わせて仕事をつくると、できる人の例外が、組織の標準になってしまいます。その結果、強みは生かされるのではなく、使い潰されていきます。
同じような兆しは、業務の呼び方にも現れます。
「〇〇さん業務」と呼ばれている仕事があるとしたら、それは特定の個人の強みに依存したまま設計されている可能性があります。赤が映える場所に緑を置き続けているような状態です。
■ 設計が歪む典型例
例えば、こんな事例があります。
小さな会社で、経理として入社した社員が、営業担当の退職をきっかけに、営業も兼任することになります。得意先と回収の件でコミュニケーションを密にとっていたからでした。
これは、本来であれば一時的な対応のはずでした。ところがその社員は、たまたま営業でも成果を上げてしまった。
その結果、「営業はこの人がやるもの」という前提ができあがっていきます。
そしてその人がいなくなった後も、経理担当が営業を担うという"やり方"だけが残る・・。
本来、経理と営業はまったく異なる強みを必要とする仕事です。それにもかかわらず、偶然の成功体験が、業務の設計そのものになってしまう・・。
人から仕事をつくることの怖さが、ここに凝縮されています。
■ 狩猟型と農耕型という視点
この問題は、社長と専務の関係の中にも現れていました。
新規の出店を進める仕事と、既存の店舗を安定させる仕事。いわば「狩猟型」と「農耕型」の仕事が、一人の中に混在していたのです。
新規開拓が得意な人は、どんどん新しい顧客へと接触しますが、アフターフォローが粗くなりがちです。一方で、丁寧なフォローを得意とする人は、新規開拓のスピードには乗りにくい。
どちらも不可欠ですが、同時に一人で担うと歪みが生まれます。これは能力の問題ではありません。発揮している強みの色が違うだけなのです。
■ 仕事を分解し、再設計する
そこで行ったのが、仕事そのものの分解でした。
それまでの組織図は、社長がFC加盟店を担当し、専務が自社物件を担当するという、「物件の種類」で役割を分けた構造でした。
しかしこの分け方では、社長も専務も、新規の開拓から出店後の運営サポートまでをそれぞれが抱え込むことになります。狩猟型の仕事と農耕型の仕事が、一人の中に混在したままだったのです。
そこで、切り分けの軸を変えます。
社長は、FC加盟店の募集と新規出店に集中する。専務は、FC店も含めた出店後の店舗運営サポート全体に集中する。
いわば、スーツ姿で外を駆け回る仕事とエプロン姿で現場を支える仕事を、きっぱりと分けたのです。物件の種類ではなく、仕事のフェーズと強みの性質を軸に、役割を再設計しました。
■ 設計が成果を変える
この変化は、すぐに結果として現れました。
社長は新規開拓に集中できるようになり、出店のスピードが上がる。
専務は既存の運営に集中できるようになり、現場の質が安定する。
それまで相性に依存していた強みが、構造として再現されるようになっていきました。
赤を赤が映える場所に、緑を緑が映える場所に置く。それだけで、組織の景色は変わったのです。
■ 強みは設計できる
強みは、単なる相性ではありません。仕事の設計によって、発揮されるかどうかが決まります。
だからこそ順番が重要です。まず仕事を設計し、そのうえで人を生かす。この順番を守ることで、組織は再現性を持ち始めます。
■ 次回予告(最終回)
次回は、こうした変化の先に何が起きたのかを見ていきます。なぜ人が主体的に動くようになったのか。組織の中に、どのような変化が生まれたのか。
■ 今回の問い
Q:あなたの組織では、「人」に合わせて仕事をつくっていないでしょうか。
組織の中では、「たまたまできたやり方」が、そのまま標準になっていることがあります。
本来は一時的な対応だった。
たまたまその人が優秀だった。
偶然うまくいった。
しかし、その成功体験が固定化されると、
「この仕事はこういうものだ」
という思い込みが生まれていきます。
その結果、本来は別々の強みを必要とする仕事まで、一つの仕事としてまとめてしまうことがあります。
たとえば、
営業とアフターフォロー
経理と営業
倉庫管理と顧客対応
新規開拓と店舗運営
などです。
もちろん、一人の人が複数の仕事を兼務すること自体は問題ではありません。
問題なのは、
「分けられるはずの仕事」が最初から一つの仕事だと思い込まれていること
です。
ドラッカーは、「まず仕事を設計し、そのうえで人を生かす」ことの重要性を述べています。
しかし現実には、逆のことが起きがちです。
「この人ができるから」
「昔からそうだから」
という理由で、人に合わせて仕事をつくってしまう。
すると、
強みが発揮されにくくなる
属人的になる
引き継げない
人が辞めると崩れる
相性問題が増える
という状態が生まれていきます。
Eさんたちもまた、最初は「相性の良い組み合わせ」を探そうとしていました。
しかし途中で気づきます。
本当に必要なのは、
「誰と誰を組ませるか」ではなく、
「どんな仕事を、どう分解し、どう設計するか」
なのだと。
そして実際に、
・新規開拓(狩猟型)
・出店後の支援(農耕型)
という異なる性質の仕事を切り分けたことで、強みが再現性を持って発揮されるようになりました。
つまり、
強みは“気合い”で生かされるのではなく、
“設計”によって生かされる
のです。
だからこそ、問い直してみる必要があります。
その仕事は、本当に一つの仕事でしょうか。
それとも、異なる強みを必要とする仕事が混ざっていないでしょうか。
仕事を正しく分解し、設計し直すこと。
それが、人を生かし、組織の成果を変える第一歩なのです。
続きはこちら。
この一連の物語の第①話はこちらからどうぞ
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