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実践するドラッカー 実践編 第22話:強みを生かし合う組織を作る⑤(全5話)

事例5-5:「人が変わる瞬間」──主体性が強みを発揮させる

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

前回は、仕事を強みの性質で切り分け、組織を再設計していく過程を見てきました。今回はその最終回です。
構造が変わったとき、人はどう変わったのか。
その先に何が起きたのかを追っていきます。

■ 変化は静かに始まる

役割と仕事を見直したことで、まず現場の会話が変わりました。

「誰の責任か」ではなく、「どの仕事のどこで問題が起きているか」。

人ではなく仕事を見る視点が、組織の中に静かに広がっていきました。

■ 受け身でいると、弱みが出る

仕事の役割が曖昧なまま、誰かの指示を待ち、誰かのやり方を踏襲する。
そういう状態では、人は自分の強みを発揮することができません。

なぜなら、強みとは自分なりのアプローチの中で初めて発揮されるものだからです。
誰かのやり方をなぞろうとするとき、人は自分が得意ではないことを強いられます。結果として、強みではなく弱みが前に出てしまう。

さらに、人は自分のやりやすい方法を「正解」として教えがちです。良かれと思って伝えたやり方が、受け取る側には「押し付け」になる。
その結果、本来の力を発揮できないまま評価されてしまうことも起きていました。

■ 主体性は設計で生まれる

では、どうすれば人は主体的に動けるようになるのか。

答えは、精神論ではありませんでした。
環境、すなわち仕事と役割の設計によって、主体性は引き出されるものだったのです。

そのことを支えるように、ドラッカーはこう言っています。

仕事が要求するものを理解すれば、それだけ仕事を労働という人間活動に適合させることができる。

『実践するドラッカー チーム編』第5章 仕事環境を整える
/仕事を任せる際の前提条件(p.147)
(マネジメント(上) p.252)

仕事が何を求めているかが明確になれば、人はそれぞれの強みを発揮しながら、自分なりのアプローチで実現しようとします。
やり方を押し付けなくても、仕事の要求が人を動かすのです。

「自分は何に貢献するのか」が明確になったとき、人は初めて自分から仕事に向き合い始めます。
そしてそのとき初めて、強みが発揮されます。
主体的に動くからこそ、強みが出る。
受け身でいる限り、強みは眠ったままなのです。

■ 基準が変わる瞬間

あるイベントで簡易店舗を出店したとき、元気で明るい若い女性がヘルプとして入りました。
人手としての戦力でもありましたが、それ以上に、その明るさが周囲に伝わり、店全体の空気が少しずつ変わっていきました。

イベントの終盤、売れ残りの商品を見て、彼女はこう尋ねます。

「これ、どうするんですか?」

いつものメンバーが答えます。

「それくらいは、いつも最後に残って廃棄なんですよ」

すると彼女は、少し驚いたように言いました。

「もったいないじゃないですか。これ、売り切っちゃいましょうよ!」

彼女は大型のトレイに商品を入れ、帰ろうとしているお客様に声をかけ始めます。
「お土産にいかがですか?」
「お家に帰ってから、こうやって食べると美味しいですよ」

一人ひとりに丁寧に伝えながら、すべての商品を売り切ったのです。

彼女は、誰かに言われたからそう動いたのではありませんでした。
仕事が何を求めているかを自分で捉え、自分のやり方で応えた。
だからこそ、その行動は本物の熱量を持っていました。

そのときの真剣さと熱量は、その場にいたスタッフに強い感動を生みました。そしてその体験は、その場にいなかったスタッフにも、あとから自然と伝わっていきます。

翌日・・彼女は一日だけのヘルプだったので、もういませんでした。

しかし——

「最後まで売り切るのが当たり前」という基準だけが、その場に残りました。翌日のイベントでも、その次の日でも、同じ行動が続いていきます。

ここで起きていたのは、単なる売上の改善ではありません。仕事の基準が、引き上げられた。そういう変化でした。

ここで思い出されるのが、次の言葉です。

リーダーシップとは人を惹きつけることではない。惹きつけるだけでは扇動者にすぎない。友達をつくり、影響を与えることでもない。それでは人気とりにすぎない。
リーダーシップとは、人のビジョンを高め、成果の水準を高め、通常の限界を超えて人格を高めることである。そのようなリーダーシップの基盤として、行動と責任についての厳格な原則、成果についての高度の基準、個としての人と仕事に対する敬意を、日常の実践によって確認していくという組織の精神に勝るものはない。

『マネジメント(中)』第36章 成果中心の精神/真摯さ(p.111)

この場面で起きていたのは、まさにそれでした。リーダーシップとは役職ではない。自ら基準を高める行動そのものなのです。そしてそれは、主体的に動いたからこそ生まれたものでした。

■ 成果は後からついてくる

今回の一連の記事を振り返って・・
最初に変わったのは、構造でした。

やめる基準を定め、資源とエネルギーを確保する。
見ている対象を「人」ではなく「仕事」へと変える。
強みは人との関係の中で発揮されるという認識を持つ。
仕事を客観的に設計し、属人化を防ぐ。

この4つの変化が積み重なった結果として、年商は再び2億円台を回復し、減収前の水準を超えました。利益も、社内に無理をさせることなく、前年の倍の水準にまで向上します。強みを生かせる商品・サービスに特化してきた結果、利益率が高まったのです。

■ この連載を振り返って

5回にわたって見てきたEさんたちの歩みは、一言でいえば、

構造が変わり、人が変わった

という物語でした。

主体性は、精神論ではありません。
仕事と組織の設計によって生まれるものです。

そして、人が主体的に動くからこそ、強みは発揮される。
受け身のままでは、誰かのやり方をなぞるしかなく、弱みだけが残ってしまいます。

マネジメントとは、人を変えることではなく、人が主体的に動ける場を設計することなのです。そこに強みを活かし合う組織の真意があります。

■ 最後の問い

Q:あなたの組織で、「当たり前」になっている仕事の基準は、本当に高い基準でしょうか。それとも、いつの間にか慣れてしまった基準でしょうか。

組織には、いつの間にか「当たり前」になっている基準があります。

売れ残りは廃棄するもの。
ここまでできれば十分。
忙しいから仕方ない。

最初は「例外」だったものが、繰り返されるうちに、やがて基準になっていくのです。

しかし、その基準は本当に「正しい基準」でしょうか。

Eさんたちの現場でも、「最後に少し残るのは仕方がない」という空気が、当たり前になっていました。

ところが、ヘルプに来た若い女性スタッフは、その基準を受け入れませんでした。

「もったいないじゃないですか。売り切りましょうよ」

彼女は、誰かに言われたからではなく、自分で仕事の意味を考え、自分なりのやり方で行動しました。

その結果、周囲の基準が変わったのです。

重要なのは、「特別な改革」が起きたわけではないことです。

誰か一人が、“当たり前”を疑った

そこから変化は始まりました。

ドラッカーは、リーダーシップとは「成果の水準を高めること」だと言います。

つまりリーダーシップとは、役職ではなく、

「これで十分なのか?」
「もっと良くできないか?」

と問い直し、基準を引き上げる行動そのものなのです。

だからこそ、問い直してみる必要があります。

あなたの組織で「当たり前」になっている基準は、本当に高い基準でしょうか。
それとも、慣れによって固定化された基準でしょうか。

組織を変えるきっかけは、大きな改革ではなく、「当たり前」を問い直す小さな行動から始まるのかもしれません。


この一連の物語の第①話はこちらからどうぞ


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