実践するドラッカー 実践編 第98話:顧客に聞けば、仕事は変わる――ある地方バス会社の小さな実践⑦(全9話)
18-7 誰の、何の「手段」になれるか
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
一つの停留所から始まったUUバス社の営業活動。
対象を小さくしたことで、社員たちの関心も自然とそこに集まるようになりました。
「あの停留所、最近どうなんだろう」
会社全体の利用客数は、長いあいだ減り続けていました。
けれども、一つの停留所なら、自分たちの働きかけと結果の関係が見えます。
そして、現場から少しずつ変化の声が聞こえ始めました。
二人の意味
もともと、その停留所は、そのまま通り過ぎることもあるバス停でした。
ところが、ある日、運転手からこんな話が出ました。
「最近、これまで素通りしていた停留所に人が待っていて、停まることが多くなったんですよ」
「どこ?」
営業チームのメンバーがすぐに聞き返します。
それが、自分たちが働きかけていた停留所だと分かると、皆が喜びました。
すると運転手は、少し不思議そうに言いました。
「増えたといっても、三人くらいですよ」
三人。
会社全体から見れば、本当に小さな数字です。
けれども、営業チームの受け止め方は違いました。
「前は、一人いるかいないかだったんだよね?」
「だったら、少なくとも二人増えてるじゃない」
たった二人。
でも、自分たちが地域を歩き、話を聞き、働きかけた停留所で、実際に変化が起きていました。
それまで、
「路線バスで営業なんて意味があるのか」
と言っていた社員たちにとって、これは大きな出来事でした。
自分たちの行動によって、利用する人が増えることがある。
そのことを、現場の運転手の言葉で確かめることができたからです。
すると、次の発想が生まれました。
一つの停留所で二人増えた。
では、これが路線全体の停留所で起きたら、どうなるだろう。
それまで「バス停がいくつあると思っているんですか」と言っていた社員たちが、今度はその数の多さに可能性を感じ始めました。
隣のバス停、そのまた隣のバス停、と活動を横展開し始めました。
小さな成果が、次の仮説を生み始めたのです。
手段としての広がり
前回までの取り組みで、UUバス社には一つの考え方が根づき始めていました。
お客様は、バスに乗ることそのものを目的にしているわけではない。
病院へ行く。
買い物へ行く。
誰かに会いに行く。
バスは、そのための手段にすぎない。
そこで社員たちは、
「もっと多くの人にとって、役に立つ手段になれないか」
と考えるようになりました。
対象は、高齢者の通院や買い物だけではありません。
学生の通学にも目を向けました。
送迎という負担
この地域では、学校まで家族が車で送り迎えすることが珍しくありませんでした。
朝夕になると、学校前の道路は送迎の車で混み合います。
そこでUUバス社は、バスを学生の通学手段としてだけではなく、
家族を毎日の送迎から解放する手段
として考えてみました。
ここで重要になったのが、
「誰に働きかけるか」
ということでした。
バスに乗るのは生徒です。
しかし、定期券を買うか、親が車で送り迎えするかを決めているのは、生徒本人とは限りません。
むしろ、親御さんが選択している場合も多いでしょう。
ドラッカーは、こう述べています。
マーケティング的アプローチによる分析では、誰が顧客かはわからないという前提に立たなければならない。顧客とは、支払う者ではなく、買うことを決定する者である。
顧客とは決定権を持つ者、拒否権をもつ者である p.49
(創造する経営者 p.124)
仮説を確かめに行く
UUバス社の営業チームは、学校が終わる時間の、お迎えの車で混雑している学校前の道路へ出向きました。
もうこの頃には、自分たちで仮説を立て、それを現場で確かめること自体が、少しずつ面白くなっていました。
「定期購入の判断は、親御さんの影響が大きいのか、生徒本人なのか」
「定期代や送迎にかかる時間を具体的に伝えたら、反応は変わるだろうか」
そんなことを考えながら、実際に確かめに行きます。
送迎のために学校の前に停車している車を一台ずつ回り、運転席で子供たちを待っている親御さんにチラシを手渡していきました。
伝えたのは、
「お子さんをバスに乗せてください」
というお願いではありません。
定期券なら、どのくらいの費用になるのか。
毎日の送迎に使っている時間と比べると、どんな違いがあるのか。
お子さんがこの学校に進学する前、この時間帯は何をしていたのか。
つまり、
「生徒の移動手段」としてだけでなく、
「親の送迎負担を減らす手段」としてバスを提案したのです。
利用する人だけを見ていては、見つからなかった価値でした。
土日の移動
さらに考えると、高校生の移動は平日の通学だけではありません。
土日には、部活動の試合や練習で、別の高校へ行く機会が多くあります。
そこで営業チームは、また一つ仮説を立てました。
土日・祝日・年末年始に、市内の路線バスをすべて乗り放題にしたら、高校生たちの移動手段としてもっと役に立てるのではないか。
部活動の合同練習や大会で他校へ行く。
友人と映画や買い物に出かける。
図書館や病院、市役所へ移動する。
そのたびに家族に送ってもらわなくても、市内の路線を自由に使えるようにする。
ところが、このアイデアには社内から反対の声も出ました。
「乗り放題にしたら、運賃収入が減るのではないか」
一回ごとの運賃で考えれば、もっともな心配です。
それでも、実際に試してみることにしました。
高校生が開拓した路線
すると、また予想もしていなかったことが起こりました。
高校生たちは、自分たちで市内のバス路線をどんどん使い始めたのです。
「このバスに乗れば、あの学校まで行ける」
「ここで乗り換えれば、あそこへ行ける」
「この路線なら、こんな場所にも行ける」
必要に迫られて使う中で、高校生たちは、自分たちで路線バスの使い方を開拓していきました。
そして、
その知識は高校生の中だけにとどまりませんでした。
家族や、周囲の大人たちに、
「そこなら、このバスで行けるよ」
「ここで乗り換えればいいよ」
と、バスの利用方法を教え、広めてくれるようになっていきました。
これまでUUバス社が一生懸命説明していた路線の使い方を、
今度は利用者自身で周囲に広めてくれるようになったのです。
利用者が使い方をつくる
ここにも、UUバス社にとって大きな発見がありました。
会社がすべての利用方法を考え、説明しなければならないわけではありません。
使いやすい条件を整えると、お客様自身が新しい使い方を見つけてくれる。
高校生たちは、
「バスに乗ってほしい」と説得されたから動いたのではありません。
自分たちにとって使える手段になったから、使い始めました。
そして、使う中で新しい経路や便利な使い方を発見し、それを他の人に伝えていきました。
最初は、
「乗り放題にすれば、一人あたりの運賃収入が減るのではないか」
という見方がありました。
しかし、実際に起きたのは、
利用できる場面そのものが増える
という変化でした。
一回ごとの運賃だけを見るのではなく、
お客様にとって、どれだけ使える手段になっているか。
見るものが変われば、打ち手も変わります。
そして・・・定期券を利用する学生も増えていきました。
同級生にも定期券の購入を薦めてくれていたのです。
変わった営業チーム
そして、ここにはもう一つ大きな変化がありました。
最初の頃、社員たちは、
「路線バスの営業なんて、何をすればいいのか分からない」
と言っていました。
町中で「バスに乗ってください」と声をかけるのか。
そんなことに意味があるのか。
そこから始まったのです。
しかし今では・・
誰が決めているのか。
何に困っているのか。
どんな条件なら使いたくなるのか。
どんな価値を伝えれば反応が変わるのか。
自分たちで仮説を立て、外に出て確かめるようになっていました。
結果が返ってくる。
そこからまた次を考える。
仮説を立て、試し、反応を見ること自体が、
営業チームの仕事になり、楽しさにもなり始めていました。
これは、利用客数とは別の意味で、UUバス社に起きた大きな変化だったのかもしれません。
誰の成果か
以前のUUバス社が見ていた成果は、
「自社のバスに何人が乗ったか」
でした。
もちろん、それは大切な数字です。
しかし、お客様の側から考えると、成果はそれだけではありません。
高齢者が、自分の都合で病院へ行けた。
家族に気兼ねせず買い物へ行けた。
学生が自分で学校へ通えた。
親が毎日の送迎に使っていた時間を、別のことに使えるようになった。
高校生が、自分たちで地域の移動方法を見つけ、周囲の人に教えるようになった。
こうした変化も、バスという手段が生み出した成果です。
UUバス社は、
「何人乗ったか」だけでなく、「誰の何が変わったか」
を見るようになっていきました。
そして、その視点を持つほど、
「バスは、まだ誰の、どんな手段になれるだろう」
という問いが広がっていきました。
【今日の質問】
Q:あなたの商品やサービスが、利用する人以外の誰の負担や不便を減らす、あるいは喜びや満足を増やす「手段」になっているとすれば、どんなことでお役に立っていると思いますか?
商品やサービスを使う人だけを見ていると、顧客は一人に見えます。
しかし、その周囲には、
買うことを決める人。
費用を負担する人。
時間を使っている人。
その人を支えている人。
がいるかもしれません。
さらに、使いやすい条件を整えれば、お客様自身が、こちらの想定していなかった新しい使い方を発見してくれるかもしれません。
誰が使うのか。だけではなく、
誰の、何を変える手段になれるのか。
そこまで視野を広げてみると、同じ商品やサービスから、これまでとは違う価値が見えてくるかもしれません。
~次回予告~
「誰の手段になれるか」という
「手段提供業」として考え続けたUUバス社。
次に生まれたのは、お客様がまだ思いついていない「行く目的」そのものを提案するという発想でした。
UUバス物語の第①話はこちらから
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
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