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実践するドラッカー 実践編99:顧客に聞けば、仕事は変わる――ある地方バス会社の小さな実践⑧(全9話)

18-8 「手段提供業」から「目的提案業」へ進化させる

UUバス社は、地域の人たちに聞きながら、自分たちの仕事を少しずつ変えてきました。

最初から、答えが分かっていたわけではありません。

「なぜバスに乗らないのか」と聞く。
返ってきた答えをもとに、小さく試す。
反応を見る。
また聞く。

その繰り返しでした。
ドラッカーは、こう述べています。

顧客にとっての価値はあまりに多様であって、顧客にしか答えられない。したがって、答えを推察してはならない。直に聞かなければならない。

『実践するドラッカー[事業編]』第3章 マーケティングを問い直す
顧客に聞く p.78
(マネジメント〈上〉 p.109)

UUバス社も、会社の中で、
「お客様はきっとこう思っている」
と考えることから離れていきました。

外へ出る。
直接聞く。
そこで得たことを試してみる。

その積み重ねによって、地域の人たちが、

どこへ行きたいのか。
何に困っているのか。
誰が移動を支えているのか。
どんなときにバスが役に立つのか。

少しずつ分かるようになっていきました。

手段提供業としての蓄積

UUバス社は、
「路線バスサービスを売っている会社」から、
「人々の目的を実現するための手段を考える会社」
へと変わっていきました。

これは、考え方だけの変化ではありません。

実践を重ねる中で、
「この地域から病院へ行くなら、こう使える」
「この時間なら、この乗り継ぎがよい」
「この人には、こう伝えれば利用しやすい」
といった知識が、会社の中に蓄積されていきました。

路線バスそのものは、以前からありました。

しかし、
地域の人たちの生活と、路線バスを結びつける知識
は、実践の中で少しずつ磨かれていったのです。

どこへ行きたいのかを聞く
そのために最も使いやすい方法を考える。
不安があれば取り除く。
利用する人だけでなく、その周囲で負担している人にも目を向ける。

UUバス社は、いわば、
「手段提供業」として事業を極めていったのです。

そして、そこまで顧客の目的と向き合ってきたからこそ、次の問いを持てるようになりました。

「どこへ行きたいですか?」の先

これまでは、
「どこへ行きたいですか?」
と聞いてきました。
目的が分かれば、そこへ行くための手段を考えることができます。

しかし、地域の人たちの暮らしや移動について知識が蓄積されてくると、UUバス社の側にも見えてくるものが増えてきます。

こんな場所がある。
こんな楽しみ方ができる。
この路線とこの施設を組み合わせれば、こんな一日を過ごせる。

そこでU社長たちは考えました。
手段を提供するだけではなく、
目的そのものを提案できないだろうか。

「どこへ行きたいですか?」
と聞くだけではなく、
「ここへ行ってみませんか?」
と提案する。

手段提供業としての経験を積んだからこそ、
その先に「目的提案業」という発想が生まれました。

「こんな一日は、いかがですか」

地域には、すでにさまざまな魅力がありました。

温泉。
飲食店。
観光施設。
季節ごとの景色。

それぞれは、バス会社がつくったものではありません。
UUバス社が考えたのは、
それらをお客様の一日の過ごし方として組み合わせることでした。

たとえば、
「この路線バスに乗って、温泉へ行きませんか」
「そこで食事をして、夕方にはこの便で帰れます」
というように、

移動そのものではなく、その先にある体験を提案する。
こうして、「路線バスを使った日帰りのレジャー企画」が生まれていきました。

主役はバスではない

ここでも、考え方は一貫しています。
主役は、路線バスではありません。

温泉へ行くこと。
おいしいものを食べること。
地域を楽しむこと。

そこで過ごす時間そのものです。
路線バスは、その目的を実現するための脇役です。

以前なら、
「どうすればバスに乗ってもらえるか」
を考えていました。

今は、
「どんな時間を過ごしてもらいたいか。
 そのためにバスをどう使えるか」
と考えます。

順番が逆になりました。
「バスに乗ってください」
ではありません。

「こんな一日はいかがですか。
 そのための手段として、私たちのバスがあります」
という提案です。
自社の商品を主役から降ろしたことで、かえって自社の商品が役に立つ場面は増えていきました。

目的を提案する会社へ

この変化は、単なる旅行商品の開発ではありません。
UUバス社の仕事そのものの捉え方が変わったということです。

最初は、
「バスをどう売るか」
を考えていました。

次に、
「お客様の目的を、バスでどう実現するか」
を考えるようになりました。

そして今度は、
「お客様に、どんな新しい目的を提案できるか」
を考えるようになりました。

手段から考えるのではなく、顧客の生活から考える。

その中で、
「こんなこともできる」
「こんな場所へも行ける」
「こんな一日も過ごせる」
という、新しい選択肢をつくっていく。

UUバス社は、
手段提供業】から、【目的提案業】へ
仕事の幅を広げていったのです。

約40年ぶりの変化

一つの停留所から始めた営業活動。
小さく試す。
思いがけない反応を見る。
ノンカスタマーに理由を聞く。
顧客の目的を知る。
その目的を実現する手段を磨く。

そして、目的そのものを提案する。
一つひとつは、小さな実践でした。
しかし、その積み重ねによって、長いあいだ減り続けてきたUUバス社の利用客数は、ついに増加へ転じました。

約40年間続いていた減少が止まり、増加するようになったのです。
重要なのは、最初からこの結果を描けていたわけではないことです。

一つ試してみる。
反応を見る。
そこから次を考える。
また試す。

その繰り返しでした。
会社の数字が変わる前に、
顧客の見方が変わりました。
仕事の見方が変わりました。

そして、
社員たちの行動の仕方が変わりました。
その結果として、数字も変わっていったのです。

【今日の質問】

Q:あなたの商品やサービスがあるからこそ、お客様にどんな新しい「目的」を提案できますか?

まず、「自分たちは何を売っているか」ではなく、
「誰の、何を実現する手段になっているか」を考えてみます。

そして、その手段について知識や経験を積み重ねていくと、
今度はこちらから、
「こんなこともできるのではありませんか」
「こんな時間を過ごしてみませんか」
と、新しい可能性を提案できるかもしれません。

顧客に聞き、
手段として役立つ力を磨く。
その先に、
顧客自身もまだ思いついていない目的を、一緒につくる仕事
が生まれるのかもしれません。

~次回予告~

約40年続いた利用客の減少を、ついに増加へ転じたUUバス社。
しかしU社長が最後に見つめるようになったのは、利用客数だけではありませんでした。
この会社を通じて、次の世代に何を残していくのか。
その問いは、亡き父への思いへとつながっていきます。


UUバス物語の第①話はこちらから

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

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