実践するドラッカー 実践編 第6話:理系後継者が試したマネジメントの体系的実践⑥(全6話)
事例1-6 [利益編]の実践~そのミッションは組織を一体化させるか
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
「何ができるか」ではなく、
「何に自社の強みを生かすのか」。
4年目の[事業編]で、Aさんは自社の強みと、事業を選ぶ軸を言葉にしました。
そして5年目。
シリーズ最後の一冊は、『実践するドラッカー 利益とは何か』(通称[利益編])でした。
経営者にとって、「利益」はとても身近な数字です。
前年より増えたのか、減ったのか。
税金をどれくらい払うのか。
借入を返していけるのか。
次の設備投資に回せるのか。
Aさんにとっても、それまでは大きく違いませんでした。
もちろん、利益は多い方がいい。
赤字より黒字の方がいい。
けれど[利益編]を読み進めるうちに、少し違う問いが生まれます。
そもそも、私たちは何のために利益を出すのだろう。
利益を増やした先に何があるのか。
残した利益を何に使うのか。
その問いはやがて、
「何のために、この会社を続けるのか」
へとつながっていきました。
■利益は、目的ではなく条件
この頃になると、数年間の実践が少しずつ業績にも表れ始めていました。
自分の強みに集中する。
未来のために時間を使う。
人の強みを生かして仕事を担う。
自社の強みを言葉にし、事業を選ぶ。
活動が先に変わり、その結果が遅れて数字に表れる。
Aさんは、**「活動が先行し、業績は遅行する」**ことを実感し始めていました。
だからこそ、「もっと利益を増やす」だけではなく、利益そのものの意味を考えられるようになったのかもしれません。
ドラッカーはこう述べています。
利益は、個々の企業にとっても、社会にとっても必要である。しかしそれは、企業や企業活動にとって、目的ではなく条件である。
利益は目的ではなく条件である p.6
(『マネジメント(上)』p.71)
利益は必要です。
けれど、それ自体が会社の目的ではありません。
利益そのものを目的にすれば、目先で儲かる仕事を追い、値引きをしてでも量を取り、将来への投資を先送りする判断に傾きやすくなります。
それでは、4年間かけて整えてきた会社が、また「できそうな仕事を何でも引き受ける会社」に戻ってしまいます。
では、利益は何のために必要なのか。
■利益は「種もみ」
Aさんに強く残ったのが、利益を「種子」と捉えるドラッカーの言葉でした。
農民にとっての種子が、余剰であっても利益ではないことは誰もが知っている。しかし経営管理者を含め、誰も、営業報告書に記載されていた利益が利益でないことを知らない。それは種子である。まだ支払われていないものの、事業継続のためのコストである。
なぜ「利益は存在しない」のか p.117
(『乱気流時代の経営』p.35)
農家が収穫した穀物をすべて食べてしまえば、翌年の作物はありません。
次の年にも育てるためには、種を残しておかなければならない。
利益も同じです。
利益は、会社に残った「余り」ではない。
次の貢献を生み出すために残す「種もみ」なのだ。
そう考えると、
「いくら残ったか」
だけではなく、
「この利益を使って、次に何を生み出すのか」
という問いになります。
そして、さらに一つ先の問いが生まれました。
では、何を育てるための種なのか。
■「何のために会社を続けるのか」
その問いから、Aさんは自社の理念やミッションを改めて見直しました。
ミッションの価値は文章の美しさにあるのではない。正しい行動をもたらすことにある。
そのミッションは正しい行動をもたらすか p.51
(『非営利組織の経営』p.2)
立派な言葉を掲げるだけでは意味がありません。
その言葉によって、何をするのか。
何をしないのか。
何に利益を使うのか。
日々の意思決定が変わってこそ、ミッションです。
AA建設グループでは、以前から地域へのさまざまな活動を行っていました。
農業を基盤として発展してきたこの地域を、仕事だけでなく暮らしや文化の面でも豊かな場所にしたい。
そのために、自分たちができることをする。
この思いが社内で共有され、社外にも伝わるようになると、思いがけない縁が生まれました。
■「いくらでも構わない」
あるとき金融機関から、M&Aの話が持ち込まれました。
相手は、AA建設グループと技術的にも近い土木建設会社です。
地域は違いましたが、業績も財務状態も良好でした。
売却の理由は、後継者不在。
Aさんも興味を持ちましたが、一つ気になっていました。
これだけ良い会社なら、譲渡価格はいったいいくらになるのか。
ところが二度目の面談で、相手の経営者がこう話しました。
「もし譲渡価格で迷っているのであれば、私たちはいくらでも構いません。
あなたたちの会社が志していることを調べました。それは、私が長年この会社で実現したいと思ってきたことでもあります。
これまで私たちが築いてきたものが、その実現に役立つのであれば、それが一番いいと思っています」
Aさんにとって、思いがけない言葉でした。
自分が見ていたのは、譲渡価格でした。
しかし相手の経営者が見ていたのは、
「この会社をいくらで売るか」ではなく、
「この会社を、これから何のために生かしてもらうか」
だったのです。
目指すものが同じなら、価格が多少変わっても本質は変わらない。
自分たちが築いてきた会社が、これからも願ってきた方向へ生かされることの方が大切だったのです。
■共通の使命は、合併後にこそ効いた
この一致が本当に力を発揮したのは、M&Aの後でした。
会社が一つになれば、仕事の進め方も制度も習慣も違います。
「どちらのやり方を残すのか」
と考えれば、対立はいくらでも生まれます。
しかし、この二つの会社には最初から、
「何のために一緒になるのか」
という共通点がありました。
ドラッカーはこう述べています。
明確かつ焦点の定まった共通の使命だけが、組織を一体とし、成果をあげさせる。
そのミッションは組織を一体化させるか p.44
(『ポスト資本主義社会』p.72)
だから意見が違っても、
「どちらが正しいか」ではなく、
「共通の使命を果たすために、それぞれの強みをどう生かすか」
と考えることができました。
その結果、統合はAさんが想像していた以上に円滑に進みました。
契約条件が、二つの会社を一つにするのではない。
同じものを目指しているという実感が、二つの組織を一つにしていく。
Aさんは、そのことを実際の経営を通して確かめることになりました。
■5年間で手にしたもの
振り返れば、Aさんの5年間の実践は、少しずつ問いを広げてきた5年間でもありました。
1年目は、自分の強みを知る。
2年目は、何に時間を使うかを選ぶ。
3年目は、人の強みを組み合わせる。
4年目は、自社の強みを生かす事業を選ぶ。
5年目は、この組織を、何のために使うのかを定める。
その積み重ねの結果として、営業利益は約3倍になりました。
しかし、本当に大きかった変化は数字ではなかったのかもしれません。
故郷に戻った当初、Aさんはどこかで、
「父ならどうするだろう」
と考えながら経営していました。
それが5年後には、
「自分たちは、何を大切にするのか」
「何のために、この会社を経営するのか」
と考えるようになっていました。
三代目として会社を受け継いだAさんが、5年間かけて手にしたもの。
それは、父親の経営を再現する方法ではありません。
自分たち自身の経営をつくるための軸でした。
【今日の問い】
Q:あなたの会社がミッションに忠実に行動するとすれば、手間やコストをかけてでもやることは何でしょうか。逆に、売上につながっても、やらないことは何でしょうか。
利益を会社の目的と考えるのか。
それとも、ミッションを果たし続けるための「種もみ」と考えるのか。
その違いは、日々の意思決定に表れます。
何のために利益を生み、残すのか。
そのために何を守るのか。
そして、残した種もみを次に何へ投資するのか。
Aさんの5年間は、ここで一区切りです。
しかし、マネジメントの実践に完成はありません。
成果を振り返り、次の問いを立て、また実践する。
『実践するドラッカー』――その名の通り、学びはここからまた続いていきます。
この一連の物語の第①話はこちらからどうぞ。
次に読む物語を探す方はこちらかどうぞ。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!