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実践するドラッカー 実践編 第4話:理系後継者が試したマネジメントの体系的実践④(全6話)

事例1-4[チーム編]の実践~仕事を定義したからチームが作れた

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

飛行機の中で、「個別の判断を減らす意思決定」を考えるようになったAさん。

自分の強みが見え、意思決定の型も整ってきました。
しかし、ここで次の壁にぶつかります。

原則や仕組みがあっても、
それを担う仕事の定義が曖昧なら、組織は再び人に依存してしまいます。

3年目、Aさんが向き合ったのは、
「マネジャーの仕事を、どう定義し、誰に任せるのか」
という問いでした。


■構造の次に必要だった仕事の設計

思考編では「自分の型」を整えました。
行動編では「意思決定の型」を整えました。

そして3年目、Aさんは『実践するドラッカー』シリーズ3冊目、[ チーム編]に取り組みます。

ここで改めて見えてきたのが、入社以来続いていたベテラン社員との衝突でした。

当初は、
「世代が違うから」
「価値観が違うから」
だと思っていました。

しかし、少しずつ別の見方ができるようになります。

問題は、人そのものではないのではないか。
何が仕事で、何が成果で、誰がどこまで責任を持つのかが曖昧なのではないか。

そう考えると、これまでの衝突の見え方が変わりました。


■人の問題に見えていた仕事の問題

会社の中には、こんな曖昧さが残っていました。

何が成果なのか。
誰が最終責任を持つのか。
どこまで決めてよいのか。
誰が誰を支援するのか。

これらが明確でないと、人は善意や経験で穴を埋めます。

経験豊富な人がいれば、その人に頼る。
困ったら声の大きい人に聞く。
調整の上手い人が、見えないところで何とかする。

それでも仕事は回ります。

ただ、それは仕組みで回っているのではありません。

個人の能力に、組織が寄りかかっている状態です。

Aさんは、行動編で「判断の構造」をつくったからこそ、次はその構造を担う「仕事」を設計する必要があると考えました。


■マネジャーに共通する5つの仕事

チーム編でAさんが改めて向き合ったのが、ドラッカーの示す「マネジャーの5つの仕事」でした。

あらゆるマネジャーに共通の仕事は五つである。①目標を設定する。②組織する。③動機づけとコミュニケーションを図る。④測定評価する。⑤人材を開発する。

『実践するドラッカー チーム編』第1章 チームで働くということ
マネジャーの仕事 p.24
(エッセンシャル版 マネジメント p.129)

[チーム編]では、この5つを軸に章を分けて、マネジャーに仕事の一つ一つの原理原則を解説しています。
この5つを自分の実務に当てはめたとき、Aさんにははっきりした違いが見えました。

目標を設定する。
仕事を組織する。
成果を測定する。

こうした「仕事のマネジメント」は、自分が比較的自然に取り組める領域でした。

複雑なものを整理し、構造をつくる。
これは、思考編で見つけた自分の強みともつながっています。

一方で、

人を動機づける。
日常的にコミュニケーションを取る。
人を育てる。

といった「人のマネジメント」は違いました。

自分なりに努力してきたつもりです。
しかし、振り返ってみれば、
無理をして平均点を取りにいっていた
のだと気づきました。


■「任せる」前に必要だった仕事の定義

そこでAさんは、「5つの仕事を自分が全部担う」という前提を手放しました。

ただし、いきなり人に振り分けたわけではありません。

先に行ったのは、
マネジャーの仕事そのものを分解し、一つひとつを定義すること
でした。

たとえば、

この仕事は、何のために行うのか。
どこからどこまでが、この仕事なのか。
誰に対して、どんな働きかけをするのか。
その結果、どんな状態が生まれていれば成果といえるのか。

それを一つずつ整理していきました。

「動機づけ」も同じです。
単に「部下のやる気を出させる」と言ってしまえば、曖昧です。

Aさんが考えたのは、
社員が、自分の仕事の意味を理解し、自分の役割を自分ごととして引き受け、周囲に言われなくても成果に向けて動こうとしている状態
でした。

そこまで言葉にできると、初めて「動機づけ」が一つの仕事として見えてきます。

そして同時に、Aさんには別のことも見えてきました。

自分は、その状態をつくるのが得意ではない。

理屈を説明することはできる。
目標や役割を整理することもできる。

しかし、相手の気持ちを汲みながら声をかけたり、日常の小さな変化に気づいたり、一人ひとりが前向きになるよう関わり続けたりすることは、どうしても得意ではありませんでした。

仕事を定義したからこそ、
「自分にはできていないこと」まで、はっきり見えた
のです。


■「あなたたちの方が、うまくできている」

では、その仕事を誰に任せるのか。

Aさんは、飛行機での移動中にも何度も考えました。

現場を預けられるのは誰か。
営業を束ねられるのは誰か。

単に仕事ができるだけでは足りません。

周囲から信頼されているか。
会社の原則を共有できるか。
人の変化に気づけるか。
自然に周囲を巻き込めているか。

そうして見ていくと、候補になる人が見えてきました。

各社から二人ずつ。

現場から一人。
営業から一人。

彼らは、Aさんとはタイプの違う人たちでした。

現場で人に声をかける。
困っている社員に自然に手を差し伸べる。
周囲が動きやすいように空気を整える。

Aさんから見ると、

自分が苦労してやっていることを、彼らは自然にやっている

ように見えました。


■弱みと期待の言語化

Aさんは、選んだ二人と会議室に入りました。

そして、こう伝えました。

Aさん)「マネジャーの仕事には、仕事のマネジメント人のマネジメントがあります。
きっと父は、両方できたのかもしれません。

私は、仕事のマネジメント、つまり、適切な目標を設定したり、仕事を組み立てたり、効果を測る仕組みをつくることは比較的できるようです。
でも、人のマネジメントは、正直なところ十分にできていません。

私は、社員が自分の仕事の意味を理解して、主体的に働ける状態をつくりたいと思っています。
けれど、残念ながら、私はその状態をうまくつくれていません。
むしろ、普段のみなさんを見ていると、あなたたちの方が、私よりずっとうまくできているように見えます。

だから、その仕事をあなたたちに任せたいのです。
この会社を良い会社にするために、力を貸していただけませんか。」

そう言って、Aさんは頭を下げました。

これは単なる「苦手なのでやってよ」という依頼ではありません。

どんな状態をつくりたいのかを明示し、その仕事の意味を共有したうえで、自分より強みを持つ相手に敬意を払って託したのです。
だからこそ、任せられました。


■仕事が定義されているから任せられる

「人に任せる」と言うのは簡単です。

しかし、
「この辺をよろしく」
「人のことは任せるから」

では、任された側も何を目指せばよいか分かりません。
それは委任というより、丸投げに近くなります。

仕事として、
何のために行うのか。
何をしてほしいのか。
どんな状態を成果とするのか。
が明確になっていれば、担い手はその成果に向かって、自分なりの強みを使うことができます。

Aさんが任せることができたのは、弱みを認めたからだけではありません。

その前に、
「何を任せるのか」を仕事として定義していたから
でした。


■マネジメントチームの誕生

実のところ、その二人は、もともとAさんと考え方が近い人たちではありませんでした。

理論的に考えるAさんと、現場感覚を大切にする二人。
これまでなら、意見が合わない場面もあったはずです。

だからこそ、Aさんが頭を下げたことには意味がありました。
「この役職をやってほしい」という人事上の指示ではありません。
「自分にはない力が、あなたにはある」
と認めたうえで、仕事を委ねたのです。

二人にとっても、それは受け取り方の違う依頼になりました。

「部下として指示された」のではなく、
「パートナーとして任された」。

そこから、二人の動きが少しずつ変わり始めました。

会議での発言が増える。
現場と営業の橋渡しを自ら行う。
周囲の社員への声かけが増える。
会社で決めた原則を、自分の言葉で伝える。

仕事の意味を理解し、自分の強みで担えるようになったからです。


■真摯さという土台

この出来事を振り返るとき、ドラッカーの次の言葉が重なります。

マネジャーにできなければならないことは、そのほとんどが教わらなくとも学ぶことができる。しかし、学ぶことができない資質、(中略)初めから身につけていなければならない資質が一つだけある。才能ではない。真摯さである。

実践するドラッカー チーム編』第1章 チームで働くということ
/真摯さを欠いてはいないか p.22
(マネジメント《エッセンシャル版》p.147)

自分の弱みを認める。
相手の強みを認める。
そして、何を実現したいかを正面から伝える。

その真摯さが、チームの土台になりました。


■人ではなく、仕事の担い方の変化

この頃、売上や利益が劇的に伸びたわけではありません。
数字として見える変化は、まだ小さなものでした。

それでも、組織の中には少しずつ安定感が生まれます。

社長に持ち込まれる案件が減る。
会議が短くなる。
現場からの個別相談が減る。

Aさんがいなくても、マネジャー同士で話し、判断し、周囲を動かせることが増えていきました。

重要なのは、
「優秀な人に入れ替えた」わけではない
ということです。

仕事を分解し、目的と成果を定義し、
その仕事を強みとして担える人に配置し直した。

人が変わったのではありません。
仕事の設計と、その担い方が変わったのです。

一人の人間に、何でもできることを求めない。

そのために、必要な仕事を分解する。
それぞれの目的と成果を明確にする。
そして、その仕事を最も強みとして担える人に任せる。

強いチームとは、「同じタイプの優秀な人」を集めることではありません。
異なる強みを持つ人たちが、同じ成果に向かって、それぞれの仕事を担える状態なのだとAさんは考えるようになりました。


【今日の問い】

Q:あなたのチームの中で、あなたとはまったく違う視点や発想で、チームを支えてくれている人は誰でしょうか?

その人に任せたい仕事について、
「何をしてほしいか」ではなく、
「何のための仕事で、どんな状態をつくってほしいのか」
まで説明できるでしょうか。

仕事の目的と成果が明確になれば、
「自分がやらなければならない」
と思い込んでいた仕事の中にも、
「この人の方が、ずっとうまくできる」
と気づくものがあるかもしれません。

~次回予告~

次回は4年目[事業編]。

チームが整い、組織として意思決定できるようになってきたAさん。
ところが今度は、会社に次々と新しい事業機会が集まり始めます。

そこで新たな問いが生まれました。
「できそうなことは増えている。
でも、そもそも私たちの会社の強みとは何だろう。」

その答えを探すため、Aさんは会社の創業記録を掘り起こすことになります。


この一連の物語の第①話はこちらからどうぞ。


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