実践するドラッカー実践編 第36話:母の背中を見てきた私が、隣で考えるようになるまで —女性社長と娘の10年の対話④(全6話)
事例7-4 母の中にあった"マネジメント"が動き出したとき—ドラッカー嫌いだった母に起きた変化
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
■ 位置と役割の変化
前回、自分にできる最適な貢献を考え続けて行動したGさん(女性)は、
「何者でもない自分」から、
「ホームページ改訂の担当者」へ、そして
「経営理念プロジェクトのリーダー」へと、
少しずつ立ち位置と役割を変えていきました。
それは、誰かに命じられて与えられたものではありません。
全体を見渡しながら、自分はどんな貢献をするべきかを考え続けた結果、自然とその役割を担うようになっていたのです。
■ 変化は連鎖する
Gさんが変わる。すると、周囲が変わる。
その変化は、母親にも影響していきます。
それまで母親は、社員に対して、
「なんでこうなるのか」
「また同じことをやっている」
といった言い方をすることが多くありました。
しかしこの頃から、少しずつ言葉が変わります。
「〇〇さんは、こういうところがいいよね」
「その強みを活かしてほしい」
言い方はまだぎこちないところもありましたが、明らかに「人の強みに目を向ける関わり」へと変わっていました。
■ きっかけは、小さな問いだった
もともと母親は、ドラッカーに対して強い関心を持っていたわけではありませんでした。
むしろ、
「小難しいことばかり言っている」
と距離を置く様子を見せていました。
そんな母親が、ある日曜日の朝、ふとこう尋ねてきます。
「"あんたが勉強しているやつ"に、こんな問題についての話もあるのか?」
意地でも“ドラッカー”とは口にしようとしない母親に、Gさんは苦笑します。
けれどそれは、自分の悩みに対するヒントを探している問いでした。
話を詳しく聞くと、悩んでいたのは、後継者と組織体制のことでした。
■ 行動は、すぐに現れた
Gさんは、付箋をつけて一冊の本を渡します。
『ドラッカーを読んだら会社が変わった!(日経BP社:佐藤等氏共著)』
「ここにヒントになることが書いてあると思う」
そういって手渡しましたが、正直に言えば、
「読むだろうか」という思いもありました。
しかし翌朝、変化はすぐに現れました。
「トップの仕事は、“今日と違う明日をつくること”だ」
朝礼で、母親がそう語っていたのです。
トップ本来の仕事は、昨日に由来する危機を解決することではなく今日と違う明日をつくり出すことであり、それゆえに、常に後回しにしようと思えばできる仕事である。状況の圧力は常に昨日を優先する。
状況の圧力に流されてはいけない・・・。
前日に読んだばかりの言葉のはずですが、それをそのまま現場に持ち込んでいました。
■ 現場での関わりが変わる
それからも、母親の行動はさらに続きます。
「ホームページに書いた経営理念、ちゃんと読んでるかい?」
そう社員に問いかけ、その意味を自分の言葉で語りはじめます。
さらに、『実践するドラッカー チーム編』を手にしながら、
「ここにこういうことが書いてあるんだ」
と、営業や事務の社員に話しかけて回っていました。
昨日知ったばかりのことでも、使えるものはすぐに実践に使う。
その行動の速さに、Gさんは母親の強みを感じていました。
■ すれ違いと変化
しかし、すべてが順調だったわけではありません。
あるとき、親子で衝突が起きます。
次期社長候補であった部長や課長への接し方についてでした。
母親は、自分と同じような強いリーダーシップを求めていました。
しかしGさんは伝えます。
「同じやり方を求めるべきではない」
「その人の強みを活かすべきだ」
マネジメント教育は、人の性格を変え、人を改造するためのものではない。成果をあげさせるためのものである。強みを存分に発揮させるためのもの、人の考えではなく自らの考え方によって、存分に活動できるようにするためのものである。(中略)
もともとわれわれは、成人の人格を変える方法など知るわけもない。
経営者に限らず、上司は自分のコピーをつくりたがるものです。
しかし、うまくいってもせいぜいが「一回り小さな縮小版コピー」もしくは「劣化版コピー」ができるだけです。
コピーが本物に匹敵することはなく、異質性の中からこそ活力は生まれます。
その場では、結論は出ませんでした。
しかしその後、母親の関わり方は変わっていきます。
それまで、社員の席まで行き、立ったまま上から叱責していたスタイルが、
「ちょっと来てくれる?」と自分の席に呼び、
「こういう気遣いができる人に育ってほしいから言うんだけど……」
と伝えるスタイルへと変わっていったのです。
■ 内面の揺れ
その年のクリスマス。
家に帰ると、母親が居間で本を読んでいました。
あれほど距離を置いていたドラッカーの本を、
真剣な表情で読み込んでいます。
「5年前にこれを知っていたらなぁ…」
「何か変えないと…」
むさぼるように、本を読み続けていました。
■ 下からのマネジメント
この一連の変化を通して、Gさんは気づきます。
母親は、突然変わったわけではなかった。もともと持っていたものが、言葉や出来事によって引き出されていたのだと。
そしてGさん自身もまた、自分の役割を考えるようになります。
「学びをすぐに行動に転化させる」という母親の強みを活かすために、自分には何ができるだろうか。
この頃から、Gさんは自分の立場をこう捉えるようになります。
「自分は人に指示を出すタイプではない」
だからこそ、
「周囲の人の一人ひとりに対して"どうすればこの人が力を発揮できるか"を考え続けよう。それこそが自分の役割なのではないか」
そう考えるようになりました。
たとえば、
数字に強い一方でパソコンは得意ではない母親に対しても、
「この人が得意分野である数字に専念できるようにするには、自分は何をすればよいのか」
と考えるようになっていきました。
■”マネジメント”の語源は「馬を馴らす」
そんなときに「マネジメント」という言葉の語源を知ります。
もともとはイタリア語で「馬を馴らす」という意味の言葉から転じて、物事をうまく処すという意味に転じたと。
野生の馬の警戒心を解いて親しみ、
人間を乗せても振り落とさないように躾をし、
騎手の意思通りに動くよう調練するが、
それがゴールではなく、最終的には、
騎手の意思を超えて人馬一体に動く理想を目指す。
この「馬」を「組織」と考えるなら、
マネジメントのスタイルも状況や段階によって適合するものがあり、一つだけ知っていればよいわけではありません。
自分のスタイルにこだわるだけではうまくいかない。
状況や必要とされる機能、役割に応じて、自分のスタイルを変えるだけでなく、自分とは異なるスタイルでマネジメントできる人との協力関係が欠かせない。
そう考えるようになりました。
いま母親は、自分がやってきたスタイルを変えようとしている。
ならば、自分はそれを助けよう。
Gさんは、そう心を決めました。
■今日の問い
Q:あなたの“マネジメント”は、どんな言葉によって支えられていますか。
人は、自分の中にある価値観や徳性をもとに行動します。
しかし、それが言葉になっていないと、状況に流され、揺らぎやすくなります。
あなたが迷ったとき、立ち返る言葉は何でしょうか。
■続きの物語はこちらから
このGさんの物語の第①話はこちらから
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