実践するドラッカー実践編 第33話:母の背中を見てきた私が、隣で考えるようになるまで —女性社長と娘の10年の対話①(全6話)
事例7-1 わたしは何者でもなかった—社長の娘として揺れた私が踏み出した一歩
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
■ 母の背中を見て育ったということ
県内で2番目に大きな都市。
町のはずれには新幹線も停まります。
そこに、機械や部品の製造販売を手がける「GG社」がありました。
従業員は25名。
決して大きな会社ではありませんが、
地域の中で50年近く事業を続けてきた会社です。
Gさん(女性)は、この会社を営む母親の背中を見て育ってきました。
40年前、創業者である父親が突然この世を去り、
まだ幼い娘を二人抱えながら、母親は会社を引き継ぎました。
当時はまだ、男ばかりの世界。
その中で若い女性が会社経営を担うことは、並々ならぬ苦労があったはずです。
Gさんは、そんな母親に感謝し、尊敬していました。
一方で、ずっと背中ばかり見てきたからこそ、近いのに遠い存在でもありました。
■ 「ちょっと手伝いなさい」と言われて
外で働いていたGさんがこの会社に入ったのは、10年前。
何か明確な志があったからではありませんでした。
「事務の人が足りないから、ちょっと手伝いなさい」
その一言がきっかけでした。
よくあるような「会社を継ぐため」なんてニュアンスは、まったくありませんでした。
あくまで“手伝い”に近い関わりからのスタートだったのです。
■ 「何者でもない自分」と向き合う
もともとGさんは、化粧品会社でインターネット企画の仕事をした後、
個人事業主としてマッサージ業の仕事をしていました。
「マッサージのGさん」
「アロマテラピーのGさん」
そう呼ばれることに違和感はなく、
それが自分自身のアイデンティティだと感じていました。
しかし、会社に入ると状況は一変します。
マッサージ&アロマテラピーで個人事業主であった時代にも、経理や総務の仕事は多少経験していました。
しかし、規模も業界もまったく違います。
一人で完結していた仕事が、
組織の中で役割として求められる仕事に変わったのです。
これまでの経験がそのまま生きるわけではなく、
自分の強みも発揮できていないように感じられました。
「この仕事に向いていないのではないか」
「何もさせてもらえていないのではないか」
Gさんは次第に違和感を覚えるようになります。
「自分の強みは何なのか」
「自分はいったい何者なのか」
そう感じる場面がふえていきました。
■ 「何もさせてくれない」という思い
そんなときに出会ったのが、地元で開催されていたドラッカーの読書会でした。
そこで、ある言葉に出会います。
自らの仕事においても、まず強みからスタートしなければならない。すなわち、自分のできることの生産性を挙げなければならない。 「何もさせてくれない」という言葉は、惰性のままに動くためのの言い訳ではないかと疑わなければならない。もちろん、誰もが何らかの厳しい制約条件の中にいる。しかし、たとえ実際に何らかの制約があったとしても、することのできる適切かつ意味のあることはあるはずである。
/いまの仕事で強みを磨くp.176
(経営者の条件 p.130-131)
この言葉に出会ったとき、Gさん(女性)は、正直、ドキッとしました。
それまでの自分が、どこかで「環境のせい」にしていたことに気づいたからです。
■ 言い訳ではないか、と問い直す
「それは、本当にそうなのだろうか」
自分は、できることをやり切っているのだろうか。
自分の強みを生かそうとしているのだろうか。
それとも、
“何もできない理由”を探しているだけではないか。
この問いによって、Gさんは初めて
自分の立ち位置を正面から見つめることになります。
■ 「社長の娘」というもう一つの制約
さらに、もう一つの難しさがありました。
Gさんは「社長の娘」でもあります。
母親もGさんも一社員として関わっているつもりでも、
周囲からはそうは見られていませんでした。
「一社員としてどのように振る舞えばいいのか」
「むしろ娘として何か役割を果たすべきなのか」
その答えは見えませんでした。
近いのに遠い。
関わっているのに踏み込めない。
その距離感の中で、
「何もできていない」と感じてしまう自分もいました。
■ 小さな一歩からしか始まらない
それでも、問いは残ります。
「それでも、自分にできることは何か」
大きなことはできません。
しかし、何かはできます。
そのヒントとなったのが、ドラッカーの提唱する「フィードバック分析」でした。
強みを知る方法は一つしかない。フィードバック分析である。何かをすることに決めたならば、何を期待するのかを直ちに書き留めておかなければならない。そして、9ヵ月後、一年後に、その期待と実際の結果を照合しなければならない。
/フィードバック分析を使うp.160
(明日を支配するもの p.194)
自分の行動を見つめ、問い続けること。
これなら自分にもできる。
そう考え、Gさんは本当に小さな行動を始めました。
・うまくいったこと
・結果はどうあれ、がんばったこと
・お粗末におわったこと
といったログを残して、一定期間後に振り返る。
その振り返りもノートに書いて自分の行動を見つめる。
いつしか、びっしりと書き込まれたノートが積み重なっていきました。
■ この問いが、すべての始まりだった
この問いは、この先の10年、ずっと持ち続けることになります。
そしてその問いが、やがて自分だけでなく、周囲や組織をも変えていくことになるとは、
このときはまだ、想像もしていませんでした。
今日の問い
Q:今抱えている制約の中でも、あなたが取り組める意味のある貢献は何ですか?
私たちは、「できない理由」をあげると驚くくらいにいくらでも挙げることができます。とはいうものの、その理由を100個書いてくださいというと、意外とほぼ同じことを角度を変えて何度も繰り返していることに気づくこともしばしばです。
どんなに制約があったとしても、「できること」の中に、自身の未来を変える一歩があるはずです。その一歩の繰り返しの中で、自分の強みを見つけることもできるかもしれません。
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