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実践するドラッカー 実践編 第85話:人が変わる。つながりが生まれる。地域へ広がる。――ドラッカー読書会、東北の実践から③(全5話)

事例16-3 学びは、仕事だけでなく人生にも降りてくる。

本記事は、実際の読書会での実践報告をもとに、人物名、地域、職業、時期などを一部変更・再構成しています。

前回ご紹介した宮城さん(仮称)の本には、二色の線が引かれていました。

一色は、自分が見つけたもの。
もう一色は、誰かに見せてもらったもの。
自分とは違う見方に出会うことで、自分一人では見えていなかった現実に気づく。

ナレッジプラザのドラッカー読書会では、そんな対話が繰り返されています。

では、それを何年も続けていると、人にはどんな変化が起きるのでしょうか。

Sさんたちの読書会につながった人の中に、山形さん(仮称)という女性がいます。山形さんの変化は、会社の数字や仕事の成果だけでは説明できないものでした。

振り返ってみると、変わっていたのは、
自分の暮らしそのものだったのです。

「夫と二人になったら、私は大丈夫だろうか」

山形さんがドラッカー読書会に出会った頃、娘さんたちは高校生になったばかりでした。

あと数年すれば、進学や就職で家を出ていくかもしれない。
そう考えたとき、ふと一つの不安が浮かびました。

子どもたちがいなくなったあと、夫と二人で暮らしていけるだろうか。

そんなことを考えている自分自身に、山形さんは驚きました。

家族として長く暮らしてきた。
大きな問題があったわけでもない。
それなのに、夫婦二人になった未来を思い浮かべると、自信を持って「大丈夫」と言えない。

「これは、何かを変えた方がいいのかもしれない」

そう感じていた頃、地元でドラッカー読書会が開かれることを知りました。

ドラッカーについては、ほとんど何も知りませんでした。
それでも本を一冊買い、参加してみることにしました。

振り返れば、その一歩が、その後長く続く学びの始まりになりました。

「幸せな職員でありたい」

山形さんは、行政の仕事をしていました。
読書会を続ける中で、こんなことを考えるようになります。

市民は、どんな職員から対応してもらいたいだろう。
不満をたくさん抱え、余裕を失っている職員だろうか。
それとも、自分自身をある程度マネジメントでき、穏やかに仕事に向き合っている職員だろうか。

当然、後者の方がよい。

だったら、自分自身がそういう状態でありたい。

山形さんにとって、セルフマネジメントを学ぶ理由が少しずつ明確になっていきました。

それは単に、
「仕事のできる人になる」
ということではありません。

自分自身が、よりよく生きること。
その状態で、市民や同僚や家族と関わること。

それもまた、自分の仕事や周囲への貢献につながるのではないか。

そんなふうに考えるようになっていったのです。

気づいたら、家の空気が変わっていた

読書会への参加を続けて数年。
山形さんは、ある講演会で、それまでの実践について発表する機会を得ました。

そこで改めて、
「私は、この数年間で何が変わったのだろう」
と振り返ってみました。

すると、自分でも意外なことに気づきました。
仕事の仕方だけではなかったのです。

家庭が変わっていました。

以前よりも、
「家を居心地のよい場所にしよう」
と考えるようになっていた。

そして家族の間で、
「ありがとう」
と言い合うことが増えていました。

何か特別な「家庭改革」をしたわけではありません。
家族会議を開いて、目標を立てたわけでもありません。

ドラッカーを読みながら、
自分はどうありたいのか。
相手に何かを求める前に、自分にできることはないか。

そんなことを考え、小さく実践してきた。

その積み重ねを振り返ったとき、初めて、
「ああ、もう自分は変わっていたんだ」
と気づいたのです。

そして、その変化はその後も続いていました。

問題ではなく、「すでに起きている成功」を見る

ドラッカーには、こんな言葉があります。

自らの成長につながる最も効果的な方法は、自らの予期せぬ成功を見つけ、その予期せぬ成功を追求することである。ところがほとんどの人が、問題にばかり気を取られ成功の証を無視する。

実践するドラッカー[思考編]第2章 成長するために
予期せぬ成功を追求する p.68
(非営利組織の経営 p.218)

私たちは、自分を振り返るとき、

できなかったこと。
足りなかったこと。
直さなければならないこと。

そんな「問題」に目を向けがちです。

山形さんも、もともとは、
「夫と二人になったとき、大丈夫だろうか」
という不安から始まりました。

けれど数年後、振り返ってみると、
問題がすべてなくなっていた、というより、
自分が思っていた以上に、すでによい変化が起きていた。

家を居心地のよい場所にしようとしている自分がいた。
「ありがとう」と言い合える関係ができていた。

それは、最初から狙ってつくった成果ではありませんでした。

だからこそ、ドラッカーのいう「予期せぬ成功」に近いものだったのかもしれません。

大切なのは、それに気づいたあとです。

「たまたまよくなった」で終わらせず、
なぜ、この変化が起きたのだろう。
このよい変化を、これからもどう続けていこう。
と考える。

問題を直すことだけでなく、すでに起きている「よいこと」を見つけ、それを育てていく。

それもまた、自らを成長させる一つの方法なのです。

学びの場が途切れても、つながりは残った

その後、地域の事情によって、山形さんが参加していた読書会は一度中断することになりました。

普通なら、そこで学びも途切れてしまいそうです。

ところが、そうはなりませんでした。

読書会で出会った仲間が、数か月に一度、ドラッカーに関する資料を送ってくれました。
それをきっかけに近況や感想をやり取りする。
直接集まれない時期にも、その関係は続きました。

コロナ禍の中でも、そうしたやり取りは山形さんにとって大きな励みになりました。

読書会という予定がいったんなくなっても、
そこで生まれたつながりまでは、なくならなかった。

人生が大きく揺れたとき

そして山形さんにとって、そのつながりのありがたさを強く感じる出来事が起こります。

お父さまが亡くなったのです。

普段はあまり落ち込むことがないという山形さんも、このときばかりは深く気持ちが沈みました。

そんな山形さんに、読書会でつながっていた仲間が声をかけました。
「読書会においでよ」

ちょうどその頃、東北各地のドラッカー読書会の仲間が年に一度、温泉地に集まって学び、交流する合同合宿の機会がありました。

普段の読書会は、それぞれの地域で定期的に開催するもので、宿泊を伴うものではありません。
この温泉での合宿は、東北各地のメンバーが地域を越えて顔を合わせる、特別な機会でした。

山形さんは、その合宿に参加することにしました。

一緒に本を読む。
話をする。
食事をする。
これまで別の地域で学んできた人たちとも交流する。

お父さまを亡くした悲しみそのものが消えたわけではありません。
けれど、その時間を過ごす中で、山形さんは少しずつ気持ちを切り替えることができたと振り返っています。

「あのとき参加していなかったら、もっと長く落ち込んでいたかもしれない」
それほど、その場と仲間の存在が大きなものになっていました。

「本を読む人」から、「つながっている人」へ

考えてみれば、ここには第1話から続いているもう一つの変化があります。

最初は、それぞれの地域で本を読む人たちでした。

けれど、長く学び続ける中で、
ほかの地域の人とも出会う。

名前を覚える。
一緒に学ぶ。
食事をする。
近況を知る。
困ったときに声をかける。

そうして、
「同じ本を読んでいる人」から、
「人生の節目で思い出す人」
へと関係が変わっていったのです。

Sさんが目指していた「東北六県に読書会の旗を立てる」という目標も、いつの間にか、単に開催地を増やすだけの話ではなくなっていました。

地域を越えて、人がつながり始めていたのです。

「できなかった」も持っていく

その後、山形さんは、Sさんたちが育ててきた別の地域のドラッカー読書会にも参加するようになります。

一人で読めば途中で諦めたくなるような難しい本でも、月に一度の読書会があるから読む。
何度も読んで、自分なりに考えて持っていく。
それでも、分からない。

そんな状態でも参加します。

そして、ほかの人の話を聞くことで、また理解が進む。
さらに、その読書会では、毎回、前の月に何を実践したのかも振り返ります。

できたことだけではありません。

「今月は、できませんでした」
という報告もします。

ここでも、成果とは「成功したことだけ」ではありません。

やろうと思ったけれど、できなかった。
では、なぜできなかったのか。
一方で、自分が意識していなかったところでは、何かよい変化が起きていなかっただろうか。

そうやって毎月、自分自身を見直していく。

だからこそ、山形さんが家庭の変化に気づけたように、
自分では成果だと思っていなかった「小さな成功」を見つけることもできる
のではないでしょうか。

学びは、人生の中で成果になる

山形さんが最初にドラッカー読書会へ参加したとき、
「家庭をこう変えよう」
という明確な目標を持っていたわけではありませんでした。

「父を亡くしたときに、自分を支えてくれる仲間をつくろう」
と思って参加したわけでもありません。

それでも、学び続けているうちに、
家の空気が変わった。
家族との関係が変わった。
地域を越えた仲間ができた。
人生が大きく揺れたとき、声をかけてくれる人がいた。

その一つひとつは、最初には予想していなかった成果でした。

私たちは、問題をなくすことばかりを「成長」だと考えがちです。

でも、もしかするともうすでに、
自分の仕事の中に。
家庭の中に。
人との関係の中に。
以前にはなかった小さな成功が生まれているかもしれません。

必要なのは、それを見つけること。
そして、
「なぜ、これはうまくいったのだろう」
と考え、その成功をさらに育てていくことです。

ドラッカーのマネジメントを学んでいたはずなのに、
振り返ってみると変わっていたのは、
仕事だけではなく、自分の人生そのものだった。
山形さんの物語は、そんな学びの姿を見せてくれます。

次回は、仕事の中で「何かがおかしい」と感じながら、まだその答えを言葉にできずにいた人の物語です。

読書会は、答えを教えてもらう場所なのでしょうか。

それとも――。


【今日の問い】

Q:あなたの身の回りで起きている「予想していなかったよい変化」は、何でしょうか?

私たちは振り返るとき、できなかったことや、まだ解決していない問題に目を向けがちです。

けれど、その陰で、
以前より自然にできるようになったこと。
人との関係が少しよくなったこと。
思いがけず喜ばれたこと。
自分では大したことだと思っていなかったけれど、実はうまくいっていること。

そんな「成功の証」が生まれているかもしれません。

それを偶然として通り過ぎるのではなく、
「なぜ、これはうまくいったのだろう?」
「この成功を、さらに育てるとしたら何ができるだろう?」
と問いかけてみる。

問題を減らすだけではなく、すでに生まれている成功を大きくする。
そこにも、自分自身を成長させる大切な手がかりがあるのではないでしょうか。

次回:答えではなく、問いを持ち帰る場所。


東北読書会の第①話はこちらから


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