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実践するドラッカー 実践編 第88話:資源は、いつ資源になるのか。──ある木工会社が見つけたイノベーションの条件①(全4話)

事例17-1 木は、いつ資源になるのか。

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

「家具づくりの町」

そう呼ばれるこの地域にも、実は家具づくりが始まる前の物語があります。

四方にそびえ立つ山々には、ブナの原生林が広がり、昼なお暗い森をつくりあげていました。
しかし当時、そのブナはあまり価値のない木と考えられていました。

炭にするか、下駄の歯に使う程度。
家具の材料として見向きされることはなく、斧を入れる者すらほとんどいなかったといいます。

ところが大正9年、その未活用だったブナに新しい価値を見いだそうと考えた地元の有志たちが、曲木家具づくりに挑戦しました。

それが、この地域の家具産業の始まりでした。
誰も価値を見いだしていなかった木が、人の知恵と技術によって家具へと姿を変え、やがて地域を代表する産業へと育っていったのです。

その歴史を受け継ぐ一社が、TさんのTT木工社でした。

創業以来七十年以上。
職人たちは木と向き合い、一脚一脚、丹精を込めて家具をつくり続けてきました。
四代目社長のTさんも、その技術と品質に誇りを持っていました。

TT木工社が目指してきたのは、「長く使われる家具」です。
流行に左右されず、何十年も使い続けられる家具。
親から子へ、あるいは世代を超えて受け継がれる家具。
丹精込めてつくった家具を、お客様が大切に使い続けてくださる。

それは、つくり手にとって何よりもうれしいことでした。
しかし、その喜びとは裏腹に、経営には一つの現実があります。

家具が長く使われるほど、新しい家具が売れる機会は少なくなる。
良いものをつくればつくるほど、お客様は買い替えなくなる。

もちろん、それが悪いことではありません。
むしろ、それこそが目指してきた家具づくりでした。

だからこそTさんは考えるようになります。

「私たちは、この先も"家具を売る会社"であり続ければいいのだろうか。」
家具業界を取り巻く環境も、少しずつ変化していました。

コロナ禍では一時的に需要が伸びたものの、その後は市場全体が縮小傾向に戻り、家具メーカーを取り巻く状況は決して楽観できるものではありませんでした。

もっと営業を頑張る。
もっと新商品をつくる。
もちろん、それも必要です。

しかしTさんの頭にあったのは、もっと根本的な問いでした。

「私たちの強みは、本当に家具なのだろうか。」

家具をつくる技術。
木を見る目。
乾燥技術。
曲木の技術。
職人たちが長年培ってきたものづくり。

その本当の価値は、家具という形でしか発揮できないのだろうか。

まだ、この時点では答えはありませんでした。

けれど、その問いは、百年前にこの地域の先人たちが抱いた問いと、どこか重なっていました。

価値のないと考えられていたブナに、新しい価値を見いだした人たち。

そして今。
家具づくりそのものに、新しい価値を見いだそうとしている一人の経営者。

ドラッカーは、このように述べています。

 イノベーションは富を創造する能力を資源に与える。それどころか、イノベーションが資源を創造する。
 人が利用の方法を見つけ、経済的な価値を与えないかぎり、何ものも資源とはなり得ない。植物は雑草にすぎず、鉱物は岩に過ぎない。

『イノベーションと起業家精神』
第2章 イノベーションのための七つの機会 P.8

価値は、最初から存在しているものではありません。

人が新しい意味を見いだしたとき、初めて資源になるのです。

Tさんは、まだ知りませんでした。

その問いが、やがて会社の未来だけでなく、この地域の新しい物語へとつながっていくことを。


【今日の問い】

Q:あなたの会社には、「まだ資源になっていない資源」はありませんか。

私たちは、「資源」というと、お金や設備、人材のように、最初から価値のあるものを思い浮かべます。

しかしドラッカーは、「資源は、人が新しい利用法を見つけたときに初めて資源になる」と語っています。

かつて、この地域ではブナは価値のない木でした。

しかし、家具という新しい用途が生まれたことで、地域を支える産業へと変わりました。

では、あなたの会社ではどうでしょう。

日々当たり前のように使っている技術や経験、設備、人材。

その中に、まだ誰も気づいていない価値が眠っているかもしれません。


~次回予告~

「強みは、いつ資源になるのか。」

価値がないと思われていたブナは、新しい資源になりました。

では、その資源を事業へと変えるものは何でしょうか。

ある日、Tさんは蒸溜所で、こんな疑問を抱きます。

「木でできているのに、なぜ日本では作れないんだろう。」

その小さな問いが、会社の未来を大きく変えることになります。


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