実践するドラッカー 実践編 第89話:資源は、いつ資源になるのか。──ある木工会社が見つけたイノベーションの条件②(全4話)
事例17-2 強みは、いつ資源になるのか。
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
Tさんは、昔からウイスキーが好きでした。
夜はバーへ足を運び、産地や蒸溜所ごとの違いを楽しむ。
旅先では蒸溜所を見学し、樽の違いによって香りや味わいが変わることにも興味を持っていました。
ちょうどその頃、ジャパニーズウイスキーは世界中で高い評価を受け始めていました。
国内各地で新しい蒸溜所が誕生し、日本のウイスキーづくりは新しい時代を迎えようとしていたのです。
そんなある日、Tさんの知人が地元でウイスキー蒸溜所を立ち上げることを知ります。
建設中の蒸留所を見学するという機会は、これまでありませんでした。
Tさんは見学を願いしました。
もちろん、仕事の話ではありません。
一人のウイスキー好きとして、
「ぜひ見学させてください。」
そんな気持ちで建設現場を訪ねました。
蒸溜設備の説明を聞き、製造工程へのこだわりを知る。
ウイスキーが生まれる現場を目の前にして、Tさんは少年のように目を輝かせていました。
その時、ふと頭に浮かんだ疑問があります。
「樽は、どうするんですか?」
「海外から輸入する予定です。」
そう答えを聞いた瞬間、Tさんは考え込みました。
「木でできているのに、なぜ日本では作れないんだろう。」
家具屋だからこそ生まれた疑問でした。
家具も樽も、どちらも木からつくられます。
もちろん、求められる技術は違います。
家具は人に寄り添い、美しさや使いやすさが求められます。
一方、樽は何年、何十年という熟成に耐え、一滴たりとも漏らしてはいけません。
それでも、木を見極め、乾燥させ、加工し、組み上げるという基本には、長年培ってきた木工技術があります。
この時点で、Tさんは「樽を作ろう」と考えていたわけではありません。
ただ、一人の木工職人として、
「本当に日本では作れないのだろうか。」
そんな素朴な疑問が生まれただけでした。
しかし、その疑問は少しずつ大きくなっていきます。
もし作れるのだとしたら
家具づくりで培ってきた技術は、新しい場所でも役に立つのではないか。
Tさんが見つけたのは、「樽づくり」という新しい仕事ではありませんでした。
見えてきたのは、自分たちが長年磨いてきた木工技術が、家具以外の世界でも価値を生み出せるかもしれないという可能性でした。
ドラッカーは、イノベーションについて次のように述べています。
イノベーションは強みを基盤としなければならない。イノベーションに成功する者はあらゆる機会を検討する。自分たちに最も適した機会はどれか、自分たちの組織に適した機会はどれか、自分たちが得意とし実績のある能力をいかしてくれる機会はどれかを考える。
時代の要請に合わせて強みを磨く P.202
(イノベーションと起業家精神 P.162)
Tさんは、樽づくりの経験を持っていたわけではありません。
しかし、「木を見る目」「木を乾燥させる技術」「木を曲げ、組み上げる技術」という強みは持っていました。
だからこそ、「樽」という機会が見えたのです。
後から振り返れば、この日生まれた一つの疑問が、新しい事業の出発点でした。
【今日の問い】
Q:あなたの仕事は、どんな「技術」の組み合わせでできていますか? 5つ挙げてみてください。
私たちは、自分たちの仕事を「家具をつくる」「料理を提供する」「建物を管理する」といった、商品や業種の名前で捉えがちです。
でも、その仕事を一度分解してみると、いくつもの技術や知識、経験の組み合わせでできていることに気づきます。
家具づくりも同じです。
木を見る。乾燥させる。削る。曲げる。組み上げる。
「家具」という完成品だけを見ていると気づきませんが、一つひとつに分けてみれば、それぞれは別の仕事にも生かせる技術です。
Rさんが樽に可能性を感じたのも、「家具をつくれるから」ではなく、家具づくりの中に蓄積してきた技術が、別の用途にも生かせると気づいたからでした。
まずは、自分の仕事を分解して、そこに使われている技術を5つ挙げてみてください。
そうして、できたら社内のメンバーとその5つをシェアしてみてください。きっと、それぞれの立場からの視点が見えて気づかなかった視点での強みが発見できるはずです。
普段は当たり前すぎて意識していない、その技術の組み合わせの中に、次の機会を見つけるための「強み」が隠れているかもしれません。
~次回予告~
「知識は、いつ価値になるのか。」
樽づくりへの挑戦が始まりました。
しかし、家具づくりで培った技術は、そのままでは通用しません。
長年積み重ねてきた知識は、本当に会社の強みだったのでしょうか。
答えは、何度もの失敗の先にありました。
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