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実践するドラッカー 実践編 第90話:資源は、いつ資源になるのか。──ある木工会社が見つけたイノベーションの条件③(全4話)

事例17-3 知識は、いつ価値になるのか。

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

「やってみよう。」
あの日に生まれた疑問を、Tさんは放っておけませんでした。

「木でできているのに、なぜ日本では作れないんだろう。」

その一言から、TT木工社のウイスキー樽づくりへの挑戦が始まります。
もちろん、家具と樽は同じ木から作られるとはいえ、まったく別の世界でした。

家具は、美しさや使い心地が求められます。
一方、樽は何十年もの熟成に耐え、一滴たりとも漏らしてはいけません。

材料の選び方。
乾燥。
加工。
組み方。

どれを取っても、家具づくりとは違う技術が求められました。

しかも、樽材として使われるミズナラは、日本を代表するオーク材です。
この木の樽で熟成されたウイスキーは、
白檀や伽羅を思わせる独特の香りを生み出すことから、世界中で高く評価されています。
その一方で・・・
液漏れしやすく、樽材として扱うのが難しい木としても知られています。

魅力が大きいからこそ、技術も求められる素材だったのです。

試作品を作る。
漏れる。
原因を探る。
また作る。
また漏れる。

そんな試行錯誤が続きました。

家具づくりなら当たり前にできていたことが、樽では通用しません。

木は同じなのに、求められる価値基準が違う。
家具職人として積み重ねてきた経験を、一度壊し、もう一度組み立て直すような日々でした。

それでもRさんは、不思議と「やめよう」とは思いませんでした。

家具を作る技術があったからではありません。
木と向き合い、その価値を引き出してきた経験があったからです。

もちろん、その経験だけで樽が作れたわけではありません。

漏れない樽を作るための知識。
ミズナラの魅力を最大限に引き出すための知識。

家具づくりで培った技術の上に、「新しい知識」を一つひとつ積み重ねていきました。

そんなある日、Tさんはふと立ち止まります。

「私たちが作っていたのは、本当に家具だったのだろうか。」

創業以来、家具を作り続けてきました。
世の中からも家具メーカーと呼ばれています。

でも、本当に磨いてきたものは何だったのでしょうか。
家具づくりの技術でしょうか。
それとも、木という素材を知り、その価値を最大限に引き出す知識でしょうか。

その瞬間、それまで当たり前だと思っていたことが、一つにつながりました。

家具そのものが、自分たちの強みではありませんでした。
家具は、自分たちの知識を、お客様の役に立てるための一つの手段だったのです。

だから、その答えは家具だけである必要はありません。
顧客が求めるものが樽なら、樽という答えがある。
木工技術は変わらなくても、顧客が変われば、提供する価値も変わるのです。

ドラッカーは、このように述べています。

事業が成功するには、知識が、顧客の満足と価値において、意味あるものでなければならない。(中略)知識は、事業の外部、すなわち顧客、市場、最終用途に貢献して初めて有効となる。

『実践するドラッカー 事業編』第6章 知識を強みに変える P.188

会社の中に蓄積された知識や技術は、それだけでは価値にはなりません。
顧客が求める価値と結びついたとき、初めて意味を持ちます。

Tさんが変えたのは、木工技術ではありませんでした。
変えたのは、
「この知識を、誰のために役立てるのか。」
という問いでした。

家具という一つの手段しか持っていなかった会社は、
顧客が求める価値から問い直したことで、樽という新しい手段にたどり着いたのです。

そうい意味では
樽づくりは、新しい事業ではありませんでした。

長年磨いてきた知識が、新しい顧客価値へと姿を変えた瞬間だったのです。


【今日の問い】

Q:あなたの会社の知識や技術は、誰の、どんな価値のために使われていますか。

私たちは、自分たちがつくっている商品や提供しているサービスを、いつの間にか事業の「目的」だと考えてしまうことがあります。

しかし、商品やサービスは、顧客に価値を届けるための「手段」です。

TT木工社にとっても、家具は長年培ってきた木工の知識や技術を、顧客の暮らしに役立てるための一つの手段でした。

だからこそ、顧客が変わり、求められる価値が変われば、その知識や技術を「樽」という別の手段で生かすこともできたのです。

自分たちが「何をつくっているか」から少し離れて、「誰に、どんな価値を届けるために、この知識や技術を使っているのか」を考えてみてください。

目的が見えてくれば、今とは違う手段も見えてくるかもしれません。


~次回予告~

「市場は、いつ機会になるのか。」

ついに国産ミズナラの樽は完成しました。
しかし、本当の挑戦はここからでした。
なぜ国内外から次々と注文が入るようになったのか。
その理由は、会社の中ではなく、市場の大きな変化の中にありました。


この一連の物語の第①話はこちらからどうぞ


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