実践するドラッカー 実践編 第10話:縮小市場で老舗企業はどう生きるか①(全4話)
事例3-1 [事業編]の実践~ある酒蔵の20年
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
今回からの連載では、ドラッカーの次の言葉を手がかりに、
一つの酒蔵が自己変革した20年を振り返ります。
事業の定義と密接に関連するものとして、卓越性の定義がある。卓越性とは、常に知識に関わる卓越性である。すなわち事業にリーダーシップを与える何らかのことを行いうる人間能力のことである。事業の卓越性を明らかにするということは、その事業にとって真に重要な活動が何であり、何でなければならないのかを決定することである。
『創造する経営者』p.264-265)
ここでいう「リーダーシップ」とは「市場におけるリーダーシップ」。
ドラッカー独特の言い回しですが、
言い換えれば、市場やお客様からの支持です。
つまり、
「この会社は、何によって卓越するのか」
という問いなのです。
■市場が1/4になった業界と老舗の小さな酒蔵
人口10万人にも満たない町に、
従業員20名ほどの小さな酒蔵があります。
創業は江戸時代の終わり。
150年以上続く老舗の酒蔵です。
主力はもちろん日本酒ですが、
現在では
焼酎、リキュール、スピリッツ
なども手がけています。
ウイスキーの製造免許も持っており、
発酵や蒸留に関する幅広い技術を蓄積してきました。
■六代目として家業へ
現在の社長を、
ここでは C社長 と呼ぶことにします。
C社長は
この酒蔵の六代目として生まれました。
成人してすぐに家業に入ったわけではありません。
一度海外に留学し、二年間「外の世界」を経験します。
その後2001年に帰国し家業に入り、
2009年に社長に就任しました。
創業から150年以上続く会社の経営を
引き継ぐということは、
決して軽いことではありません。
それぞれの時代の経営者が
環境の変化を乗り越えながら
会社を次の世代へと繋いできました。
そのバトンを
いまC社長が握っています。
■日本酒市場はピークの4分の1
しかしながら
C社長が家業に戻った頃、
酒蔵を取り巻く環境は
大きく変わっていました。
1970年頃は、
日本人が飲む酒の三分の一は 日本酒でした。
しかし現在、その割合はわずか数%です。
ビール、ワイン、焼酎、チューハイ、ウイスキー。
お酒の種類は 大きく多様化しました。
日本酒の出荷量は
ピーク時の 4分の1以下 まで減っています。
さらに 市場の半分以上を
大手メーカーが占めています。
残りのシェアを
全国に1000社以上ある酒蔵が 競い合う。
それが現在の日本酒業界です。
小さな酒蔵が生き残るには
大量に安く売る
ではなくブランドとして価値を高める
という戦略が必要になります。
■この酒蔵は逆の設備だった
ところが C社長の酒蔵には
少し特殊な事情がありました。
先代社長である父親の時代に導入された設備です。
米麹を機械で大量に作る設備
大型の発酵タンク
これらの設備は、
当時としては非常に画期的なものでした。
この地域では屈指と言えるほどの設備で、
日本酒がまだ日常的に多く飲まれていた時代。
効率よく安定した品質の酒を
大量に生産できるこの設備は、
この酒蔵の大きな武器
でした。
しかし 時代は変わりました。
ブランド酒を造るには
・小ロット仕込み
・手作業に近い管理
・試行錯誤
が必要になります。
ところが 当社の設備は
大量生産向け でした。
かつては強みだった設備が、
新しい市場環境の中では
必ずしも使いやすいものでは なくなっていたのです。
■10年間、突破口が見えなかった
「差別化された酒を作らなければならない」
それが C社長のミッションでした。
しかし 設備の制約により
試行錯誤すら簡単ではありません。
結果として
・新しいヒット商品は生まれない
・売上は徐々に下がる
・ついには赤字
という状況になりました。
C社長は
後にこう振り返っています。
「家業に戻ってからの最初の10年は、
何をやっても突破口が見えない時期でした。」
■見えていなかった問い
振り返ると この酒蔵ではまだ
「自分たちは何によって卓越するのか」
という問いに 答えられていませんでした。
市場が縮小する中で、業界の流行に乗れない。
そんな状況の中で
「自分たちはいったい何を強みとするのか」
その答えが 見えていなかったのです。
■転機は、日本酒ではなかった
しかし この酒蔵に 転機が訪れます。
しかもその転機をもたらしたのは
主力商品の市場ではありませんでした。
次回は
これまで弱みだと思っていた設備が 別の市場では 強みになった出来事
を紹介します。
(つづく)
【今日の問い】
Q:あなたの会社にある「以前は強みだったのに、いまはむしろ弱みだと思える仕組みや設備」は何ですか?
かつての強みが、そのまま未来の強みであり続けるとは限りません。
しかし逆に言えば、時代の変化によって「弱み」に見えているものが、別の市場では大きな価値になることもあります。
重要なのは、「設備そのもの」ではなく、
その設備によって、何ができるのか。
そして、
誰にとって価値になるのか。
という視点です。
C社長の酒蔵もまた、最初から答えを持っていたわけではありません。
問い続ける中で、少しずつ自社の卓越性を見つけていったのです。
いいなと思ったら応援しよう!
よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!この記事は noteマネー にピックアップされました

