実践するドラッカー 実践編 第11話:縮小市場で老舗企業はどう生きるか②(全4話)
事例3-2 [事業編]の実践~10年の停滞を破ったのは、主力商品ではなかった
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
前回は、創業150年以上の小さな酒蔵が直面した現実についてお話ししました。
市場は縮小し、 日本酒の出荷量はピーク時の4分の1以下。
小さな酒蔵が生き残るには 「ブランドとして価値を高める」ことが必要でした。
しかし、この酒蔵には 大量生産向けの設備がありました。
かつては地域でも屈指の設備であり、 会社の大きな武器だったものです。
ところが時代が変わると、 その設備は小回りが利きにくく、 ブランド酒づくりには向かないものになっていました。
結果として、 C社長が家業に戻ってからの10年間は 突破口が見えないまま過ぎていきます。
しかし転機は、 意外なところから訪れました。
それは――
日本酒ではありませんでした。
■きっかけは「どぶろく」と「甘酒」
酒蔵の技術は、 日本酒だけに使われるものではありません。
米と米麹を発酵させる技術は、 さまざまな食品に応用できます。
その一つがどぶろく
そして甘酒でした。
どぶろくはアルコール度数8%ほど。
甘酒はアルコール0%。
いずれも米麹を使う発酵飲料です。
そして2016年から2017年にかけて、 全国で
甘酒ブーム
が起こりました。
「飲む点滴」と呼ばれ、 健康食品として注目され始めたのです。
そして、スーパーやコンビニでも 甘酒が並ぶようになりました。
■注文に追いつかない業界
甘酒ブームが始まると、 多くのメーカーが市場に参入しました。
しかし、そこで問題が起きます。
量産ができないのです。
甘酒を作るためには 大量の米麹が必要です。
ところが多くの酒蔵では 麹づくりが手作業中心です。
急激に増えた需要に 対応しきれませんでした。
「注文はあるのに作れない」
という状態が 業界のあちこちで起きていました。
■そこで力を発揮した設備
ここで、 あの設備が活躍します。
父の時代に導入された自動製麹機。
かつては 「ブランド酒づくりには向かない」 と悩みの種だった設備です。
しかし甘酒の世界では 事情がまったく違いました。
甘酒づくりの要は
麹を安定して大量に作れること。
C社長の酒蔵には それができたのです。
他のメーカーが 量産に苦労する中で、 この酒蔵は
むしろ
ゆとりをもって生産できる
状態でした。
■「弱み」が「強み」に変わる瞬間
この出来事は C社長にとって 大きな気づきでした。
それまで
「この設備は弱みだ」
と思っていたものが
市場を変えると
圧倒的な強みになる。
つまり
問題は設備ではなく
自分たちが立っている土俵
だったのです。
■甘酒ブームが教えた「強み」の見つけ方
ドラッカーは、卓越性の定義について次のように述べています。
卓越性の定義の適切さを判定できるのは経験だけである。しかし有効でない定義を知るための判断基準はある。卓越性の定義は、事業に弾力性や成長と変化の余地をもたせることができるように、大きく、しかも集中が可能であるように範囲を特定するものでなければならない。
/狭すぎず、広すぎず、集中して高さを出すp.196
(創造する経営者 p.265)
甘酒の経験を通して、C社長は一つのことに気づきました。
自分たちの強みは、
「日本酒を造ること」
だけではない。
米と発酵の技術を使って、価値ある飲料を安定して生み出せること
なのではないか。
卓越性の範囲を少し広く捉え直したことで、
この酒蔵の新しい可能性が見えてきたのです。
この頃から C社長の酒蔵では
「米発酵文化を未来へ」
という言葉が 経営理念として掲げられるようになります。
■次に訪れたのは、世界的な危機
甘酒によって 会社は息を吹き返しました。
しかしその直後、
世界を揺るがす出来事が起きます。
コロナ禍です。
飲食店から客足が消え、 日本酒の注文も激減しました。
しかしこの酒蔵は
再び
思い切った決断をします。
次回は
危機の中で生まれた 新しい挑戦について お話しします。
(つづく)
【今日の問い】
Q:現在の環境変化を前提として、自社の事業を再定義したとき、自社の事業は何だといえますか?発想を広げるために5パターンを考えてみてください。
事業の定義は、一度決めたら終わりではありません。
市場や技術、顧客の価値観が変われば、同じ設備や技術でも、まったく違う価値を持つことがあります。
C社長の酒蔵でも、「大量生産向けだから弱みだ」と思っていた設備が、甘酒市場では大きな強みになりました。
重要なのは、
「自分たちは何を作っている会社か」ではなく、
「何によって価値を生み出している会社か」
を問い直すことです。
その問い直しが、新しい市場や可能性を見つけるきっかけになるのです。
(続きの物語はこちらからどうぞ)
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