見出し画像

実践するドラッカー 実践編 第9話:保健室から始まったドラッカー③(全3話)

事例2-3 [チーム編]~仕事の視座が変わると、学校が変わる


[前稿からつづく]

B先生は、保健室で生徒に問いかけ続けてこられました。

「あなたは何によって憶えられたいですか。」

この問いは、すぐに答えを出すためのものではありません。
しかし、人生のどこかでふと思い出してもらえればよい。

そのような思いで、
保健室での対話や掲示、保健室便りなどを通して、十年以上にわたり伝え続けてこられました。

振り返ってみると、この問いは生徒だけでなく、
B先生ご自身の仕事の見方も変えていたといいます。

■仕事の見方の変化

あるときB先生は、「実践するドラッカー チーム編」の講座に参加されました。
そこには、他校の養護教員も参加していました。

講座の中で、「仕事のマネジメント」に関する実践ワークが行われます。

ドラッカーは、仕事について次のように述べています。

仕事が要求するものを理解すれば、それだけ仕事を労働という人間活動に適合させることができる。

『実践するドラッカー チーム編』
第5章 仕事環境を整える/仕事を任せる際の前提条件 p.147
(『マネジメント(上)』p.252)

仕事とは、単なる作業の集まりではありません。
まず、その仕事が何を求めているのかを理解することが必要です。

そのうえで、講座では次のような問いが提示されました。

自分の仕事を七つのプロセスに分けてください。
それぞれのプロセスの意義や成果、必要な知識や経験を書いてください。

参加者は、それぞれ自分の仕事を書き始めます。

ある養護教員は、

生徒が保健室に来る
→ 症状を聞く
→ 状態に応じて対応を判断する
→ 応急処置をする
→ 教室へ戻す

といった流れを、七つの段階に分けて整理されました。

これは、多くの人にとって納得しやすい整理でした。

ところが、B先生の記述を見て、周囲は驚きます。

■B先生の仕事のプロセス

B先生が書いた自分の「仕事のプロセス」は保健室内ではなく

生徒が「入学」してから「卒業」するまで。

養護教員としての関わりを、
生徒の三年間の成長のプロセスとして七つに整理されていたのです。

保健室に来て対応して終わる仕事ではありません。
入学から卒業まで、生徒の成長に寄り添い続ける仕事。

B先生ご自身は、それを自然なこととして書かれました。
しかし周囲の反応を見て、あらためて気づかれたといいます。

「自分は、こんなふうに仕事を見ていたのか。」

いつの間にか、仕事の視座が変わっていたのです。

ドラッカーはさらに述べています。

われわれは作業を集めて、生産のプロセスとして編成しなければならない。

『実践するドラッカー チーム編』
第5章 仕事環境を整える/プロセスに統合するp.156
(マネジメント(上)p.253)

仕事とは、ばらばらの作業ではなく、
成果に向かうプロセスとして設計されるものです。

B先生の仕事の見方は、まさにそれを体現していました。

■校長先生からのひとこと

それから一年ほど経ったある日のことでした。

B先生は、校長室に来るようにと声をかけられます。

少し緊張しながら、校長室へ向かいます。
何かあったのだろうか——そんな思いが、頭をよぎったといいます。

席に着くと、校長先生は静かにこう切り出されました。

「実はね……今年の当校では、不登校の生徒が一人もいないんです。」

一瞬、その言葉の意味を受け止めきれなかったといいます。

この地域の中学校において、それは普通のことではありません。
むしろ、例年であれば一定数の不登校生徒がいるのが当たり前でした。

校長先生は、続けてこう言われました。

「きっとあなたが続けてきたことが、生徒や他の先生にも、少しずつ伝わっているのだと思うんです。」

保健室での問いかけ。
日々の何気ない関わり。
ささやかな対話の積み重ね。

それらが、
生徒たちだけでなく、
周囲の先生方にも
静かに伝わっていたのかもしれません。

B先生にとって、それは思いがけない言葉でした。

自分がしてきたことは、決して大きな取り組みではありません。
制度を変えたわけでもなく、特別な仕組みを導入したわけでもありません。

それでも——

その小さな実践が、学校というチームの空気を変えていたのかもしれない。

そう感じた瞬間でした。

■問いが生徒に届く瞬間

実はそれよりも前に、
この問いが生徒の中で芽を出していると感じた出来事がありました。

卒業前の時期。
生徒がそれぞれ言葉を選び、「書」にして掲示する活動があります。

廊下には、さまざまな言葉が並びます。

その中に、B先生は見慣れた言葉を見つけられました。

「何によって憶えられたいか」

ある生徒が、この言葉を書にしていたのです。

そこには、次のようなメッセージが添えられていました。

この言葉は、B先生から教えてもらった言葉です。
自分は何によって憶えられたいのか。
有名になって憶えられたい人もいれば、優しい人として憶えられたい人もいると思います。
でも、この答えは今出すものではなく、時間をかけて見つけていくものだと思います。
だから、この言葉を心のどこかに置いておいて、頑張っていきたいと思います。

その言葉を読んだとき、B先生は感じられました。

ああ、この問いは届いていたのだ。

保健室での何気ない問いかけ。
掲示。
保健室便り。
それらをもとにした、ささやかな対話。

そうした小さな積み重ねが、
生徒の心の中で静かに育っていたのです。

■教職の節目、そして問いの継続

B先生は今年、長年勤めてこられた教職を定年退職されました。

しかし、あの問いはきっと、
多くの生徒の中に残り続けていくことでしょう。

ふとした瞬間に思い出される問いとして。

そしてご自身にとっても、
これからの人生の中で問い続けていく問いとして。

「あなたは何によって憶えられたいか。」

【今日の問い】

Q:あなたの仕事を7つのプロセスに分けると、どのように整理できるでしょうか。作業手順という視点でも、お客様の行動や変化のステップという視点でも構いません。

ドラッカー教授は、仕事を成果につなげるためには、
仕事を単なる作業の集まりではなく、プロセスとして捉えることが重要であると述べています。

B先生もまた、自らの仕事を見つめ直す中で、
その視座を少しずつ高めてこられました。

では、あなたの仕事はどうでしょうか。

日々の業務を、ばらばらの作業としてではなく、
意味を持ったプロセスの連続として捉え直してみるとき、
仕事の見え方は少しずつ変わり始めます。

そしてその変化は、やがて仕事への向き合い方そのものを変えていくのではないでしょうか。

本記事は、実際の実践事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。


この一連の物語の第①話はこちらから。

次に読む物語はどれにしますか?


いいなと思ったら応援しよう!

清水祥行/ドラッカーを読んだら会社が変わった! よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!