実践するドラッカー 実践編 第19話:強みを生かし合う組織を作る②(全5話)
事例5-2:「やめる」という決断──「強み」を基準に意思決定をする
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
前回は、混乱のさなかで経営を引き継いだEさんたちが、
「すべてを守ろう」とするほど判断できなくなり、
疲弊していく様子を見てきました。
ドラッカーの言葉との出会いによって、
何をやめるかを決める「劣後順位」の重要性に気づきます。
しかし、気づいただけでは何も変わりません。
「やめる」という決断は、どのようにして生まれたのか。
今回は、その意思決定のプロセスを見ていきます。
■ 意思決定の軸を持つ
「このままではいけない」
その感覚だけを頼りに、E専務と社長の2人は試行錯誤を続けていました。
経営トップに就任した初年度、2人は自ら陣頭指揮に立ち、
現場に入り込み、叱咤激励を繰り返しながら徹底的に立て直しを図ります。
その結果、売上規模を維持しつつ、
約1,000万円の黒字への転換を果たしました。
しかし、その代償は大きいものでした。
必死に動き続けた2人は、
社員から「独裁者」「恐怖政治」と陰口をたたかれていました。
社内だけでなく、そしてEさんたち自身も、疲弊の極致にありました。
「これを、毎年続けるのか……」
そう考えたとき、このやり方では持続できないという現実が、はっきりと見えてきます。
引き継いだすべてを維持することはできない。
しかし、本当に難しかったのはここからでした。
何を基準に、「やめる/続ける」を決めるのか。
■ 判断の基準を問い直す
そのとき出会ったのが、「実践するドラッカー講座」でした。
そこで提示されたのが、意思決定の基本原則です。
意思決定においては、決定の目的は何か、達成すべき目標は何か、満足させるべき必要条件は何かを明らかにしなければならない。
/目的を明らかにする(p.62)
(経営者の条件 p.174)
「目的・目標・必要条件」──この3つを明確にしなければ、意思決定はぶれる。
それまでの自分たちは、勘と経験と度胸に頼り、感覚と状況対応の行き当たりばったりで判断していた。そのことに、初めて気づいたのです。
■ 判断の軸が見えてくる
では、Eさんの会社にとっての「目的・目標・必要条件」とは何か。
それを考えたとき、2つの問いが判断の軸として浮かび上がってきました。
「この仕事は、自分たちの強みを生かしているのか」
「この仕事だけで、必要な利益を確保できるのか」
ただし、単純に業績の悪い店舗から順にたたんでいくだけでは意味がありません。
最下位の店舗を閉鎖しても、次の最下位が繰り上がるだけ。
それを繰り返せば、粗利の総額が縮んでいき、固定費すら賄えなくなる。
大切なのは、強みが生きているかどうかという軸で、
仕事の「続ける/やめる」を判断することでした。
■ すぐに答えは出なかった
しかし、この問いに対して、すぐに答えが出たわけではありません。
「やめる理由」よりも「続ける理由」の方が、いくらでも見つかる。そんな状態でした。
売上はある。取引先もある。現場も動いている。
「やめることで失うもの」は、すぐに見えます。
しかし、
「続けることで失っているもの」は、見えにくい。
だからこそ、決断は難しかったのです。
■ それでも消えなかった違和感
それでも、違和感は消えませんでした。
「本当に、このままでいいのか」
その問いだけは、繰り返し浮かび上がってきます。
そしてあるとき、一つの結論に至ります。
「この仕事は、やめよう」
■ 守るために、手放す
その決断は、簡単なものではありませんでした。売上は減るかもしれない。現場に不安が広がるかもしれない。
それでも、こう考えたのです。
「すべてを守ろうとすることが、むしろ会社を弱くしているのではないか」
当時は、理論として整理されたものではなく、学んだことを感覚として選んだ決断でした。しかし後になって振り返ると、この意思決定こそが、転機だったと分かります。
■ やめると、見えてくるものがある
一つ、また一つと、やめる仕事を決めていきます。
すると、不思議なことが起きました。
これまで見えなかったものが、見えてきたのです。
自分たちはどこで価値を出しているのか。
どの仕事が本当に成果につながっているのか。
どこに力を注ぐべきなのか。
それまで曖昧だったものが、少しずつ輪郭を持ち始めます。
■「強み」に目が向き始める
そして次に浮かび上がってきたのが、「自分たちの強みは何か」という問いでした。
改めて整理してみると、この会社には明確な強みがありました。
移動店舗や簡易店舗を活用した、機動力のある出店政策
出店前に試験的な出店と検証を行うノウハウの蓄積
創業者の代から築いてきた、主要食材の大量安定仕入れルート
つまり、「機動的に試し、素早く展開する」ことに強みがあったのです。
一方で、多角化の中で取り組んでいた事業はどうだったか。
一度出店すると固定化されるテナント型の店舗
使用する主要食材が異なる飲食業態
──これらは、自分たちの強みがほとんど生かされない領域でした。
「なぜ、ここに取り組んでいるのか」
そう問い直したとき、答えは明確には出てきません。強みではなく、"なんとなくの延長"で選んでいた。そのことに、初めて気づいたのです。
■「必要条件」としての利益という視点
意思決定の軸を考え始めたとき、もう一つ、見えてきたものがありました。
利益は「結果」ではなく、「条件」だということ。
それまでの自分たちは、売上や利益を「結果として追いかけるもの」と捉えていました。しかし、ドラッカーの次の言葉に出会います。
諸々の目標を実現するうえで必要な利益を上げている企業は、存続の手段を持っている企業である。諸々の目標を実現する上で、必要な利益に欠ける企業は、限界的な危うい企業である。
/必要な利益はいくらなのか(p.154)
(マネジメント(上) p.148)
この言葉は、自分たちの見方を大きく変えました。
利益は「あとからついてくるもの」ではなく、事業を選ぶ段階で満たすべき「必要条件」である。
そう捉え直したとき、やるべき仕事・やめるべき仕事の基準は、さらに明確になります。
強みが生きるかどうか、
そして、
必要な利益を確保できるかどうか。
この2つを満たさない仕事は、続けるほどに会社の力を削っていく仕事である、と。
■ 決断の結果、何が起きたか
この考えに沿って、強みを生かせない事業の廃棄を進めていきました。
その結果、売上は年商で約2億円減少します。しかし、当期利益の減少はわずか500万円にとどまりました。
つまり、「売上規模」と「利益」は必ずしも連動していなかったのです。
さらに重要だったのは、借入を返済するために必要な利益は、維持できていたという事実でした。
そしてもう一つ、大きな変化がありました。
社内に、平穏が戻ってきたのです。
無理に維持していた仕事が減り、判断の基準が明確になり、
不満や責任転嫁が減っていく。
組織の空気が、確実に変わり始めていました。
■ 次回予告
次回は、「個人の強み」の違いに気づいた瞬間、そしてその強みをどう生かそうとしたのかを見ていきます。
■ 今回の問い
Q:あなたの会社に、「続けているけれど、強みを生かしていない仕事」はないでしょうか。
会社の中には、「昔からやっているから」「売上があるから」「なんとなく続いているから」という理由で続いている仕事があります。
しかし、その仕事は本当に、自社の強みを生かしているでしょうか。
ドラッカーは、意思決定において重要なのは、「何をするか」以上に、「どのような基準で判断するか」だと述べています。
Eさんたちもまた、最初は「売上があるかどうか」や「赤字か黒字か」といった目先の数字だけで判断しようとしていました。
しかし、それだけでは本質が見えませんでした。
なぜなら、
売上があっても、強みを消耗している仕事がある
利益が出ていても、組織を疲弊させる仕事がある
続けることで、本来の力を弱めている仕事がある
からです。
逆に、強みが生きる仕事には、
判断が速くなる
工夫が生まれる
ノウハウが蓄積される
利益率が高まる
という特徴があります。
Eさんたちは、「何をやめるか」を考え続ける中で、初めて「自分たちはどこで価値を出しているのか」に目を向けるようになりました。
そして、
「強みが生きるかどうか」
「必要な利益を確保できるかどうか」
を、意思決定の基準として持ち始めます。
重要なのは、「すべてを続けること」が会社を守るわけではない、ということです。
むしろ、自社の強みが生きない仕事を抱え込み続けることが、資源やエネルギーを分散させ、組織を弱くしていくことがあります。
だからこそ、問い直す必要があります。
・その仕事は、本当に自社の強みを生かしているのか。
・その仕事は、未来の力につながっているのか。
「やめる」という意思決定は、縮小ではありません。
本来の強みを生かすために、資源を集中させる経営判断なのです。
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