見出し画像

実践するドラッカー実践編 第35話:母の背中を見てきた私が、隣で考えるようになるまで —女性社長と娘の10年の対話③(全6話)

事例7-3 空気が変わりはじめた—対話が、組織の流れを変えた瞬間

本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。

■ 手数は増やすようになったが

第2回で見たように、業務改善の取り組みは思うように進みませんでした。

「何者でもない自分」から何者かに変わろうと、真剣に取り組んできたGさん。
しかし周囲の認識は「社長の娘」のまま。
状況を変えようともがきながらも、結局は母親に助けを求めてしまった。

それでは、やはり「社長の娘」にしかなれていないのではないか。
前に進んでいるとは言えない。

そんな思いがありました。

それでもGさん(女性)は、「打席」に立ち続けていました。

人は誰しも失敗したくありません。
だからこそ、「打席」を増やさず、「打率」ばかり上げようとしてしまいます。
しかしそれでは、新たな可能性に挑戦することができません。
無難な「過去の成功」にしがみつき、身動きが取れなくなってしまいます。
しかも、試行回数が少なければ、「打率」そのものの意味も薄れてしまいます。

だからこそGさんは、「打率」は良くてもせいぜい3割と捉え、
まずは失敗を恐れず「打席数」を増やすことに専念したのです。

■ ホームページ改定というきっかけ

そんな中で動き出したのが、ホームページのリニューアルでした。

Gさんの最初の就職先が化粧品会社でのWeb企画だったこともあり、その担当者として声がかかります。

もともと更新の必要はありましたが、大きく手をかける前提での依頼ではなかったかもしれません。

しかしこのとき、Gさんの頭をよぎったのは、あの言葉でした。。

自らの仕事においても、まず強みからスタートしなければならない。すなわち、自分のできることの生産性を挙げなければならない。 「何もさせてくれない」という言葉は、惰性のままに動くためのの言い訳ではないかと疑わなければならない。もちろん、誰もが何らかの厳しい制約条件の中にいる。しかし、たとえ実際に何らかの制約があったとしても、することのできる適切かつ意味のあることはあるはずである。

『実践するドラッカー思考編』第2章 強みを生かす
/いまの仕事で強みを磨くp.176
(経営者の条件 p.130-131)

■ 「理念がない」という事実

「どうせやるなら、意味のあるものにしたい」

そこでGさんは、社長である母親に問いかけます。
「ホームページに掲載したいんだけど、うちの会社の経営理念って何ですか?」

にやりと笑いながら、返ってきたのは

「そんなものはない」
でした。

「そんなものがなくても、ここまでやってこれた」
「そんなことに時間をかける余裕はなかった」

そんな自負と、これまでの歩みがにじむ言葉でした。

しかし、この一言が大きな転機になります。

■ 「自分たちでつくる」という提案

正直なところ、Gさんはそうではないかと思っていました。

それならば、自分たちでつくろう。

Gさんは社内に呼びかけました。

しかし、最初の反応は冷ややかなものでした。

「そういうものは "上" がつくるものだ」
「自分たちはそれに従えばいい」

■ 対話を重ねる

それでもGさんは、あきらめませんでした。

目指す水準は妥協せず、何度でも「打席」に立つ。
その実践を続けていたのです。

「社長も部長も、きっとみんなの意見を聞きたいと思っているはずだよ」
「頭ごなしに否定する人たちではないよ」

そう伝えながら、何度も対話を重ねていきました。

■ 発言が生まれた瞬間

しばらくすると、少し変化が現れます。

「他の会社のホームページはどんなことが書いてあるか、 一緒に見て意見をもらえませんか。うちのホームページにどんなことを掲載するかを考えるため、いろんな角度や立場からの意見が欲しいんです。」

そう声をかけると、何人かが応じてくれました。

そして、それまで黙っていた一人が意見を口にします。
そうすると、別の誰かも話し始めました。

それまで静かだった人たちが、ポツリポツリと率直な言葉を口にしはじめました。

「これは、お客様からの視点が抜けているのではないか」
「うちの会社なら、もっとこうしたほうがいいかもしれない」

その場は、自然と対話の場へと変わっていきました。

■ 空気が変わる

Gさんは、このときの感覚をこう振り返ります。

「バラバラの方向を向いていた方位磁針が、
 同じ磁場に入って同じ方位を指しはじめたようだった」

空気は、誰かが変えたものではありません。
対話の中から、少しずつ生まれていったものでした。

■ 見えてきた変化

この変化は、現場にも表れはじめます。

「やらされる仕事」だった作業が、
「自分たちで考える仕事」に変わっていきました。

社員同士が相談しながら進める。
提案が生まれる。

「自分たちでやりやすいように変えていけばいいんですね」

そんな言葉が、自然に出てくるようになりました。

ドラッカーはこう述べています。

コミュニケーションは、必ずしも情報を必要としない。実際いかなる論理の裏付けもなしに経験を共有することこそ、完全なコミュニケーションをもたらす。

『実践するドラッカー チーム編』第6章 チームを活性化させる
~コミュニケーションと会議運営/ 経験を共有するP.188
「マネジメント エッセンシャル版」P.161

まさにこのとき、現場では
「情報」ではなく「経験」が共有されはじめていました。

■ Gさん自身の変化

Gさんが続けてきた「フィードバック・ノート」の記述にも変化が現れます。

それまでは「自分が何をしたか」が中心でした。

しかし次第に、

「自分の関わりによって、誰がどのように動いてくれたか」

を書くようになっていきます。

自分ではなく、周囲に意識が向きはじめたのです。

■ 関係性の変化

それまで指示待ちだった社員が、先輩に提案するようになる。

責任を避けていた人が、
「実は自分も大きな挑戦をしてみたかった」と口にする。

頼まなくても、誰かが動く。

あるとき、Gさんがこう言いました。

「ごめんね、今日はこの仕事でいっぱいだから、そっちは手伝えないんだけど」

すると返ってきたのは、

「大丈夫です。Gさんがやっている仕事は、私たちにはできない仕事です。
自分にできることは自分がやりますので、そちらに専念してください」

そんな言葉が、自然に生まれていきました。

■ 次に起きること

こうして生まれた変化は、やがて組織全体の動きへとつながっていきます。


今日の問い

Q:あなたのチームで、メンバーの方向を共有するための言葉や図や記号、サインは何ですか。

どんなにすばらしい言葉や図や記号、サインでも、誰かが用意しただけでは、「共有」できた状態には至っていません。それらを確認しながら、皆が対話を繰り返し、また修正を加える、とった共通の体験を通じて共有は進むはずです。どんなものを共有するための、どんな共有体験があるでしょうか。

■続きの物語はこちらから


このGさんの物語の第①話はこちらから


いいなと思ったら応援しよう!

清水祥行/ドラッカーを読んだら会社が変わった! よろしければ応援お願いします! いただいたチップはクリエイターとしての活動費に使わせていただきます!