実践するドラッカー 実践編 第97話:顧客に聞けば、仕事は変わる――ある地方バス会社の小さな実践⑥(全9話)
事例18-6 バスは目的ではなく、手段だった
UUバス社が、バスに乗らない人たちに直接話を聞いて見えてきたこと。
それは、
「不便だから乗らない」のではなく、
「乗り方が分からないから不安で乗れない」人がいる
ということでした。
原因の見方が変われば、打ち手も変わります。
路線を増やすことでも、本数を増やすことでもありません。
まず考えたのは、
「何が分かれば、不安なく乗れるのか」
ということでした。
乗り方の体験
地域の人たちと話していると、
長いあいだバスを利用していない人が少なくありませんでした。
中には、
「学校を卒業してから、一度も路線バスに乗っていない」
という高齢者もいました。
それなら、説明を読むだけではなく、実際に一度乗ってもらった方がよいのではないか。
UUバス社は、そんな人たちに集まってもらい、路線バスの乗り方を体験する機会をつくりました。
普段は乗務員が運転だけという「ワンマンカー」ですが、その日は昔懐かしい車掌役を案内としてつけます。
どこから乗るのか。
整理券はどうするのか。
料金はいつ払うのか。
降りるときにはどうすればよいのか。
実際にバスに乗りながら、一つずつ説明していきました。
一度経験してしまえば、それほど難しいことではありません。
しかし、長く利用していなかった人にとっては、その最初の一回を一人で試すこと自体が、大きなハードルになっていました。
UUバス社は、まずその不安を小さくしていきました。
その先の目的
ところが、参加した人たちと話していると、また別のことが見えてきました。
高齢者の中には、買い物や通院のたびに、家族に車で送ってもらっている人がいました。
家族は送迎してくれます。
それでも本人は、
「いつも頼むのは申し訳ない」
と気兼ねしていました。
バスを使えるようになれば、自分で出かけることができます。
それは単に「移動できる」ということだけではありません。
家族に気兼ねせず、自分の都合で出かけられる
ということでもありました。
そこでUUバス社は、今度は、
「どこへ行きたいですか?」
と聞くようになりました。
病院へ行きたい。
買い物に行きたい。
知人に会いに行きたい。
冠婚葬祭で斎場へ行きたい。
そこでU社長の中に、大きな気づきが生まれました。
バスに乗ることは目的ではない
U社長は、この頃の気づきを、こんな言葉で振り返っています。
私たちは、「バスに乗ってほしい」「バスに乗ってほしい」と思って活動してきました。でも・・・バスに乗ることが目的の人なんて、この世にはいないことに気づきました。
バスは手段にすぎません。きっと、世の中のすべての商品・サービスも、そうなんですよね。
それまでは、「どうすればバスに乗ってもらえるか」を考えていました。
しかし、お客様は「バスに乗りたくて乗る」わけではありません。
病院へ行きたい。
買い物をしたい。
誰かに会いたい。
家族に頼らずに、自分の用事を済ませたい。
バスは、その目的を実現するための手段です。
ドラッカーは、こう述べています。
企業が売っているものと考えているものを顧客が買っていることは稀である。(中略)顧客は満足を買っている。しかし誰も、顧客満足そのものを生産したり供給したりはできない。満足を得るための手段をつくって引き渡せるにすぎない。
顧客は満足を買っている p.53
(創造する経営者 p.118)
UUバス社が「売っている」と考えていたのは、「路線バス」でした。
A路線。
B路線。
何時何分発。
どの停留所を通るか。
しかし、お客様が買おうとしていたのは、それ自体ではありません。
「自分で病院へ行ける」
「家族に頼まず買い物へ行ける」
といった、その先の満足でした。
だからこそUUバス社は、
お客様の目的を果たす手段として、自分たちに何ができるか
を考え始めました。
目的から探す時刻表
そこで見直したのが、時刻表でした。
従来の時刻表は、バス会社の側からつくられています。
A路線は何時何分。
B路線は何時何分。
社員にとっては、それで十分に意味が分かります。
しかし、普段バスを使わない人は、路線番号を見ても、
「自分の行きたいところへどう行けばよいのか」
が分かりません。
お客様が知りたいのは、
「9番のバスは何時に出るか」
よりも、
「市民病院へ行くには、どうすればよいか」
ということでした。
そこでUUバス社は、地域の人たちに行きたい場所を聞きながら、
目的別の時刻表をつくっていきました。
たとえば、市民病院へ行くには、9番のバスに乗り、約15分。
「市民病院前」で降りる。
〇〇斎場へ行くには、15番のバスで駅のターミナルまで行き、3番のバスへ乗り換える。そこから約5分。「○○3丁目」で降りる。
といった形です。
会社が持っている路線そのものは変わっていません。
変えたのは、お客様の目的から見たときの、情報の組み立て方でした。
手段をつくる
ここまでの取り組みを振り返ると、UUバス社が大きな設備投資をしたわけではありません。
乗り方が分からない人には、実際に乗ってもらいました。
その中で、どこへ行きたいのかを聞きました。
そして、すでにある路線や時刻表を、お客様の目的から組み替えました。
新しい価値を生み出したというより、
すでにある経営資源を、お客様が満足を得るための手段として使い直した
といった方が近いのかもしれません。
自社の商品を中心に考えると、
「もっとバスに乗ってもらうにはどうするか」
という問いになります。
しかし、お客様の目的から考えなおすと、
「このお客様が実現したいことのために、自分たちのバスをどう役立てられるか」
という問いに変わります。
問いが変わると、同じバス、同じ路線、同じ時刻表からでも、違う打ち手が生まれました。
【今日の質問】
Q:あなたの商品やサービスは、お客様の何を実現するための「手段」ですか?
自分たちは、何を売っているのか。
その問いには、商品名やサービス名で答えることができます。
けれども、お客様が本当に欲しいのは、その商品そのものではないかもしれません。
それを使って、何をしたいのでしょうか。
何を実現したいのでしょうか。
何から解放されたいのでしょうか。
お客様の目的が見えてくると、
新しい商品をつくらなくても、
伝え方を変える。
組み合わせを変える。
使い方を変える。
といった手段が見えてくるかもしれません。
~次回予告~
一つの停留所から始まった実践は、少しずつ別の地域にも広がっていきます。
次に見えてくるのは、小さな仮説検証を、どう全体の成果につなげていくかという課題です。
UUバス物語の第①話はこちらから
本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
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