実践するドラッカー 実践編 第13話:縮小市場で老舗企業はどう生きるか④(全4話)
事例3-4 [事業編]の実践~コロナ禍を乗り越えて気づいた三つの強み
卓越性の定義を問い直し続ける
日本酒市場は、長期的には縮小しています。
この会社もまた、その現実の中で「われわれの強みは何か」という問いを何度も自分たちに投げかけてきました。
振り返ると、コロナ禍をきっかけに会社の考え方を変える 三つの気づき がありました。
小さい会社だからこその 機動力
自社製造へのこだわりを手放す発想
会社が窓口となる 信用
この三つが、この会社の可能性を広げていくことになります。
① 小さい会社の機動力
コロナ禍の中で始まった消毒用アルコールの製造 はこの酒蔵に一つの確信をもたらしました。それは小さい会社ほど素早く動けるということです。
実際、この商品は全国でも 五本の指に入るほど早いタイミングで認可 されました。
原料の確保。
瓶の調達。
行政との調整。
意思決定の速さがそのまま行動の速さにつながりました。
この経験は社内に「小さいことは弱みではない」という認識を生み出しました。
② 自社製造へのこだわりを手放す
二つ目の気づきは自社製造へのこだわりでした。
酒蔵として「自分たちで作る」という意識はとても強いものがあります。
しかしコロナ禍の経験を通してC社長は気づきます。
すべてを自社で作る必要はない。
必要とされるものを安定して届ける。
そのために原料や製造方法を柔軟に考える。
この発想の転換が新しい可能性を生みました。
③ 新市場が教えてくれた「信用」という強み
①の機動力。
②の発想の転換。
こうした経験を経てC社長は 海外市場 に目を向けるようになります。
そこには若い頃の 海外留学の経験 がありました。
外から日本を見る経験が「日本の酒や発酵文化には、まだ世界での可能性があるのではないか」という視点を生んでいたのです。
つまりここでは経営者個人の強みが会社の可能性を広げようとしていたとも言えます。
■海外取引が教えてくれたこと
海外との取引を検討する中で、C社長は、ある出来事に出会います。
あるとき海外の取引先から相談がありました。
「こういう商品が欲しい」
しかしその商品は自社では扱っていません。
そこでC社長は、先方のニーズを詳しく聞き取り、自ら調査をして
「その目的であればこの会社から仕入れるといいですよ」と、自社以外のメーカーを紹介しました。
すると相手は少し驚いた様子でこう言いました。
「いいえ。」
そして続けてこう言ったのです。
「あなたの会社が窓口になってくれることが私たちの取引の条件です。」
C社長は、この言葉にはっとします。
取引先が求めていたのは誰が作った製品かではありませんでした。
どの会社が責任を持つのかだったのです。
これまでの歴史と、時代の変化に対応し続けた実績が
知らず知らずのうちに
自分たちの強み=信用
になっていたことに気づかされた瞬間でした。
■青梅の問題が教えてくれたこと
海外市場では、もう一つ重要な条件がありました。
それが 三つの安定 です。
供給量
品質
価格
この三つが安定していなければ、海外向けの取引は成立しません。
その現実を強く感じたのが梅酒でした。
C社長の会社では、地元産の青梅にこだわった地域ブランドの梅酒を作っていました。
しかし農産物には不作 があります。
地元の青梅が不作になれば輸出量は安定しません。
海外の取引先にとって「今年はこれだけしか出せません」という商品は
ビジネスとして成立しないのです。
このときC社長の頭に浮かんだのが、ずっと以前に実践するドラッカー[事業編]講座の中で聞いた話でした。
札幌では、海外観光客向けに 真珠 が売れるというのです。
理由は単純でした。
彼らは「札幌」に来ているのではなく
「日本」に来ているからです。
日本人も「ローマ」に旅行に行ったのに
「ベネチアングラス」をお土産に買うことがあります。
それと同じことでした。
■国内市場の常識と海外市場の常識
そのときC社長は
あることに気づきます。
地元産の青梅というこだわりは
「国内市場でのブランド戦略」の一つに過ぎない。
海外市場では…
安定して供給できることが
市場が求める必要最低限の価値であり
それを維持できる信用がブランドだったのです。
もちろん、地元の青梅でないものを使うことに対して
当初は、現場に抵抗感はありました。
しかしこれまでの経験から
現場でも少しずつ気づき始めていました。
自分たちのこだわりが
必ずしも市場価値とは一致しないこともある。
そこで
数量限定の、地元原料にこだわった梅酒とは別に
輸出向けの梅酒ブランドを別に作ることにします。
使用する青梅は
安定して調達できる他地域のもの。
しかし、地域にこだわらなくても、
作ったものに責任をもつ製造元として
その青梅の品質にはとことんこだわる。
こうして
新しい商品が生まれました。
■強みはどこに生かせるのか
ここで思い出されるのが
ドラッカーの言葉です。
ゼロ成長を当然のこととしてはならない。ゼロ成長企業の経営にあたっては、「われわれの強みは何か。その強みは、人口、市場、流通、技術の変化によって生ずる機会のどこに適用できるか」を問わなければならない。人的資源の能力を維持し、その生産性を向上させ続ける会社は、必ずや大きな成長の機会に出合う。
/ゼロ成長に見えても機会はあるp.258
(実践する経営者 p.39)
市場が変わるとき、重要なのは
強みをどこに生かせるか
を問い続けることです。
C社長の酒蔵もまた
自分たちの強みを問い直しながら
新しい機会を探し続けています。
この挑戦は
まだ続いていきます。
(完)
【今日の問い】
Q:あなたの会社の強みは、現在とは別の市場や顧客に対して、どのような価値として生かせる可能性があるでしょうか。
強みは、それ自体が価値になるわけではありません。
同じ強みでも、市場や顧客が変われば、評価される価値は大きく変わります。
C社長の会社でも、大量生産設備は長い間「時代遅れの設備」のように感じられていました。
しかし市場を変えると、それは
安定供給できる力
として大きな価値を持ち始めます。
また、「自社ですべて作ること」へのこだわりを手放したことで、会社はより柔軟に市場のニーズへ応えられるようになりました。
重要なのは、
「自分たちは何が得意か」だけでなく、
「その強みは、どこで価値になるのか」
を問い続けることなのです。
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本記事は、実際の企業事例をもとに、人物名、社名、地域、時期、数値などを一部変更・再構成しています。
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