王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第18話 狼たちの鎮魂歌
第18話 狼たちの鎮魂歌
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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】

"ブォォォォォォォォォン!!!!"
タイヤン軍軍隊長、玲王により、タイヤン地方庁が丸々宙に浮き、隠れていた地下が浮き彫りになった。
地方庁にいる職員たちは勿論、外で待機していた狼たちも驚きを隠せないようだ。それは地下で、謎のセカンドとやり合っていた紫戯たちも同じくである。
「え、あ、え?!!あ、あれ、さっちゃん?!幻?!死ぬ前の幻想?!」
「何が・・・どうなってんのよ・・・」
「ちゃう・・・あれは本物や!おーーい!ココロー!サチー!!」
絶望の淵にいた琥樹とミドリ、そして脳天気に手を振る洋一。再会の喜びも束の間、影から刺客が動いた。
"ガキン!!!"
「・・・っ、逃げんじゃねえ!」
突然の出来事に、謎のセカンドたちは明るくなった場所を避けるように逃げようとする。しかし、紫戯は逃すまいと欠けた鉄格子で襲いかかる。
"キン!キン!グイン!!"
「・・・っ!」
鉄格子を器用に使い、身体を回転させ、1人を捕える。
しかし、もう1人も捕らえようとしたが、うまく逃げられてしまった。
そして——
「っ!」
"グィッ!"
「ちょ、ちょっと!!」
幸十たちのほうに注意が行っていたミドリが捕まり、首元にセカンドの武器が向けられた。
「ね、姉さん!!」
緊迫した状況の中、その謎のセカンドが口を開いた。
「離せ。さもなくば、この女を殺すぞ。」
「・・・・・。」
紫戯は捕らえていたもう一人の刺客の首を掴んだまま、冷酷な瞳を放つ。
「し、紫戯!しゃあなし、離すんや!姉さんが危ない!」
洋一が叫ぶも、紫戯は微動だにしない。
「本当に殺すぞ。」
「やれよ。こいつを生け捕りにして吐かせる方が、よっぽど価値がある。」
「あんた!!いい加減にしなさいよ!味方でしょ!!」
ミドリの怒声が響く中、誰かがこちらに走ってくる音が微かに聞こえてきた。
"タッタッタッタッタ!"
幸十たちが地上に降りて、こちらに向かって来ているのだろう。
最悪、セカンドである幸十に助けてもらえればと洋一が考える。
「——っ?」
その最中、紫戯は何かに気づいたのか、ある一点を凝視したまま動かない。その瞳が、大きく揺れる。
「・・・紫戯?」
紫戯の異変に、洋一が尋ねると——
"ガッ!シュン!!!"
「いーーーやーーーー!!!」
「っ?!」
一瞬の隙。ミドリを盾にしていた刺客が、驚異的な踏み込みで紫戯の拘束を弾き飛ばし、仲間を奪還した。用済みとなったミドリをゴミのように放り投げ、彼らは光の届かない闇の奥へと消えていく。
紫戯が舌打ちをしながら、宙に舞ったミドリを咄嗟に受け止め、着地する。
”グィ!”
「ちょっと!!!ふざけんじゃないわよ!!あんた、私を見捨てるつもりだったでしょ!!こんのクソガキ!!!ちょっと容姿に恵まれてるからって、調子乗るんじゃないわよ!!?」
着地するなり、紫戯の艶やかな黒髪を鷲掴みにして振り回すミドリ。
「いってーな!引っ張んじゃねえぞ!!」
「ちょ、ちょっと、落ち着いて・・・」
「「あんた/お前は黙ってろ!!!」」
「酷い八つ当たりだ!!!」
止めに入った琥樹が返り討ちに遭い、情けない声を上げていると、ようやく地上に降り立ったココロたちが駆け寄ってきた。
「洋一!!!」
「お!ココロ・・・」
"ガバッ!!!"
「お、ぉお!?」
駆け寄るなり、ココロが洋一を力いっぱい抱きしめる。
「こ、ココロ?!ど、どないしたん?!震えとるやないか!」
"バシッ!"
「どうしたはこっちのセリフだ!!死んだかと思ったんだぞ、この馬鹿!!」
「へ?し、死?」
再会の安堵で声を震わせるココロの横では、滝のように涙を流す琥樹が、幸十に抱きつき・・・いや、しがみついていた。
「さっっちゃぁぁぁぁぁぁあん!!会いたかったよぉぉぉぉお!みんな酷いんだ!俺を投げたり、盾にしたり・・・生きた心地がしなかったよぉぉぉぉお!!」
"なでなで"
「大変だったね。」
「うん。ぐすん・・・」
抱き合い安堵する者、しがみ付く者、髪を引きちぎり合う者・・・。自由気ままなコウモリたちを、玲王は呆れたように眺めていた。
「何なんだ、こいつら・・・」
だが、そんな喧騒をすり抜けるように、玲王の傍らから一匹の小さな影が歩き出した。小さな銀の狼だ。 トコトコと危なっかしい足取りで向かった先には、地下に閉じ込められ、骨が浮き出るほど弱り果てた同胞たちがいた。
「キュン・・・」
地下に閉じ込められ、弱り果てた”銀の狼”たちは、その小さな銀の狼を見ると、ボロボロの身体を痛々しくも引きづりながら近づいていく。
「キャゥン・・・」
その近づいてくる狼たちを、慰めるように舐め始める小さな銀の狼。
すると——
「ひっ!!た、大量の銀の狼!!」
その様子を見ていた地上の狼たちも、次々と地下へ飛び込み、弱った仲間の体を舐め始めた。
"——ねぇ、死なないで。"
祈るように、自らの温もりを分け与えるように。 けれど、弱り果てた狼たちは、仲間に会えた安心感からか、どこか穏やかな表情で横たわり・・・一頭、また一頭と、静かにその瞳を閉じていく。
どれほど舐めても、冷たくなっていく肉体。その様子に、 小さな銀の狼の瞳から、大粒の涙が溢れ落ちた。
「アゥゥ・・・アゥーーーーン!!!」
まだ幼く、震えるような甲高い遠吠え。 それを合図に、周囲の狼たちも天を仰ぎ、声を重ねた。
”アオーーーーーン!!!”
それは、地獄のような地下で孤独に耐え抜いた魂たちを送り出す、鎮魂歌。 悲しみと、怒りと、慈しみ。 重なり合う咆哮は、浮遊する地方庁の瓦礫を震わせ、静まり返ったタイヤン地方の隅々まで響き渡った。
♢♢♢🐺♢♢♢☽♢♢♢🐺♢♢♢
”アオーーーーン!!”
静まり返った夜の空に、優しく光を湛える月。
その月の輝きを浴びて、巨大な ”鳥の巣” を思わせる三つの異形な塔が、闇の中にそびえ立っていた。 そこでも同時刻、まるでタイヤン地方の狼たちと重なりあうように、そこにいる狼たちの遠吠えが鳴りやまずにいた。
三つの塔のちょうど真ん中。
最も大きく立派な塔。その名は ”ヒナギクの塔” 。 塔の中央に、一輪のヒナギクが寂しく咲き誇るその天辺から、鳥の面を被った者が身を乗り出していた。
その者は、月族・天神、オルカ。 まだ幼い子供のような容姿を身に纏い、下界で一斉に鳴き始めた狼たちの咆哮を、不思議そうに見つめている。
「なーーにあれ、どうしちゃったの。」
能天気なオルカの背後には、狼を人に模したような巨躯の男——爛が、神妙な面持ちで控えていた。 普段は怒りに任せて暴れ回る爛も、今夜ばかりは様子が違う。遠吠えに呼応するかのように、その瞳には微かな揺らぎがあった。
暫くして、オルカは考えるのを飽きたように、その場から勢いよく立ち上がった。
「まぁ、いいや!そんなことより、そろそろ ”薪様” からの連絡、届くはずなんだけどな~。まだ、月の城から誰も来てない?」
「・・・はい。まだ誰も。」
爛の短い回答に、オルカは不満げにふんぞり返る。
「あーーーーもう!!そろそろ暴れないと、身体がおかしくなりそうーーーー!!!こんな所、つまらないよー!!失敗して戻って来た朱里の調教は飽きてきちゃったし、可愛がってたヌチは死んじゃったし。まぁ、使い物にならない人形はいらないからいいんだけど~。」
オルカは地団駄を踏み、自身の髪をかき乱した。
「でもそのせいで、新しい太陽の子供たち、入ってこなくてつまらない~。薪様はそれでいいって言うけどさぁ・・・つまらないんだよ!!今いる奴ら、アレの素材として、生かしといてるけどさぁ。もう全員やっちゃっていい?全員とは言わず、何人か。僕の憂さ晴らしにぃぃいい!あぁぁぁぁ!刺激がほしいーー!僕の本能が、快楽を求めてるよーーー!」
「オルカ・・・タマ・・・まだ・・・マダだめ、デ・・・」
のたうち回るオルカをなだめるように、彼の懐にいた奇妙でボロボロの熊のぬいぐるみが、カタコトの声を漏らした。
”ザク!”
刹那、オルカはどこからともなく取り出した赤黒く輝く短剣で、そのぬいぐるみを無慈悲に突き刺した。
”ザクッ! ザクザクッ!!”
「この僕に、”理性” を持てって?はぁぁあ?ふざけんなよ!もう我慢ならないーー!!誰か殺した――い!痛めつけたーい!!今のポンコツな太陽族なんて、僕一人でもあっという間に壊滅にできるのにーーーー!!!あーーーーもう、最高にイライラするーーー!!!こんな時、”3番の検体” がいれば、少しは楽しめそうなのに、まだ見つからないしぃぃいい・・・。」
容赦なくぬいぐるみを切り刻んでいたオルカだったが、ふと、その手を止めて顔を上げた。
”パァァア!”
「あれ、蕘の気配!薪様からの伝言、持ってきたのかも!!キャハ!!」
子供のようにはしゃぐと、彼は血のような色の短剣を握ったまま、部屋の外へと駆け出していった。
静まり返った部屋。爛はオルカの狂態など意に介さず、ただ窓際へと歩み寄った。 遠くから響く ”狼たちの鎮魂歌” を聴きながら、彼は手首に結びつけられた、"ピンクの布"にそっと触れる。
視線の先には、冷たくも光輝く天空の月。
「何度だって・・・何度だって、俺は君を選ぶよ。」
爛の低い声が、夜風に混じっていく。
「——だから待っていろ、ヒナギク。」
