王神愁位伝 第4章【葬華なる銀昏架】 第19話 もふもふ行軍の中、残存する違和感
第19話 もふもふ行軍の中、残存する違和感
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王神愁位伝 設定資料集【ココロのノート】

"タタタタタタタタ!!!!"
タイヤンの大地を駆けていく、”銀の狼”の群れ。
その瞳に宿っていた、あの攻撃的で憎しみに満ちた炎はどこへやら、今の彼らの表情は、吹く風のように穏やかだ。 力強く地を蹴る狼たちの背には、ココロたちの姿があった。
「・・・とりあえず、解決して安心いたしました。ご尽力くださり、ありがとうございます、ココロさん。」
タイヤン軍隊長・玲王の妻、由空が安堵の息を漏らすと、ココロは首を振った。
「いえ、軍隊長が動いてくださったおかげです。それに・・・由空さんも。軍隊長に色々掛け合ってくださって、本当にありがとうございました。」
「とんでもございませんよ。私の方こそ、久しぶりに外の空気に触れられて、心が洗われるようです。なにより・・・」
"もふもふ"
由空は、自分が乗っている狼の柔らかな毛並みに顔を埋めた。
「・・・クゥン」
「”銀の狼”さんたちも、もふもふで可愛いじゃありませんか。生きているうちに、こんな経験が出来るとは、嬉しいものです。お腹の子も同じ気持ちなのか、先ほどから蹴っているのですよ。ふふっ。」
「あはは・・・」
”銀の狼”たちの鎮魂歌が落ち着いた後、地方庁に囚われていた ”銀の狼” たちを生死関係なく ”羅皇の地” に返すと宣言したタイヤン軍隊長の玲王。暴れていた ”銀の狼” たちも、仲間を奪還し、小さな狼の先導もあり、驚くほど静かにそれを受け入れていた。
もちろん、地方庁の職員たちは『中央庁の指示なく勝手に持ち出すな』と猛反発したが、それを黙らせたのは “暴力的な無言の圧力” だった。
玲王の心臓が凍るような冷徹な眼力。
幸十の、底の知れない異様な黄金の瞳。
そして——ミドリに髪を引っ張られ、超絶不機嫌なまま『今すぐどいつを狩ってやろうか』と殺気全開な紫戯。
最強にガラが悪い三人による無言の圧力に、職員たちは腰を抜かして黙り込むしかなかったのだ。
その後、タイヤン軍基地へ寄り、待機していた拝理と咲夜とも無事に合流。 今は一行揃って、狼たちを故郷へ導くため、再び ”羅皇の地” を目指してひた走っている。
「さ、さっちゃん、このワンコ、お、襲ってこないよね?俺、タイヤン地方入ってから毎日、夢で ”銀の狼” に食べられてたから・・・」
動けない狼たちと共に、上空を移動している玲王以外は、”銀の狼”たちに乗り向かっていく。そんな中、幸十にしがみつきながら、琥樹が泣きべそをかいていた。
「キャン!」
「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁあ!!!」
幸十の胸元に潜り込んでいる小さな銀の狼が元気に鳴くと同時に、琥樹が情けない悲鳴を上げる。
「”食べないよ”、だって。」
「え、ほ、本当?」
「うん。”ワンコはもっと美味しいもの食べたい”って。」
「ちょっと。俺が不味いみたいじゃん。」
「なんや、マダムにはあんなに人気やのになぁ。」
「・・・中身スッカスカそうだな。」
「やめてよ!ひどい!・・・てか、この子誰?!さっきまで居なかったよね?!え、お化け?!今度はお化けなの?!俺、お化けも無理なんだけど!」
幸十たちと同じく銀の狼に乗る咲夜。その希薄すぎる気配に、琥樹がまたもや慄く。
「咲夜だよ。影薄いだけだから、大丈夫だよ。」
「おい。」
「さく・・・え?」
騒ぐ彼らの前を走るココロ。彼は喧騒を気にも留めず、坂上との無線を思い出していた。
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坂上:『あぁ・・・。本当に良かったです。皆さん、無事で。怪我などは大丈夫ですか?』
ココロ:『はい。四人ともピンピンしてます。地下に捕らえられていたことについては、タイヤン地方庁は知らないの一点張りですが。ただ・・・琥樹と紫戯が、セカンドを使えないようになってしまって。』
坂上:『セカンドを・・・使えない?どういうことでしょうか?』
ココロ:『二人の腕に ”赤い腕輪” が付けられているんです。それが原因のようで・・・。ただ、どんな力があるのかも分からないので、無理に外さない方がいい気がしていて。軍隊長も知らないような感じでした。』
坂上:『なるほど・・・。タイヤン地方庁で付けられた可能性が大いに高いですね。それはこちらで調べますので、おっしゃる通り、無闇に取らないでおきましょう。コウモリの翼はありますか?』
ココロ:『四人が持っていたのは、誰かに掴まった時に取られてしまったようです。ただ、俺たちが太陽城を出るとき、余分に持って行くよう坂上さんが言ってくれたおかげで、四人に予備の翼を渡すことが出来ました。』
坂上:『そうですか・・・。』
ココロ:『それと・・・』
坂上:『どうしました?』
ココロ:『いや、他にも報告したいことが諸々あるのですが・・・』
坂上:『・・・・無線では難しそうですね。分かりました。これから ”羅皇の地” に行かれるんでしたっけ?』
ココロ:『はい。』
坂上:『・・・では、ミドリさんは先に太陽城へ帰還して、今回のことを報告するよう伝えてもらえますか?』
ココロ:『ミドリさんを・・・ですか?』
坂上:『はい、お願いします。』
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(”銀の狼”の死骸をすり潰して、武器にしていたなんて・・・。それに紫戯たちが遭遇した謎のセカンドも・・・。どう考えても、参謀本部が何かを企んでいるとしか考えられない。無線を傍受されて、先回りされても困るしな。いち早く、ミドリさんが坂上さんに伝えてくれることを祈ろう。それにしても・・・あの ”赤い腕輪”、どこかで見覚えが・・・。)
「・・・浮かない顔だな。」
ココロはどこか漠然とした不安が募る中、隣にいた拝理が口を開いた。
「お前たちは、やることをやったんだ。後のことは、太陽城にいるお前たちの仲間の仕事だ。・・・それに、この件解決したことで、タイヤン軍隊長に相談したいこともあるのだろう?」
拝理は、”銀の狼”の件を解決することで、鳥の巣城にいる子供たち奪還をタイヤン軍に手伝ってもらう手筈を見通しているように言った。
「あと、”皇の印典” か?立ち止まっている暇はないぞ。坊や。」
ココロは驚きながらも、どこか彼の不安をかき消すような拝理の言葉に、次に向け意気込むように頷いた。
「おい、このデカい球体か?」
ココロが拝理たちと話していると、先頭を走っていた紫戯の声と共に、狼たちのスピードが落ちる。
ココロは再び戻った ”羅皇の地” に、どこか一安心し、上空で移動している玲王に呼びかけた。
「軍隊長!!!着きました!ここです!」
しかし——
「・・・・・。」
「あれ、返事ないな。」
一向に返事が返ってこない。
「全く・・・」
「?」
拝理に支えられながら、狼から降りた由空は、大きなお腹を支えながら、その辺に落ちていた木の枝を拾い上げた。
「ふん!!」
"ビュン!!"
「え」
由空が投げ放った枝は、凄まじい威力で空中の玲王を直撃した。
"ゴチン!!"
「・・・っい!」
"ドシーーーーン!!"
見事にバランスを崩して墜落した玲王。 だが、地面に叩きつけられながらも、彼は左手だけを必死に天へと伸ばしていた。
「ぁあ・・・」
近づいたココロも拝理も、どこか納得したように呆れた表情をする。
「もう着きましたよ。いつまでその写絵を見てらっしゃるのですか。」
「おっまえ!これが汚れたらどうすんだ!!!」
「・・・移動中も、ニヤニヤしながら、それをずっと見てらっしゃったんでしょう。帰ったらいくらでも見れますから・・・って、あら。猫被るの、止められたのですね。私と、真鹿・布伎以外には、あのよく分からない喋り方するのに。ふふっ。」
「み、見てねぇ!猫も被ってなんか・・・っ!」
(・・・絶対見てたし、やっぱりこっちが ”素” なんだ。)
念願の “太陽王の写絵” を手に入れた玲王は、移動中ずっと鼻の下を伸ばしていたようだ。
タイヤン地方庁で渡した瞬間から、食い入るように見つめる玲王に、ココロは終始引いていた。
「——で。この玉が ”羅皇の地” か?どうやって入るんだ。」
玲王は、"王の写絵"を丁重にポッケに入れると、目の前の巨大な繭のような球体を見上げた。
「幸十!ワンコを連れてきてくれ。」
琥樹とじゃれあっていたワンコを抱え、連れていく幸十。
球体の前まで来ると、小さな狼は鼻を引くつかせ、前回同様、雛菊の花が咲く枝を噛んで引っ張った。
すると——
"シュルシュルシュル・・・"
「・・・な、なんだこれ」
「すごい・・・」
初めて入る者たちは、球体を覆っていた植物たちが許可するかのように扉をつくるその光景に、驚きを隠せないようだ。未開の地と言われてきた羅皇の地が開かれ、誰もが息を呑んだ。
するとその先に、ゆっくりと青い瞳を開き、顔を上げるヒナギクがいた。
ヒナギクは、狼たちを引き連れた一行を見ると、慈しむような微笑みを浮かべた。
"おかえり。この地の子供たち。"
