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カーブドッチ物語 #08|最強のサポーター「ヴィノクラブ」

「日本のナパ・バレー」をつくりたい。そんな夢を抱いてようやく決まった土地は、砂利道のどん詰まり。

まわりに民家もなく、バスも電車も通っておらず、国道からも外れた、こんな場所にワイナリーをオープンしてしまいました。

まさか、この道の先にワイナリーがあるとは思えませんよね

初年度に仕込んだぶどうは、早ければ12月には最初のワインとして出荷されます。このワイン、一体どうやって売れば良いのでしょうか



会員制度「ヴィノクラブ」ができるまで

ナパのようなワインの楽園をつくりたかった私は、直売にこだわりました。
お客様が日本中からひっきりなしに訪ねてくるワイナリー。それが理想だったからです。もちろん、決して何の策もなしにオープンを迎えたわけではありません。

ナパだって、最初は一軒から始まったのです。新潟でだってきっとできるはずだと信じていました。ただ、ワイナリーの存在をどうやって知ってもらおうか…。もちろん広告を出すお金なんてありません。

そこで思いついたのが、ワインの試飲会です。

1,000本つくった試験製造ワインを使って、一般の方を対象にした試飲会東京で始めたのです。販促用になら自由に使うことを許されていたからです。


成城学園で試飲会を週3回

試飲会は、交通の便もイメージも良い場所でと考え、東京の「成城学園」の駅前に一軒家を借りました。家賃は15万円と高値。でも、経営していたミズ・ファクトリーのスタッフ夫婦が、留守番とお手伝いを兼ねて住んでくれることになり、実際の負担は半分で済みました。

「成城ワインサロン」と名付け、私や落さんの友人など100人への声掛けから始めました。

新潟から軽トラでワインを運び込み、一年間、毎週3回のペースで開催。立地の良さにも後押しされ、少しずつ口コミで輪が広がっていきます。

当時のニュースレター

とはいえ、この時点ではまだワイナリーがないので、「美味しいワインをつくりたい」「ナパのようなワインの楽園をつくりたい」と語っても、皆さん半信半疑。確かに、ちょっと怪しげですよね。

ところが、実際にワインを味わっていただくと、「美味しい」「へえ、こんなワインが出来るんだ!」と驚きの声が上がります。植えたばかりのぶどう畑や新潟の景色をスライドで映すと一気に現実味が増し、会が終わる頃には「応援したい」という人が増えていきました。思い切って高級住宅地の一軒家にしたのも良かったのでしょう。


ニュースレター「ワインのひとりごと」を創刊

ファンづくりの一環として情報発信も始めました。FAXや郵送で、私たちの想いや夢を盛り込んだニュースレター「ワインのひとりごと」を届けます。文章と写真を糊で切り貼りした手作り第一号は、B5サイズの見開きで200部ほど刷りました。

第一号のタイトルは
〈突然ですが、私たちワインづくりを始めました〉

当時受け取った人たちは、びっくりしたと思います。特に私の友人たちは、突然のワイン事業宣言に当然ながら拒否反応。「頭おかしくなったんじゃないの」という電話を随分といただきました。

けれども、SNSもメールもなかった時代。毎日の郵送作業は手のかかる裏方業務で、ミズ・ファクトリースタッフにとっても貴重な収益源になっていきます。


ワインがないから、夢を売ろう

この試飲会、実は「会員制度」につなげることが目的でした。なぜなら、ワインが出来るまでの運転資金が必要だったからです。

当時のカーブドッチは完全な無収入でしたが、交通費や文具代、畑の資材や肥料など、お金は日々出ていきます。

落さんと弟たちには家族もいるので、待ったなし。ここを何とか乗り切らなくてはなりません。2人いたスポンサーはすでに降りていて、頼れるのは自分たちだけ。でも、売るワインはまだ出来ていません。

考えました。毎晩、夜も寝ないで死に物狂いで考えて、考えて、考え抜きました。

チャンスは一度だけ。上手くいかなかったらそれで終わり。失敗は許されません。ひらめいた答えはシンプルでした。

売るモノがないなら、「夢」を売ろう。ワインづくりの夢を買ってもらい、そのお金でワインをつくり、できたワインでお返ししよう

今でいうクラウドファンディングですが、当時は、まだそんな言葉すらありませんでした。


その場の勢いで出せるのは、いくら?

考え出した会員制度の仕組みがこちらです。

一口一万円で、一本のぶどうの木のオーナーになれる
10年間、毎年一本ずつワインが届く
年会費はなし

一万円で、2〜3,000円クラスのワインが10本もらえる超お得な設定。まさに大判振る舞いです。

金額はかなり悩みました。誰にも相談せず、自分で即決できる上限は?いいなと思ったその時に、財布から出せるのはいくら?

答えは一万円。仮に10万円だと、家に帰って誰かに相談したくなるし、もし反対されたら気持ちがしぼんでしまうでしょう。とにかく、たくさんの人に会員になってもらうことを第一に考えたのです。

ヒントになったのは、平成景気で湧いていた2つの話題です。ひとつは、「誰でも一万円から株が買える」という野村証券の広告。まとまった額でなくても株式投資が可能になりました。

もうひとつは、経営コンサルタント・大前研一氏が立ち上げた「平成維新の会」の会費・月額一万円。それを見て、「一万円って出しやすいのかも」と思いました。


シンプルに、すべて数字の「1」で

入会条件は、すべての数字を「1」にそろえました。

口コミで広げてもらうには、覚えやすくて人に伝えやすいことがなにより大切だと考えたからです。

もうひとつこだわったのが、10年間という長さ。

ワインづくりと同じように、長期間にわたって絆を育む仕組みにしました。ファンとして、リピーターとして、応援し続けてもらえる関係性をつくりたいと思ったのです。

落さんには、一番に相談しました。「ワインの原価はいくらですか? 赤字になりませんか?」と尋ねると、「なんとかなる」と答えにならない返事。でも、「先にお金が入ってくるんだから、細かいことはいいよ。お返しはワインで、しかも10年で返すんだから」と、基本的には賛成でした。

もしも事業がうまくいかず、お金が無になったとしても、「ゴメンナサイ」で許してもらえるかも。そんな金額設定にしておきたかったのも、正直なところです。


コミュニティに支えられて

1992年1月、この会員制度を「ヴィノクラブ」と名付けました。Vino(ヴィノ)はラテン語で、ワインの語源と言われています。立派なパンフレットも出来上がりました。

パンフレットでは地元・新潟の美味しいものもご紹介

試飲会場では、加入者が順調に増えていきました。

加入してくれた方にパンフレットを配る先を紹介してもらい、試飲会の案内を送る。そしてまた新たな人に来てもらう。このサイクルを絶え間なく回し続けます。

当時は個人情報保護の意識も薄く、紹介先リストがどんどん集まっていきました。なかには、一人で50人以上も紹介してくれる人も現れました。

その年の4月には、「苗植えツアー」を敢行。大型バスに乗り込み、30人の参加者とともに新潟へ。初めての畑に3,000本の苗を植えました。作業のあとに、スタッフも一緒にバーベキューをしたのは懐かしい思い出です。

砂地なので作業はどんどん進みました
このあとはワインではなくて、ビールが最高のご褒美でした

ミズ・ファクトリーのスタッフは、パンフレットや申込用紙の発送作業、紹介者リストの整理、電話応対で大忙し。噂を聞いた酒屋さんからの問い合わせも増えました。

郵便局から毎日届く加入用紙の束はどんどん厚くなり、数万円から数十万円が自動的に振り込まれるようになります。試飲会では、落さんに作り手としての熱い想いを語っていただき、時にはパンやチーズも用意しました。

申込用紙に添えられた手書きのメッセージに励まされました

そして、一年後。ワイナリーオープンするころには、会員数3,000人超えという想定外の結果が待っていたのです。

その後も会員は増え続け、3年後には一万人を突破。私たちの救いの神となったヴィノクラブですが、なぜこんなに集まったのかは今でも謎です。

でも、今、カーブドッチがあるのは間違いなくこのヴィノクラブのおかげなのです。


駐車場の危機

おかげさまで初年度の冬のワイン出荷も終え、無事新年を迎えることができたカーブドッチ。ところがここで、ワイナリーにある問題が持ち上がります。

建物の正面に駐車場として借りていた松林が突然、売りに出されたのです。

所有していた不動産会社さんに確認してみると、提示された価格はなんと4,600万円。こんな辺鄙な土地にこの値段とは、しかも買い手はうちしかいないじゃないの! 手元には、そんな大金は残っていません。

手前はぶどう畑
製造場の奥に広がるのが、約1,000坪の松林の駐車場です

悩んだ末に向かったのは、銀行。

創業時に融資を取り付けてくれた、あの支店長を訪ねました。経緯を説明すると、きっぱり「その土地は、買うべし!」とおっしゃるではありませんか。

「それが事業に必要な土地なら、どんな値段でも買うべきです。もし他人に購入されて、別のものが建ってしまったら困るでしょう? それに、土地は欲しい時に手に入るものじゃない。これは、逆にチャンスだと思った方がいい」

さらに、「お金は満額、銀行が融資します」と耳を疑う発言。いつの間にか信用を得ていたようです。その言葉に背中を押されて、思い切って購入を決意しました。


今回はここまで。もちろん、借金ですから返さなくてはいけませんワイナリーの収支計画にはまったくなかった4,600万円の借金。

さて、どう返済していくか…。この危機をチャンスと捉え、カーブドッチは大きな発展を遂げていきます。

次回もお楽しみに。

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