カーブドッチ物語 #38|原田マハさん、海を越えて世界に挑む
新潟市西蒲区にある滞在するワイナリー「CAVE D'OCCI(カーブドッチ)」創業者の掛川 千恵子(かけがわ ちえこ)です。
前回は、猛暑の中での「ぶどうと水」のお話をしましたね。収穫も、もう目の前。今年の成りはどんなでしょうか。
さて、今回は久々に本にまつわる胸おどるニュースをお届けいたします。
「ライターズ・イン・レジデンス」とは、今活躍している作家さんがカーブドッチに滞在して、オリジナルの物語を書くというプロジェクト。
物語が一つ生まれるだけでワクワクしてしまいますが、いつの間にか、それが大きな広がりを見せてくれるようになりました。
マハさんの初監督作品『無用の人』
7月28日の夜。突然、うれしいニュースがスマホ画面に飛び込んできたのです。
「カーブドッチ物語#24」でご紹介した、このライターズ・イン・レジデンスの作家、原田マハさんの驚きの最新情報です。
マハさんが、初めて原作、脚本、監督の三役を務められた映画『無用の人』。この作品が、9月にスペインで開催される「サン・セバスティアン国際映画祭」のコンペティション部門に選出されたのです。
フランスのカンヌ、ドイツのベルリン、イタリアのヴェネチア、そして今回のスペインのサン・セバスティアン。
この4つは、ヨーロッパを代表する国際映画祭として知られています。新人監督の作品が、いきなり世界的な映画祭のコンペに選出されるなんて、本当にすごいことです。
しかも今回は、並み居る候補作の中、日本を含むアジアから選ばれたのがマハさんの『無用の人』だけという快挙。もしかしたらグランプリの「金の貝殻賞」も…。そんな期待までしてしまいます。
カーブドッチは、「ライターズ・イン・レジデンス」のご縁もあり、ロケ現場のスタッフの胃袋を美味しいお弁当で満たす「ロケ弁サポーター」として、ほんの少しだけ参加することができました。
それだけで、もう大満足です。
『無用の人』は、来年の全国ロードショー公開に先駆け、映画祭でワールドプレミア上映されるそう。皆さんにご覧いただける日が待ち遠しいです。
辺境の地サン・セバスティアンとは
サン・セバスティアンといえば、スペイン北部、バスク地方の大西洋に面した美しい港町です。
人口あたりのミシュランの星の数が世界一ともいわれ、美食の街としても知られています。旧市街にはバルがひしめき合い、伝統的なバスク料理「ピンチョス」を求めて、何軒もの店をはしごするのが、この街を訪れる大きな楽しみのひとつ。
そして、真っ黒な焦げ目が香ばしい、濃厚なバスクチーズケーキの発祥の地でもあります。

バルが並ぶ
実はサン・セバスティアンは、カーブドッチにとっても思い出深い街です。
カーブドッチを代表する白ワイン「アルバリーニョ」は、20年前、この街のレストランで出会った品種でした。
「海のワインで、魚介によく合うよ」
そう言われて口に含んだ瞬間の衝撃は、今でも忘れられません。

オリーブオイルがたっぷり
その後、苗を手に入れるために現地のワイナリーを何度も訪れました。そのたびに、必ずこの街にも立ち寄ったものです。あのとき、サン・セバスティアンのレストランで出会った一杯の白ワインが、私たちの未来を変えました。
カーブドッチの運命のワイン「アルバリーニョ」は、スペイン北西部、大西洋岸のこの土地からやってきたワインだったのです。

静かに、そして、深く。
切なさと温かさが心に沁みる
『無用の人』は、短編集の中に収められた、ほんの小さな作品。けれど、読み終わったあとも、ずっと心の奥に残る秀作です。
美術館に務める主人公の元に突然届いた謎の「鍵」。この鍵をきっかけに、この世を去った父との記憶をたどっていく。やがて家族でさえ知らなかった父の晩年の姿が明らかになってゆくという少しミステリアスな物語です。
今回の映画キャストがまた素敵です。
父親役をイッセー尾形さん。
母親役を渡辺えりさん。
映画オリジナルの登場人物を永山瑛太さん。
そして、主人公である娘役を蒼井優さん。
試写会のあと、印象に残ったのは、「蒼井優はいい女優さんになったなぁ」ということでした。
そして、もう一つが、「よくぞこのキャストを揃えられた」という驚き。そこにいるだけで存在が光る4人でした。
「世界に挑みます」という力強い言葉
いち早く吉報をキャッチした私は、すぐマハさんへお祝いのメールを打ちました。折り返しで返ってきたお返事の中には、こう書かれていたのです。
「世界に挑みます」
なんて過激! でもかっこいい!!
この言葉は、私には言えないなぁ。(当たり前!)
元気をたくさんいただきました。9月の映画祭で『無用の人』がどう花開くのか。今から楽しみでなりません。
第三弾は、まさかのホラー小説
さて、映画祭の熱気とともに、カーブドッチの「ライターズ・イン・レジデンス」も着々と次のステップへ進んでいます。
これまでの経緯はこちらから▼
#23|温泉なのに「本の森」
#24|ワイナリーで本が生まれる
#25|原田マハさんのステイを体験
#27|温泉ならではの「湯上がり読書会」
#28|ライターズ・イン・レジデンスの紆余曲折
#29|吉本ばななさんの意外なテーマ
吉本ばななさんの第二弾『砂山』に続く第三弾は、恩田陸さんによるホラー作品『海に降る雪』です。
ホラーといっても、血みどろの殺人事件が起きるわけではありません。でも、じっとりとした、得体の知れない怖さがある。
カーブドッチを知っている方なら「あ、あの場所かも……」と、ゾクッとするような、リアルで上質なサイコホラーです。
恩田陸さんといえば『夜のピクニック』や『ユージニア』など、人の心の深層やその場に漂う空気感を描く天才。今回の作品も、一筋縄ではいかない展開と素晴らしい世界観にグッと引き込まれます。
装丁はプロダクトデザイナーに
そして今、この『海に降る雪』の装丁デザインが本格的に動き出しています。
今回はブックディレクター・幅允孝さんのご提案で、平面の本をデザインする装丁家ではなく、立体をデザインする「プロダクトデザイナー」に依頼しました。
ただゾッとするだけでは物足りない。思わず手に取りたくなるような存在感が欲しい。そんなざっくりとした希望をお伝えし、現在、複数の案を準備していただいているところです。
9月には、恩田陸さんご本人とスタッフ全員が集まり、どのデザインがこの物語にふさわしいかを絞り込むことになります。
1作目のマハさんは、旅のお土産のような可愛らしさ。2作目のばななさんは、ハードカバー入りの文芸本。3作目の恩田陸さんは、どんなデザインで私たちの前に現れるのでしょうか。

原田マハ著『旅をあきらめるにはまだ早い友への手紙』
成長し続ける美しいこころ
思えば、最強の女流作家三人です。
個性豊かで、何て素敵な生き方…そう思っていたら、先日、ある方のこんな文章が目に留まりました。引用させていただきます。
本当に魅力のある女性とは、
ただ美しい外見を持っているだけではなく、常に学び続け、自分自身を成長させる力を持っている女性のこと。
努力することで、自分の人生をいつでも自分の手で切り拓いていく。
学ぶことで、視野が広がり人生はもっと自由になる。
歳月は若さを奪っても、
成長し続ける美しいこころまでは奪うことはできません。
私もこうありたいと思うのです。
今年の12月、冬の足音が聞こえる頃には、皆さまのお手元にお届けできるはずです。3冊が揃ったら、ショップに小さな特設コーナーを作りたいと思っています。
カーブドッチという場所から生まれた小さな芽が、ゆっくりと豊かな文化の木へと育っていく。
その景色を、これからも皆さまと一緒に楽しんでいけたら、こんなにうれしいことはありません。
次回もお楽しみに。
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