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カーブドッチ物語 #16|アルバリーニョは運命の品種

カーブドッチの風土に合うぶどう品種を見つけるのは、簡単なことではありません。

なぜなら、その品種はこの国にはないかもしれないから。一体、どこに行けばあるのでしょうか。



年に4度はヨーロッパへ

2003年当時、カーブドッチで扱うワイン関連のものは、ほとんどヨーロッパから直輸入していました。

濾過器やしぼり器といった製造機器はドイツから、ワイン樽はフランスから。ショップで販売していたワイングラスや雑貨に至るまで、ヨーロッパの現地に赴き、自分たちの目で選び、コンテナに積んで日本へと運んでいたのです。

この仕入れと研修を兼ねたワイン地帯への旅は、多い年には4回にものぼりました。

ある年、私たちはスペインの地中海沿岸・バルセロナを出発。イベリア半島を横断して大西洋沿岸まで、千キロ以上もの道のりをレンタカーで走破することになりました。

途中、ピレネー山脈を横目に見ながら赤ワインの銘醸地・リオハでワイナリーを視察。そして、目的地であるバスク地方へと向かいました。


美食とワインを巡る旅

スペインのバルセロナから、はるばるここまで足を伸ばしたのには訳がありました。リオハのワインとバスク地方の美食を体験するためです。

ワインの名産地として知られるリオハは、スペイン北部の内陸に位置しています。

一方でバスク地方はその西、青い大西洋に面した地域。このふたつをつなぐように存在するのが、バスクの中心都市サン・セバスティアンです。

街のあちこちに灯るバルの明かり
タパスバーや市場が楽しいエリア

サン・セバスティアンといえば、人口あたりのミシュラン星付きレストランが世界一多いといわれる美食の都

新鮮な魚介類を活かした料理のレベルは高く、カウンターに並ぶピンチョス(小皿料理)を味わいながら、ワインを片手に語り合う小粋なバル文化があります。

あの真っ黒に焦がした濃厚なバスクチーズケーキは、この街が発祥です。

ワインをこんな器に入れる飲み方も

せっかくここまで来たのだからと、さらに車を走らせた私たち。たどり着いたのは、ポルトガル国境近くの辺境の港町・ヴィーゴでした。

海とともに生きる町・ヴィーゴ

地理の教科書でお馴染みのリアス式海岸の語源となった「リアス・バイシャス」という美しい入江が連なる地域です。

豊富な魚介が水揚げされるスペイン随一の活気のある漁港。ここで、思いがけない出会いが私たちを待っていたのです。

柔らかーい「タコのガルシア風」


出会いは突然に

いつものように、美味しい匂いに誘われて町のバルへ。オリーブオイルたっぷりのタコのガルシア風に舌鼓を打っていると、店のご主人が「魚にピッタリのいい白ワインがあるよ」とすすめてくれました。

それは、この地域から外に出ることのない地ワインで、「海のワイン」として知られているそうです。

品種の名はアルバリーニョ。聞いたことのないぶどうだなと思いながら口に含むと…。

ジャスミンのような香りがふわりと鼻に抜け、胸いっぱいに広がる南国の果実味。その華やかさに一瞬で虜になりました。

軽やかさの奥にひそむ旨み。わずかに塩気やミネラル分を感じるのは、海風の影響でしょうか。寿司や刺身などの和食にも合いそうな上品な味わいです。

今までにないワインとの突然の出会いでした。

濃厚なソースや魚の旨味にも
負けない白ワインです

シャルドネを白ワインの女王と呼ぶなら、アルバリーニョは花に戯れる妖精のようでした。

アルバリーニョなら、世界を凌駕するシャルドネに対抗できるのではないか。いや、シャルドネと同じ土俵で戦わなくていい。一瞬で「これをカーブドッチで植えてみたい」と直感が働いたのです。

翌日、近くのワイナリーを訪ねると、思いがけない光景が広がっていました。

幹を高くかかげる棚式の栽培方式。日本では食用ぶどうの畑でお馴染みの光景ですが、ヨーロッパでは珍しいスタイルでした。

聞けば、この地域では雨が多く、ぶどうの枝が伸び過ぎるため棚にしているとか。海沿いの湿潤な気候に、魚介の食文化どこか新潟に重なるものを感じ、やってみようと心が決まりました。

ヨーロッパでは初めて見た珍しい仕立て


ヨーロッパの懐の深さ

アルバリーニョを日本で育てたい。穂木が欲しい。そう話すと、ワイナリーのご当主は、快く賛成してくれました。

自慢の品種が他国に流出すれば、競争力を失う恐れがあるはずなのに、「良いワインだからドンドン広めて欲しい。それがいずれは自分たちのためにもなる」と言うのです。

「でも、醸造技術には自信がある。君たちには負けないからね」と。その懐の深さとおおらかさには感謝せずにはいられませんでした。


偶然が導いた、必然の一杯

2005年、苗木となったアルバリーニョを300本畑に植えました。

収穫までに3年、そしてワインとして味を確かめるまでさらに3年。ようやく、カーブドッッチのアルバリーニョを口にする日がやってきました。

グラスを口に運ぶと、記憶の中にある本場の一杯よりもさらに華やかで澄み切った味わい。雑味が少なく、するりと喉を抜けるのに、しっかりと残る爽やかな香り。思わず「やったね!」と声が出るほどの会心の出来。

創業者の役割を果たせたのかもしれないと確信した味わいでした。

栽培は拍子抜けするほど手間がかからず、素直。年ごとの気候の揺らぎにも影響されにくく、安定して結実し、病気にも強い。糖度と酸のバランスが良く、新潟の砂地との相性は抜群でした。

育てやすさは品質の安定につながり、品質の安定は価格の安定を生む。現場にとっても、まさに願ってもない理想の品種です。

病気のない健康なぶどうが一番です

【世界が認めた、未来の白】
かつては、スペインのガルシア地方だけで愛されていた地ワイン・アルバリーニョですが、カーブドッチが植えて20 年が経った今、世界で最も将来性のある白ワイン品種として注目を集めています。かのボルドー地方が2021年にアルバリーニョを公式に指定品種として認可したからです。

ボルドー産のアルバリーニョが世界中で飲まれるようになれば、この品種の名はさらに知られるでしょう。そして、日本で最初にこのぶどうを植えたのはカーブドッチです。いつか、「アルバリーニョと言えばカーブドッチ」と認められる日が来るかもしれません


冬を乗り越える起爆剤

アルバリーニョとの出会いで、ようやくカーブドッチワインの方向性が定まりました。けれど、事業が順調に伸びていく一方で、新たな悩みが立ちはだかります。冬の閑散期の問題です。

冬になると集客が極端に落ち込み、ワイナリーは冬眠してしまったかのように鎮まりかえります。

雪の多い地域ならスキーや雪遊びでお客さまを呼ぶこともできますが、この辺りは新潟なのに雪は積もらないのです。農作業もなく、これではスタッフを通年雇用するのも難しい…。

雪の代わりに冬の起爆剤になる「何か」を探していました


浸かって湧いた意外な発想

そんな折、世の中はちょうど日帰り温泉ブーム。近隣には次々と新しい温泉施設ができ、冬でも羨ましいほどの賑わいを見せていました。

社長の落さんは根っからの温泉マニア。毎日欠かさずどこかの温泉に通っていたほどでした。ある日、私たちスタッフを集めると、驚きの宣言をしたのです。

「決めた!これから温泉を掘るぞ!」

ワインと温泉。どう結びつくのか誰も想像がつきませんでした。一本掘るのにかかる費用は一億円。もし掘り当てられなければ、すべてが水の泡。まさに社運を賭けた大勝負です。

それでも、落さんの勢いに呑まれてまずは検討してみることになりました。


鍵は、目の前に広がる角田山

温泉は「出るか出ないか」の前に、まず「掘ってよいか」から始まります。

調べてみると、新潟市は地盤沈下の懸念から、市内での新規採掘は禁止されていました。ただし、すでに営業している温泉宿には既得権があるため、掘り直しが認められるのだそうです。

権利すら得られないのかと思いきや、一つだけ希望がありました。カーブドッチの目の前に広がる標高481mの小さな山、角田山です。

この角田山の麓から、温泉を掘り当てる

この山は全体が安山岩の岩盤でできており、地耐力が高く、地盤沈下の心配がほとんどありません。ここなら掘れるかもしれないと、すぐに地質会社に調査を依頼。山の裾野まで岩盤が続いていることを示す調査報告書を県に提出し、ついに計画から3年で温泉掘削の許認可を手にしたのです。

ただ、それでも「本当に温泉を掘るべきか」をめぐって、社内の意見は真っ二つ。結論の出ない日々がしばらく続きました


次回は、温泉採掘の顛末。掘り当てなければそれで終わりという一か八かの挑戦が、思わぬ展開を迎えます。

そして、ワイナリーの一角に誕生した新たな施設。ワインの楽園に湧いた温泉は、冬のカーブドッチを救うことができたのでしょうか。

次回もお楽しみに。

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