カーブドッチ物語 #20|カーブドッチワインの三本柱
今回は、久しぶりにワインのお話です。
ワインの暗黒時代を乗り越え、三男・史人(ふみと)が醸造家として成長した今、カーブドッチはワイン愛好家なら誰もが知る存在へと発展しました。
その中で今回は、カーブドッチワインの3つのシリーズがどのように生まれ、どんな魅力をもっているのかをご紹介します。
カーブドッチワインの三本柱
創業当初のカーブドッチはドイツの醸造方式でしたが、土地と品種の相性を探る中で、フランス方式へと舵を切りました。
土づくり、栽培、醸造とも試行錯誤を重ね、ようやく安定した味わいのワインができたのは2010年頃。創業から15年以上が経っていました。
まず生まれたのが、ぶどう品種が持つ個性をまっすぐに引き出した「セパージュ(品種)シリーズ」。一本目の柱となるワインです。
自分が心からつくりたいワインとは
一方その頃、フランス修行から戻り現場を任されていた史人は、人知れず大きな悩みを抱えていました。「自分が本当につくりたいのは、こういうワインじゃない」という葛藤です。
フランスで共に学んだ仲間たちは、帰国後それぞれの地で苦労しながらも、自由なワインづくりを始めていました。
それに対し、史人は「羨ましがられる環境だけれど、『カーブドッチのワインはこうあるべき』という制約があまりにも大きい。本当に自分がつくりたいものはつくれていない」と感じていたのです。

そんな折の2012年。落さんが出演したテレビ番組「カンブリア宮殿」が全国で放送され、想像をはるかに上回る反響となりました。
会員組織ヴィノクラブには1ヶ月で4,000件を超える申し込みが殺到し、事務作業が追いつかずやむなく募集を停止。カーブドッチワイナリーにも全国からお客様が押し寄せました。
何年もかけて貯めてきたワインセラーの在庫は、瞬く間に空っぽに。マスメディアの影響力を思い知る大事件でした。
結果として、カーブドッチは「売るワインがない」という初めての危機に直面。その直後にタイミングよく登場した二本目の柱が、史人が密かにつくり貯めていたワイン「どうぶつシリーズ」でした。
醸造家の趣味から生まれたワイン
「どうぶつシリーズ」は、カーブドッチの今までのワインとは対照的な、掛川史人の趣味から生まれたワインです。つくり手の欲求、言い換えればエゴを前面に出したワインで、製品にならなくてもいいとさえ思っていました。
史人が求めたのは、品種の特徴を再現する「正解があるワイン」とは真逆のアプローチ。
もっと自由に、感性のままに。その行き着いた先が、今では良く耳にするナチュラルワインと言われるスタイルです。
当時の日本ではほとんどつくられておらず、まさに最前線。酸化防止剤を使わずにぶどうの皮につく自然酵母で発酵させ、ろ過もせず仕上げる。発酵から瓶詰めまで極力手を加えないため、他のワインと同じ場所に置けないほどリスクの高い手法でした。
それでも史人は、自分が飲みたいワインを追い求めてつくり続けました。その挑戦が後に、カーブドッチのファン層を塗り替えるほどの勢いになっていきます。
市場の反応は冷たいけれど…
「カンブリア宮殿」の反響に気を良くしたこともあり、時を同じくして史人は初めて東京の酒屋さんへ営業に出向きました。これからは直売だけに頼らず、広く市場でも手に入るワインにしたいという思いがあったからです。きっと酒屋さんも取引を望んでるのではないかと。
しかし、反応は意外と冷たいものでした。
「観光ワイナリーでしょ? 自分のところでしか売らないのでしょう?」「カーブドッチねぇ? 昔飲んだことあるけど…」と、まさかのオワコン扱い。
酒屋さんの限られた棚に置いてもらうことは、簡単ではありませんでした。
予想を超えて、人気に火がついた
そんな中、全国では国産ワイン専門店が少しずつ増え、海外で学んだ若い生産者たちの個性的なワインが注目されつつありました。
史人は「どうぶつシリーズ」がその流れの起爆剤になり得ると感じ、ついに製品化を決意。5つの販売戦略を立て、酒屋さんへは「どれかは刺さるだろう」という割り切りからスタートしました。
① 自然派ワインの流れに乗る(亜硫酸無添加・自然酵母)
② かわいいラベルで「ジャケ買い」を狙う
③ 「醸造家の趣味のワイン」という異色のコンセプト
④ あえて品種名をうたわない
=どうぶつのキャラクターとワインの味わいを重ねるつくり
⑤ ワイナリーには置かず、酒屋限定で販売して希少性を高める

ラインナップされています
このシリーズでは、ビジュアルにもこだわりました。
従来の縦長でスマートなボルドービンから、横幅のあるブルゴーニュビンへとボトルを変更。ラベルスペースを広く確保して、キュートな動物の絵を大胆にあしらいました。
そして、品種名ではなく動物名を前面に掲げ、あえて裏ラベルを見るまでふぶどうが品種分からないようにしています。品種の先入観なしで味わっていただきたいからです。
こうした戦略が見事にハマり、全国の酒屋さんからゆっくりと、けれど確実に反響が高まり、やがてそれは大きなうねりとなりました。
「こんなワイン、飲んだことがない」
「和食にぴったり」
「出汁のニュアンスがすごい」
「体にじわっと染みてくる」
「売りやすいし、売ってみたい」
口コミは瞬く間に広がり、新しいファン層が一気に拡大。生産が追いつかず、3〜4年の間は「手に入らないワイン」として知られ、カーブドッチ待望の新シリーズとなりました。
難しいこと抜きで、ガブガブ飲みたい
三本目の柱となるのが「FUNPY(ファンピー)シリーズ」。どうぶつシリーズの4年後、2018年に発売されました。
FUN(楽しい)と HAPPY(幸せ)を掛け合わせた名前のとおり、カーブドッチの中でも特に遊び心が弾けるワインです。ラベルも軽やかで、テーブルに並べるだけで場を明るくしてくれるような存在感があります。

ワインの世界には、長い歴史が育んだ格式や作法があります。
もちろんその厳格さも魅力ですが、あまりに形式に縛られすぎると「もっと自由でいいのに」と感じることも…。FUNPYシリーズは、そんなワインのハードルをほんの少し下げたい、という思いから生まれました。
着目したのは、私たちに身近な食用ぶどう。
デザートの多様化やシャインマスカットなど高級品種の台頭で、かつて主役だったデラウェアなどが安定して手に入るようになり、これが大きな追い風になりました。
食用ぶどうのワインは香りが親しみやすく、とても優しく淡い味わい。そこへ少しだけワイン用ぶどうをブレンドすることで、ぶどうジュースみたいにはならず、しっかりとした余韻をもつワインとして成立します。
ピクニックやバーベキュー、ホームパーティー、休日の昼下がり。いろいろなシーンで、肩ひじ張らず、カフェ感覚で気軽に飲んでほしい。
そんな思いから、カーブドッチの中でも敢えて手に取りやすい価格帯にしています。遊び心を形にしたガブガブ飲めるワイン。それがFUNPYシリーズです。
味わいはそれぞれに
ここからは、「セパージュ」「どうぶつ」「FUNPY」の3シリーズの代表的なワインの味をご紹介します。詳しいテイスティングは、ぜひショップのスタッフに聞いてみてください。
品種を味わう|セパージュシリーズ
品種の個性と新潟の風土をまっすぐに感じられるワインで、料理との相性はやはりフレンチが抜群。コース料理や少し丁寧に整えた食卓など、「今日はじっくり料理とワインを楽しみたい」という日に寄り添ってくれるでしょう。
代表的なのが、2015年初リリースの「アルバリーニョ」です。カーブドッチのブランドを一段引き上げてくれました。
ジャスミンやライチのアロマを感じさせ、切れ味はシャープだけれどミネラル感が豊か。「たくさんワインを飲んできた人ほど驚く」と言われるほど完成度が高く、土地と品種が真に響き合い、液体の中に風土が現れる。アルバリーニョはまさにそんな味わいのワインです。

アルバリーニョを飲むと美味しい
セパージュシリーズのもうひとつのフラッグシップが「サブル」。角田浜の砂地土壌の特徴を生かしたワインです。複数品種をブレンドし、単品種では表しきれない風土の表情を描きます。
名前の「サブル」はフランス語で「砂」。砂地ならではの軽やかな口あたりと柔らかな酸が心地よく、旨味やミネラル感が豊かです。
赤はカベルネ・ソーヴィニヨンを主軸にプチ・ヴェルドとメルロをブレンド。白はアルバリーニョ、リースリング、セミヨン、ヴィオニエをアッサンブラージュ(フランス語で組み合わせる)しています。

だしのように染みる味わい|どうぶつシリーズ
どうぶつシリーズは、出汁のようなニュアンスで、和食との相性がとても良いワインです。
整いすぎていない揺らぎに美味しさがあり、例えば、一般的なワインづくりで欠点とされがちな香りさえも、絶妙なバランスで個性として残っているのが特徴です。
身体にすっと染み込み、ワインが得意でない方でも飲みやすくておすすめ。現在はつくりや品種の異なる12種類があり、味わいごとに動物の名前がつけられています。
例えば「むささび」は、赤ワイン品種であるカベルネ・ソーヴィニヨンで仕込んだ白のスパークリング。赤・白・泡のジャンルを超えた自由さが魅力です。

なぜか白い「むささび」
ソーヴィニヨン・ブランで仕込んだ「うみがめ」は、トロピカルフルーツの香りとココナッツ、その名の通りちょっと潮っぽい海のワインという印象です。

楽しく飲めちゃう|FUNPYシリーズ
原料に身近な食用ぶどうを使っているからこその、どこか懐かしくホッとする味わいです。難しいこと抜きで「もう一杯!」とつい手が伸びてしまう飲み心地。楽しい時間の名脇役として気軽に楽しめる一本です。
ラインナップは全7種類。白・赤・ロゼ・オレンジの4種に、白と赤のスパークリング、そしてシードル(りんご)。やはり品種名はうたわず、飲みたい気分で選べる楽しさがあります。価格帯は2,000円台が中心で、味わいも、価格も軽やかで、まさにガブガブ飲めるワインです。

次回は、ワインを心ゆくまで楽しめるオーベルジュ「トラヴィーニュ」での過ごし方をご紹介します。どうぞお楽しみに。
