カーブドッチ物語 #33|ここだけの価値①ベーゼンドルファー
ワイナリーでジャズやクラシックのコンサート。「心に残る一流の演奏を届けたい」と始めてはみたものの、事業としての難しさも日々実感しています。
小さなホールで、限られた人数だけが味わえる贅沢なひととき。
その体験に、一体どれだけの価値を見出していただけるのか。
私たちの理想に、本当にニーズやマーケットはあるのか。
単なるひとりよがりになっていないか。
こればかりはやってみなければ分からない。これまでの中でも、最も難しい挑戦かも知れません。
音楽は、ワインや料理のように目に見えるモノではありません。けれど、深い感動が残るという点では、確かに通じるものがあります。そして、ハードルは高ければ高いほど、飛び越え甲斐があるというものです。
そんな試行錯誤のなかで、少しずつ見えてきたカーブドッチならではの価値。その一つ目の鍵となるのが、日本に一台しかない名器「ベーゼンドルファー2000」です。
唯一無二、ここにしかないピアノ
カーブドッチで開かれる音楽会。最も強い求心力を持つのが、ピアノそのもの。実際に弾いた方は、口を揃えてこうおっしゃいます。
「なんて気持ちがいいんでしょう」
「私ってこんなにピアノが上手かったんだ!」
その評判は予想外に広がっていて、昨年にはこんなことがありました。
「お泊まりのお客様が、ピアノを見たいとおっしゃるのですが…」
フロントからそう連絡を受けて向かうと、リュックを背負った女性がひとり立っていました。お話を伺うと、ベーゼンドルファーの噂を聞き、どうしても一目見たくて、神奈川から泊まりがけで来られたとのこと。
ホールへご案内すると、その方はピアノを見るなり「なんて優雅なデザイン! 少し、弾かせていただいても良いでしょうか?」とおっしゃいます。
椅子に座り、深く息を吸って、一瞬目を閉じる。そして指が鍵盤に触れた瞬間に、プロの方だとすぐに分かりました。低音は詩情ゆたかに響き、高音はどの音も透明で粒立ちが美しい。その圧倒的な世界観に、私は言葉を忘れてしばらく聴き入ってしまったのです。
その方はウィーンに留学経験があり、ベーゼンドルファーには特別な思い入れがおありのご様子。後日、「素晴らしい機会をありがとうございました。どんな形でもいいので、また弾くチャンスがありましたら、ぜひお声がけください」と丁寧なお手紙までいただきました。今でもそのご縁が続いています。

サロンみたいです。
ピアノを愛する皆さんとともに
そのほかにもベーゼンドルファーを弾いてみたいという方が多いので、コンサートと並行して「演奏交流会」を始めました。
ピアノ経験3年以上の方を対象にした、お互いの演奏を聴き合う会です。昨年3月からすでに5回開催し、今年も3ヶ月に一度のペースで続けていきます。
持ち時間は一人10分。ご自身で選んだ大事な一曲を弾いていただきます。
ピアノが好きな者同士、ランチを囲んで、かしこまらずにおしゃべりをしながら、互いの音色をみんなで愛でる。そんな温かく心地良い時間を、何より大切にしています。演奏を聴くだけの参加も大歓迎です。

男性の演奏者さんも多いです
驚くことに、遠方から泊まりがけで参加される方も多く、毎回キャンセル待ちが出るほどの賑わいです。
「いつか、大切な曲を人前で弾いてみたい」。そんな思いを抱く方にとって、そのピアノがベーゼンドルファーなら、遠くからでもわざわざ足を運ぶ価値があるのでしょう。
このピアノを弾くということは、それ自体が特別なことなのだと教えられました。

▼参加したい方はこちらから
美しく歌ってもらうには
長年、ベーゼンドルファーの音を聴いてきて、いくつか気づいたことがあります。このピアノには、合う弾き方と、合わない弾き方があるように感じるのです。
あくまでも私の主観ですが、鍵盤を強く叩きつけるような弾き方はあまり合いません。派手に大音量で鳴らすよりも、深く沈み込むように押さえる方が美しく響く。ピアノ全体が一緒に共鳴し始めるのです。
世界最高峰のピアノとして、よく「スタインウェイ」と「ベーゼンドルファー」が比べられます。アメリカ発祥のスタインウェイは、国際コンクールや大ホール向け。音の飛びが強く、華やかで強靭な王者の風格を持ちます。
一方、オーストリア・ウィーン製のベーゼンドルファーは、響きが深く、低音に独特の陰影がありあります。「音量」よりも「音色」を愛する人に熱狂的に支持されるのは、ピアノ全体がひとつの美しい共鳴体となるように作られているから。バイオリンなどの弦楽器と同じ構造です。
音を鋭く遠くへ飛ばすのではなく、ホール全体を響きで満たしていく感覚でしょうか。温かく、色彩豊かに、歌うように。ピアノを鳴らすというより、空間そのものを鳴らすつもりで。響きを少し長めに育て、余韻を味わうように奏でていく。
そうすることで、ベーゼンドルファーの真の魅力が発揮されるのだと思います。その響きから、確かに弦楽器のようだと感じる瞬間もあります。
心を打つのは、技術だけではない
ある日の演奏交流会で、かなり上手な方が速いテンポでドラマティックに弾き切ったことがありました。会場は拍手喝采。ですが、どこか耳が疲れる感覚を覚えたのです。
きっとご本人も、弾きながら「どうもここの空気に合ってないな」と感じられたのでしょう。次の回は、選曲も弾き方もガラッと方向転換。緩急織り交ぜた音色は、時に激しく、時に切なく、それはそれはお見事でした。
逆に、初心者の方の演奏に深く胸を打たれたこともあります。
ゆっくりと、一音一音を確かめるように、大切に弾く。その控えめで誠実な音色は、ベーゼンドルファーの弱音の美しさと重なり、じんわりと心に沁みました。そうか、ピアノは技術だけではないのだなと、改めて気づかせてもらいました。
25年かけて育てたベーゼンドルファーの音色。この特別な響きを、ぜひ多くの方に味わっていただきたいと願っています。
次回の演奏会は7月11日
「西村由紀江&三四朗サマーコンサート」
デビュー40周年となる西村由紀江さんをお迎えし、その節目を彩る記念公演をカーブドッチホールにて開催します。
▼詳細はこちらから
【コンサート】西村由紀江&三四朗サマーコンサート/2026.7.11
カーブドッチだからこそ届けられる価値の一つ目は、「ピアノ」でした。ベーゼンドルファーならではの逸話もたくさんあって面白いのですが、今回はここまで。
次回、2つ目の価値のお話を、どうぞお楽しみに。
