【実演・最終回】同じ薬の説明を、AIに「3人の読み手」向けに書き分けさせてみた——壁シリーズ完結
同じ薬の説明でも、80代のおひとり暮らしの方と、仕事に追われる40代と、親の薬を管理している娘さんとでは、「伝わる書き方」がまるで違います。
でも現場で渡す説明文は、たいてい1種類。誰に対しても同じ紙です。
私は薬剤師です。「伝わらない」を壊すこの実演シリーズで、専門用語の壁(→ https://note.com/rain_dual_ai/n/n5fad56bc13e5 )、言語の壁(→ https://note.com/rain_dual_ai/n/nfbec4d834a7f )、検査値の壁(→ https://note.com/rain_dual_ai/n/n5cf7d71e70e0 )を越えてきました。最終回の今日は、いちばん見落とされている壁——「読み手の壁」です。
同じ内容を、AIに「3人の読み手」向けへ書き分けさせる様子を、Before→Afterでお見せします。
この記事を読むとわかること
なぜ「正しい説明」でも相手によって伝わらないのか
1つの説明をAIに3パターン書き分けさせた実物(Before → After×3)
書き分けで絶対に守ること=「トーンは変えても、中身は削らせない」
なぜ「1種類の説明」では届かないのか
説明が伝わらない原因は、内容の正しさではなく、読み手の状況とのミスマッチであることが多い。
小さい字がつらい方に、びっしり書かれた紙。じっくり読む時間がない人に、長い文章。本人ではなく家族が管理しているのに、「あなたは」で書かれた文面。内容は同じでも、"誰が読むか"が違えば、最適な形は別物です。
とはいえ、忙しい現場で3種類の説明文を毎回手書きするのは不可能でした。——今までは。ここがまさに、AIの得意分野です。
【実演】この説明を、3人向けに書き分けさせた
血圧の薬を今日から始める方への、標準的な説明文です。
● Before(元の説明・1種類)
本日より血圧を下げるお薬が始まります。毎朝1回1錠を服用してください。血圧が下がっても自己判断で中止せず、継続してください。飲み始めはめまい・立ちくらみが出ることがあるため、車の運転や高い所での作業には注意してください。
内容は正確です。これをAIに、こう頼みます。
● 私がAIに送った指示
次の服薬説明を、3人の読み手向けに書き分けてください。
①80代の方向け:短い文で、1行に1つのことだけ。やさしい言葉で
②忙しい40代向け:スマホで3秒で読める要点だけの箇条書き
③家族(介護者)向け:本人ではなく"見守る人"がすべきことを中心に
どのパターンでも「毎朝1回」「自己判断でやめない」「立ちくらみ注意」の3点は絶対に削らないこと
● After①:80代の方向け
きょうから、血圧(けつあつ)のお薬がはじまります。
のむのは、あさに1つだけです。
ちょうしが良くなっても、やめないでください。
のみはじめは、たちくらみが出ることがあります。
ゆっくり立つようにしてください。
こまったときは、薬局に電話してください。
● After②:忙しい40代向け
・毎朝1錠(今日から)
・調子が良くなっても勝手にやめない(血圧は戻ります)
・最初は立ちくらみが出ることあり→運転は特に注意
・気になることがあれば薬局へ
● After③:家族(介護者)向け
・今日から血圧のお薬が始まりました。毎朝1回1錠です
・朝、飲めたかの確認をお願いします(飲み忘れが続くようなら教えてください)
・飲み始めはふらつき・立ちくらみが出ることがあります。歩き出しの様子を見てあげてください
・「もう良くなったからやめる」と本人が言っても、中止する前に必ずご相談ください
同じ中身が、3つの顔になりました。かかった時間は数秒。80代の方には「ゆっくり立つ」、運転する世代には「運転注意」、介護者には「歩き出しを見る」——読み手が変わると、同じ注意でも"効く言い方"が変わるのが分かると思います。
今回の肝は、トーンは変えても、中身は削らせない
指示文の最後に入れた一文が、この使い方の生命線です。
どのパターンでも「毎朝1回」「自己判断でやめない」「立ちくらみ注意」の3点は絶対に削らないこと
やさしく・短くすればするほど、AIは大事な情報を"そぎ落とし"がちです。だから、削ってはいけない核を先に名指しする。そして出てきた3パターンを、「核が3つとも残っているか」の目で検品する。表現の翻訳はAIの仕事、核の指定と検品は人間の仕事です。
使うときの、絶対ルール
削ってはいけない情報を、指示の段階で名指しする(用法・中止禁止・重大な副作用のサイン)
患者さんの個人情報は入れない(書き分けさせるのは一般的な説明文だけ → 線引きの詳細は https://note.com/rain_dual_ai/n/n7060b00865ca )
渡す前に、必ずプロが全パターンを検品する(特に"やさしい版"ほど、削れていないかを疑う)
シリーズ完結——4つの壁と、1つの型
この実演シリーズで越えてきた壁を並べます。
専門用語の壁:難しい注意書き → やさしい日本語へ
言語の壁:日本語の説明 → やさしい英語へ
検査値の壁:数字の羅列 → 意味の翻訳へ(判定はさせない)
読み手の壁:1種類の説明 → 相手別の書き分けへ
気づいた方もいると思います。4つとも、やっていることは同じでした。
AIに「翻訳」をさせて、人間が「核の指定」と「検品」と「判断」をする。
壁の種類が変わっても、型は1つ。この型さえ手に入れば、あなたの現場の「伝わらない」にも、きっと応用できます。
今日すぐできることを一つ。手元の説明文を1つ、「削ってはいけない3点」を名指しして、誰か1人の読み手向けにAIで書き直させてみてください。 それが、あなたの現場の壁を越える1枚目です。
※本記事は説明文の作成補助としてのAI活用を紹介するものです。実際に患者さんへ渡す説明・服薬指導は、必ず有資格者の確認のうえで行ってください。
シリーズを読んでくださったみなさん、ありがとうございました。「AI、こういう使い方があったか」が一つでも届いていたら嬉しいです。
🧱 壁シリーズ(全5回・無料)をまとめて読む → https://note.com/rain_dual_ai/m/m30e137ca5c75
🧰 そのまま使えるテンプレ10本+検品リストの完全版(¥500) → https://note.com/rain_dual_ai/n/ncd912d157a64

