【連載小説3/5】 ✈️栄誉と金と、昇進と。
甲板の華奢な姿に、勝手に胸が震え出した。
銃床が、汗ばんだ手のひらでわずかに滑る。
おいおい、やめてくれよ。
もう十年も前の古びた夢だ。
くだらない、子どもじみた、震えるように熱い夢。
◆
飛び出した先の小さな街で、
俺たち子どもの居場所なんかなかった。
食うために金を稼ぎ、
金を稼ぐために夢を失った。
ルルーは、『ルージュ・ブラン』を捨てて、
何を得たんだろう。
俺だけの踊り子になって、
本当に幸せになっただろうか。
◆
「ジューヌ!飛行機を売るってほんとう?」
ルルーの青い瞳は、揺れる水底みたいな目をしてた。
……俺が再び、この瞳にさせてしまったのか。
真っ直ぐな瞳を見るたび、塵のように消えてしまいたくなった。
不甲斐ない俺を、どうしてこの娘は信じてくれたんだろう。
あの頃のことは、今でも喉の奥に引っかかっている。
◆
それから俺は、一人で街を出て、帰らなかった。
飛行機を売った金を、罪悪感と一緒に机に残して。
逃げたんだ。結局、俺は。
◆
ルルーがお尋ね者になっているのは知っていた。
空賊ルルー。
義賊のリーダー。
遭遇することはないと思っていた。
彼女の船は神出鬼没で、一度たりとも捕まらなかったからだ。
ルルーがどうやって、
今の境遇に落ち着いたかは、わからない。
知る権利もないと思った。
逃げ出した俺を、憎んでいるかもしれない。
警官になった俺を、軽蔑しているかもしれない。
眼裏に、薄いブロンドと青い瞳が浮かんだ。
水の揺らめくような、澄んだ瞳。
そして今、甲板の上にも同じ青があった。
◆
甲板越しに、見えた人影。
小さな華奢な、青い瞳。
時が止まった気がした。
あの頃より、大人びて、
あの頃より、現実的な瞳。
俺は銃に力を込めた。
撃つべきだ。警官なら。
空賊のリーダーを撃ち取り、
栄誉と金と、昇進を得るべきだ。
引き金にこめる指がぶるぶると震える。
――君と俺の、未来をのせて。
どこまでも。どこまでも。
古びた夢が追いかけてくる。
やめろ、やめてくれ。
もう、覚えちゃいねぇんだ。
だが知らぬ間に、俺は銃を下ろしていた。
青い船は、雲間に紛れて消えていった。
消えない影絵を、俺の心に残したまま。
つづく

