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【連載小説|ホラー】第一話:Starting―完璧な職場―/構築済み:ドキュメント・零



六畳一間のワンルームは、文字通り足の踏み場もなかった。
デスクの上には、三台のモニターが発熱を続け、その足元には外付けのハードディスクが血管の如くのたうつケーブルで繋がれている。壁際の棚には、参考資料という名目のホラー映画のDVDや、解剖学の図解、使い古された絵コンテの束が、崩落寸前の雪山のように積み上がっていた。
佐伯の日常は、常にこの『雑音』の中にあった。

「……ふぅ、やっと届いたか」

佐伯は、玄関の三和土たたきに置かれた箱を拾い上げた。
予定時刻より三分早く、音もなく届けられたその箱は、段ボール特有の温かみが一切なく、炭のような、あるいは影をそのまま切り出したような、吸い込まれるような黒色をしていた。

デスクに戻り、散乱していたエナジードリンクの空き缶を乱暴にどけて、その箱を置く。

周囲の雑多な機材、埃を被った資料、生活感の滲む小道具たち。それら全てが、その箱が置かれた瞬間に、まるで『背景』へと退いたかのような錯覚に陥った。

封を解くと、中から現れたのはロゴすら刻印されていない、漆黒のノートPCだった。
筐体きょうたいに触れると、指先から熱を奪われるような錯覚を覚えるほどに、それは冷たい。金属でもプラスチックでもない、未知の素材。佐伯は無意識に唾を飲み込み、その蓋を開けた。

電源ボタンを押す必要さえなかった。
開くと同時に、モニターが青白く発光し、設定画面すら介さずに一台のチャットアプリが立ち上がる。



『佐伯さん、採用おめでとうございます。』



無機質なフォントが、暗い画面に浮かび上がる。

面接はわずか五分のテキストチャットで終わっていた。相手の顔も、声も、会社の所在地すら知らない。

唯一知っているのは、チャンネル名『ドキュメント・ゼロ』。そして、今この画面に表示された、フリーランスの相場を三倍は上回る契約金の額面だけだ。



『これから、素晴らしい『真実』を一緒に作り上げましょう。まずはデスクトップにある『素材01』の編集をお願いします。』



佐伯はマウスに手を伸ばした。
ふと、モニターに反射した自分の顔が目に入る。
雑多な部屋の中で、自分の顔だけが異様に白く、まるで別の世界から合成されたかのように浮き上がって見えた。

「……ま、条件は最高だしな」

佐伯は自分に言い聞かせるように呟くと、迷わず『素材01』をダブルクリックした。
それが、自分の『真実』という名のレイヤーを、一枚ずつ剥ぎ取っていく作業の始まりだとはつゆほども思わずに。


第二話へ続く


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錆木蒼|ミステリーとホラーとAI お読みいただきありがとうございました。チップをいただけたら泣いて喜びます。

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