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上司から学ぶべきことは?

今の上司からは、あまり学ぶことがないんですよね」

若手から、そう聞くことがあります。本人が身につけたいのは、ロジカルシンキングや仮説思考、リーダーシップです。しかし、上司はそれらを体系的に教えてくれません。1on1でも話題になるのは目の前の業務ばかりで、自分のキャリアについて一緒に考えてもらえるわけでもない。そうなると、「この上司の下では、あまり成長できないかもしれない」と感じるのも自然です。

一方で、その上司は、難しい顧客との交渉をまとめ、他部署から必要な協力を取りつけ、問題の多いプロジェクトを前へ進めているかもしれません。もしかすると、学ぶものがないのではなく、自分が学びたい科目と、上司が得意な科目が一致していないだけなのです。

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会社にあるのは、学習科目ではなく仕事

会社でのキャリアを考えるとき、学校のように「次は何を学ぶか」から考えたくなることがあります。ロジカルシンキングを学びたい。仮説思考を身につけたい。公認会計士を取りたい。新しい開発技術を使いたい。交渉力やリーダーシップを高めたい。そこで、その能力を身につけられる仕事や指導を、会社や上司に期待します。

もちろん、本人の希望と会社の仕事がうまく重なることもあります。会社が会計人材を必要としており、上司にも会計の専門性があるなら、公認会計士の勉強を支援してもらえるかもしれません。新しい技術が事業課題の解決に必要なら、業務を通じて学べる可能性もあります。

ただ、会社には、まず顧客や事業に関する仕事があります。新規顧客を増やす。解約を減らす。決算を早く締める。障害を減らす。新商品を作る。こうした解決すべきWhatが先にあり、ロジカルシンキングや会計、交渉、プログラミングといったHowは、そのWhatを実現するために使われます。

サッカーチームで活動しながら、野球のバッティングを業務として学ぶ機会を求めても、なかなか実現しません。野球が自分にとって大切なら、自分で学ぶこともできますし、現在の仕事に活用する方法を探すこともできます。あるいは、野球のできる場所へ移るという選択もあります。

会社の中でWillを考えるなら、学びたいHowだけでなく、会社にあるWhatにも目を向けた方がよいと思います。いくつもある問題の中から、「これは自分が引き受けたい」と思えるものを選ぶ。その問題に取り組む過程で、必要なHowを身につけていく方が、会社の仕事と自分の成長を重ねやすくなります。

メタスキルは、講義より添削で身につく

業務の手順は、人から教わることで覚えられます。社内システムの使い方、申請方法、製品知識、開発環境の構築手順などは、マニュアルや研修からも学べます。

一方、ロジカルシンキング、仮説思考、交渉、リーダーシップといったメタスキルは、説明を聞くだけで習得するのが難しい能力です。「もっと論理的に考えましょう」「相手の立場を考えましょう」「主体性を持ちましょう」といった助言は、考えるきっかけにはなります。しかし、実際の仕事でどう行動を変えるかまでは、なかなか分かりません。

こうした能力を学ぶときは、優れた人が実際の仕事で何をしているのかを見ると理解しやすくなります。資料作成がうまい上司なら、何を削り、どの論点を最初に置き、どの数字を根拠として使ったのかを見る。交渉がうまい上司なら、何を先に質問し、何をすぐには回答せず、どの段階で譲歩したのかを見る。リーダーシップのある上司なら、問題を見つけた後に誰へ働きかけ、どこまで自分で引き受け、どの時点で上位者へ判断を求めたのかを見るのです。

そのうえで、自分でも同じ種類の仕事をしてみます。自分の資料や提案、行動を見てもらい、「私ならここを変える」と差分を返してもらいます。

見本を見る。自分で試す。添削してもらう。そして、別の仕事でもう一度試す。メンタリングで仕事論を聞くことにも価値はありますが、自分の仕事を、その仕事がうまい人に見てもらう方が、具体的な学びにつながりやすいと思います。

上司の得意技なら、具体的な指摘をもらえる

上司にも、当然ながら得意なことと不得意なことがあります。本人があまり経験していない能力について、具体的なフィードバックを返すのは簡単ではありません。

例えば、仮説思考をあまり使ってこなかった上司に「仮説思考を鍛えてください」と相談しても、「最初に仮説を置くとよい」といった一般的な助言になるかもしれません。一方、顧客交渉を得意とする上司なら、実際の商談を見て、「相手の条件を聞く前に、こちらの提案を出しすぎている」と具体的に指摘できます。

得意な人が、自分の能力を教科書のように説明できるとは限りません。本人にとって自然にできることほど、うまく言葉にできない場合もあります。それでも、実際の成果物や行動を見れば、自分との違いには気づきます。「私ならここを直す」「この順番では進めない」「その条件は先に確認する」といったフィードバックなら返しやすいでしょう。

そこで、上司から学ぶ内容を考えるときは、「自分は何を学びたいか」に加えて、「この上司は、何が自分よりうまいのか」という問いを持つとよいと思います。

上司の比較優位を見つける

すべての上司が、理想的なマネージャーとは限りません。人への接し方が好きになれないこともあれば、その人の働き方をそのまま真似したいとは思わないこともあります。意見に反対する場面もあるでしょう。

それでも、その人は現在の組織で、一定の役割と期待を与えられています。業務知識、品質基準、意思決定、交渉、調整、説明、実行など、何らかの領域では、自分より多くの経験や高い能力を持っている可能性があります。

人への接し方は強くても、難しい交渉を成立させる能力は高いかもしれません。細かくて面倒に見えても、成果物に求める品質基準は参考になるかもしれません。一緒に働きたいタイプではなくても、複雑な利害関係を整理し、意思決定を前へ進める力は優れているかもしれません。

上司へのリスペクトは、その人を丸ごと称賛することとは少し違います。自分にない能力や、自分より優れている部分を正確に捉えることだと、私は考えています。

「あの上司から学ぶことは何もない」と決めてしまうと、目の前にある学習機会まで見えなくなります。好き嫌いと能力の評価を分けて考えてみると、意外なところに学べるものが見つかることがあります。他人の比較優位を見つける力も、仕事をするうえで役立つ能力の一つです。

上司から何を学ぶかは、自分で選べる

上司の得意なことを学ぶというと、自分のキャリアを上司に合わせる話に聞こえるかもしれません。しかし、私はむしろ、自分のキャリアを自分で組み立てるための方法だと思っています。

「自分は戦略を学びたいので、戦略を教えてほしい」「自分に合う仕事を用意してほしい」と考えると、自分の成長は上司の経験や、会社が用意できる仕事に左右されます。希望する能力を上司が持っていなければ、学習も進みにくくなります。

一方、目の前の上司が得意としていることを自分で見つけ、どの能力を自分のものにするかを選べば、現在の環境を自分なりに活用できます。今の上司からは交渉を学ぶ。次の上司からは問題設定を学ぶ。その次の上司からは、周囲を動かすリーダーシップを学ぶ。一人の上司を、そのままロールモデルにする必要はありません。それぞれの人から参考になる部分を持ち帰り、自分の中で組み合わせていけばよいのです。

良い上司に出会うまで、成長を保留にする必要はありません。会社にあるWhatから、自分が引き受けたい問題を選び、その問題を解くために必要なHowを学ぶ。そして、近くにいる人の中から、そのHowがうまい人を見つけて、仕事の進め方を観察する。

自分のキャリアを自分で考えるとは、上司から距離を置くことではないと思います。

上司から何を学び、どのように自分の能力へ変えるかを、自分で選ぶことです。

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