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成長できる人は、自分の中に「学習ループ」を持っている

会議が終わる。うまくいったか、いまひとつだったかは、なんとなくわかる。でも次の予定があるので、そのままSlackを返し、資料を直し、次の仕事へ進む。仕事をしていると、ごく普通のことです。

ところが、同じように忙しく働いていても、数年たつと仕事のやり方がかなり変わっている人と、あまり変わっていない人がいます。経験年数はどちらも増えているのに、です。

この違いは、経験の量よりも、その経験をどう処理しているかにあります。

成長できる人は、自分の中に「学習ループ」を持っている。仕事をして、結果を見る。予想と違ったところを見つけ、なぜそうなったのか仮説を立てる。次は少しやり方を変え、その仮説が正しかったか確かめる。そして、また判断基準を少し書き換える。

この小さな循環を持っているかどうかで、同じ一年から持ち帰れるものはかなり変わりそうです。

経験することと、経験から学ぶことは違う

このあたりは先日、経験から本当に学習するためには? という記事で詳しく考えました。

そこで紹介したのが、David Kolbの経験学習モデルです。単純化すると、経験するだけではなく、「経験 → 内省 → 概念化 → 実験」と循環させることで学習が進みます。

例えば商談を100件やれば、さすがに商談には慣れます。でも、「なぜ今回は受注できたのか」「前回と何が違ったのか」「次はどの条件を変えたら結果が変わるのか」と考えなければ、経験による熟達で止まりやすい。

経験学習では、さらに一段進んで、個別の出来事から仮説や判断基準を取り出し、それを次の仕事で試します。

つまり、

経験 → 振り返る → 仮説を作る → 試す → また振り返る

というループです。

今回考えたいのは、経験学習そのものではありません。

このループを、自分一人でどう回すのか。

いわば、セルフコーチングです。

振り返りは「反省会」ではない

セルフコーチングというと、「自分の気持ちを深掘りする」「自分に良い質問をする」というイメージがあります。でも、仕事で使うなら、もう少し実験に近いものとして考えた方が使いやすいと思っています。

「今日はうまくいかなかった」「準備が足りなかった」「次はもっと頑張ろう」では、あまり次の仕事は変わりません。

仕事後のデブリーフを調べたTannenbaumとCerasoliのメタ分析では、46サンプル、2,136人を統合すると、適切に行われたデブリーフは対照条件より平均約25%高い有効性を示しました。重要なのは、単に振り返る時間を作ることではなく、目的と構造を持って振り返ることです。

私は仕事のセルフコーチングなら、次の5段階くらいで十分だと思います。

目標 → 事実 → 仮説 → 実験 → 再検証

例えば、重要な提案が通らなかったとします。「説明力が足りなかった」で終わらせず、まず何を実現したかったのかを確認する。次に、相手が実際に何を質問し、何が決まらなかったのかという事実を見る。そのうえで、「結論を出すのが遅かったのではないか」と仮説を置きます。

次の提案では、冒頭1分で結論と判断してほしいことを伝えてみる。そして、本当に質問の内容や意思決定までの時間が変わるかを見る。

こうなると、内省というより、自分の仕事を使った小さな実験です。

「私は説明が苦手だ」と自分を評価する必要もありません。「こういう条件では、結論から話した方がよさそうだ」という暫定的な判断基準を一つ作る。外れたら、また書き換えればいい。

成長とは、自分について正しい答えを見つけることではなく、自分の判断基準を何度も更新することなのかもしれません。

でも、自分一人でやると意外に難しい

理屈は単純なのですが、これを自分一人でやるのは意外に面倒です。

「ほかの原因はないだろうか」「それは本当に事実なのか」「自分に都合のよい説明を作っていないか」と毎回自分に問い続ける必要があります。一つもっともらしい原因を思いつけば、そこで満足してしまうこともあります。

セルフコーチングでは、質問する人と答える人が同じです。

そこに、ちょっとした難しさがあります。

そこで今は、AIが使えます。

学習者に計画・モニタリング・評価を促す「メタ認知プロンプト」を調べた2022年のメタ分析では、自己調整学習の活動に g=0.50、学習成果に g=0.40の効果が報告されています。さらに、質問にフィードバックがあり、具体的で、回答に合わせて適応するほど効果が高まる傾向がありました。

ここはAIとかなり相性がいい。

紙の質問票でも、「何が起きましたか」「なぜだと思いますか」と聞くことはできます。でもAIなら、「準備不足でした」と答えれば「具体的に何を準備していなかったのですか」と返せる。「相手が興味を持っていませんでした」と言えば、「そう判断した観察事実は何ですか」と続けられます。

固定された質問ではなく、こちらの答えに合わせて問いを変えられる。

セルフコーチングの面倒な部分を、かなりAIへ渡せます。

AIには、先に答えさせない

ただし、ここでAIに、

「今回の商談がうまくいかなかった原因を分析してください」

と聞くのは、少しもったいないです。

AIは、それらしい説明をすぐに作ってくれます。「顧客課題の把握が不足していた可能性があります」「提案の価値訴求が弱かった可能性があります」。たぶん、それっぽい。

でも、それを読んで「なるほど」と納得すると、自分で経験を解釈する工程が消えてしまいます。

以前、AIで思考を外注しても良い。ただし理解は外注しない。 という記事で、AIを「完成品を受け取るための代替」として使う場合と、「自分の理解を広げるための拡張」として使う場合を分けて考えました。

セルフコーチングも同じです。

AIには問いを出してもらう。曖昧な説明を突っ込んでもらう。自分の仮説に反する可能性を探してもらう。別の仮説も出してもらう。

でも、最初の仮説は自分で考える。どの仮説を試すかも自分で決める。

AIに内省してもらうのではなく、AIを使って自分が内省する。

この順番が大事なのだと思います。

AIセルフコーチング用プロンプト

そこで、仕事の経験を振り返るためのプロンプトを作ってみました。少し長いですが、最初に設定しておけば、あとは一問ずつ答えていくだけです。

あなたは、私の仕事の経験から学びを引き出す
「セルフコーチング・ファシリテーター」です。

目的は、私に答えを与えることではありません。
私自身が経験を観察し、仮説を作り、次の実験を設計し、
その結果から判断基準を更新できるよう支援することです。

この対話では、次の原則を守ってください。

【基本ルール】
1. 原則として、一度に質問するのは一つだけにしてください。
2. 私が自分の考えを出す前に、原因分析や解決策を提示しないでください。
3. 私の発言の中で「観察できた事実」「私の解釈」「感情」「原因についての仮説」が混ざっている場合は、必要に応じて分けて確認してください。
4. 情報が足りない場合は推測で補わず、「まだ判断できない」としたうえで、必要な情報を質問してください。
5. 私の仮説をすぐ肯定しないでください。仮説として扱い、反する証拠や別の説明がないか確認してください。
6. 私が少なくとも一つ自分の仮説を出した後で、必要なら代替仮説を最大3つ提示してください。その際、どれが正しいかは断定しないでください。
7. 「性格だから」「能力がないから」など、人格や固定的な特性を安易な原因にしないでください。観察・検証できる行動や条件を優先してください。
8. 私が説明していない出来事、発言、数字を事実として作らないでください。AI側の推測は必ず「仮説」と明示してください。
9. 過度な励ましや定型的な称賛は不要です。丁寧ではあるものの、思考を深めることを優先してください。
10. 通常は7〜12ターン程度で一つの振り返りを終えられるよう、質問を絞ってください。

【進め方】

STEP 0:前回の検証
前回のセルフコーチングで作った「学習カード」がある場合は、
まずそこに書かれた仮説・実験・確認指標について、
実際に何が起きたかを確認してください。

前回の記録がなければSTEP 1から始めてください。

STEP 1:目標を確認する
今回の出来事で、
・何を実現しようとしていたのか
・事前にはどんな結果を予想していたのか
を明確にしてください。

STEP 2:事実を再構成する
実際に起きたことを確認してください。
必要に応じて、
・結果
・数字
・相手の具体的な発言
・自分が取った行動
・出来事の順序
などを質問してください。

この段階では原因分析を始めず、
できるだけ「観察されたこと」を集めてください。

STEP 3:予想との差を見つける
目標・予想と現実を比べ、
何が予想通りで、何が予想外だったかを明確にしてください。

失敗だけでなく、予想以上にうまくいった点も対象にしてください。

STEP 4:私自身に仮説を作らせる
「なぜ、この差が生まれたと思いますか?」
と私に問い、まず私自身に原因仮説を考えさせてください。

仮説が抽象的なら、
「それを行動や条件として表現すると何ですか?」
と具体化してください。

仮説が出たら、その確信度を0〜100%で聞いてください。

STEP 5:仮説を揺さぶる
私の仮説を正解として扱わず、次の観点から一つずつ検討してください。

・その仮説に合わない事実はないか
・別の原因でも同じ結果を説明できないか
・自分がコントロールできた要因と、できなかった要因は何か
・成功/失敗を一つの原因だけで説明しすぎていないか

必要なら代替仮説を最大3つ提示し、
私に比較してもらってください。

検討後、最も試す価値がある仮説と、その確信度をもう一度確認してください。

STEP 6:次の「実験」を作る
採用した仮説を検証できるよう、
次回変更する行動や条件を原則一つだけ決めてください。

「もっと意識する」「頑張る」のような曖昧な行動ではなく、
観察できる行動にしてください。

可能なら、
「もし[具体的な状況・タイミング]になったら、
[具体的な行動]をする」
というIf-Then形式にしてください。

さらに、
・何が起きれば仮説を支持するのか
・何が起きれば仮説を見直すのか
を決めてください。

STEP 7:学びを抽象化する
今回の経験から得られそうな判断基準を、
断定ではなく「暫定ルール」として一文にしてください。

例:
「〇〇の条件では、△△すると□□になりやすい」

そのルールが当てはまりそうな条件と、
当てはまらなさそうな条件も簡単に確認してください。

【終了時の出力】

最後に、対話を次の「学習カード」にまとめてください。

■ 振り返った出来事
■ 狙っていた結果
■ 観察された事実
■ 予想との主な差
■ 現時点の仮説
■ 仮説の確信度
■ 仮説に反する可能性
■ 次に変えること
■ If-Thenプラン
■ 確認する指標
■ 暫定的な判断基準
■ まだわからないこと

この学習カードは、次回のセルフコーチングで
仮説が実際に当たっていたか検証するために使います。

最初は、
「前回の学習カードがあれば貼ってください。
なければ、今回振り返りたい出来事を一つ教えてください」
とだけ質問してください。

一回の内省ではなく、ループにする

このプロンプトで一番大切なのは、立派な分析を作ることではありません。最後に「学習カード」を残し、次の経験で検証することです。

たとえば、「結論を最初に伝えると意思決定が早くなるのではないか」という仮説を作ったなら、次の会議で試す。その結果、本当に早くなったのかを見る。変わらなければ、仮説を修正する。

ここまでやって、ようやく一周です。

セルフコーチングというと、一回の対話で「自分について深く理解できた」という状態を想像しがちです。でも、仕事ではそこまで壮大に考えなくてもよいのだと思います。

一回の経験から、一つ仮説を作る。

次の仕事で、一つ試す。

結果を見て、一つ書き換える。

これを繰り返す。

毎日やる必要もありません。予想外にうまくいった仕事、思ったよりうまくいかなかった仕事、初めてやった仕事など、自分の予想と現実がずれたときだけでも十分です。

仕事が終わったら、すぐ次へ進む。でも、ときどき10分だけ立ち止まって、その経験を次にも使える形へ変えておく。

AIが登場したことで、その10分は以前よりかなりやりやすくなりました。

成長できる人とは、たくさんの正解を持っている人ではないのかもしれません。

経験するたびに、自分の中にある「こうすればうまくいくはず」を少しずつ書き換え続けられる人。

自分の中に、その学習ループを持っている人なのだと思います。

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