経験から本当に学習するためには? ー 同僚と差を経験学習
研修を受けたり、ビジネス書を読んだり、1on1をしたり……。成長のための活動はいろいろありますし、「どうすればもっと効果的になるか」という工夫も世の中に溢れています。
でも、本当にそれだけで成長できるのでしょうか? 極端な話、研修と読書と1on1だけをひたすら回していれば、どんどん仕事ができるようになるのか。たぶん、そんなに都合よくはいきません。
私たちが仕事で一番時間を使っているのは、当然ながら業務です。自己啓発ではありません。だとすると、この一番長い時間から学べるようになるほうが、ずっと効率がいいはずです。
振り返ってみても、私自身が大きく成長したのは、やはり仕事を通じてでした。ビジネス書も役に立ちます。ただ、役割としては「業務から学ぶ」ことを補助する部分が大きい。そもそも業務から何も学んでいなければ、補助しようにも本体がありません。
「あなたは業務を通じて学習・スキルアップができていますか?」
こう聞かれれば、多くの人は「はい」と答えると思います。昔より効率的に仕事ができるようになったし、以前はできなかった難しい仕事もこなせるようになった。それはその通りでしょう。
でも、少し不思議なことがあります。同じように何年も働いているのに、数年であっという間に出世する少数の人と、そうではない多くの人がいる。この差はどこから生まれるのでしょうか。
その差の一つが、経験学習です。
経験学習をかなり単純化すると、
「経験すること」ではなく、「経験を振り返り、そこから仮説や原則をつくり、次の行動を変えることで学ぶこと」
です。
多くの人がやっている「業務を通じて学ぶ」は、実は「経験による熟達」に近く、経験学習と呼ばれるものとは少し違います。
たとえば営業を100件経験した人がいるとします。100件も商談すれば、さすがに慣れます。話し方も自然になるし、商談も一人でこなせるようになるでしょう。「最初のころ、何をあんなに緊張していたんだろう」と思うかもしれません。これが「経験による熟達」です。
一方で、経験学習では、そこからもう一段踏み込みます。
「今回なぜ受注できたのか」
「顧客が反応したのは価格なのか、課題設定なのか、提案内容なのか」
「前回の失注案件とは何が違ったのか」
「次回は初回商談で決裁プロセスを確認したら受注率は変わるだろうか」
こんなふうに考えてみる。すると、単なる「商談経験」が、
「初回で意思決定プロセスを確認すると、後半の手戻りが減るのではないか」
という仮説に変わります。そこで次の商談で試してみて、結果を見る。これが経験学習です。
仕事を10年したからといって、必ずしも10年分学習したことにはなりません。同じ仕事を10年間ほぼ同じやり方で繰り返していれば、「1年分の経験を10回した」だけかもしれない。少し耳が痛い話ですが、経験と学習は別物です。
経験学習は「経験→内省→概念化→実験」と回っていく
経験学習の代表的なモデルに、教育心理学者David KolbのExperiential Learning Cycleがあります。大きく4段階です。
Concrete Experience:具体的経験
実際に仕事をする。商談する、企画を出す、プロジェクトを進める、失敗する、成功する。まずは材料になる経験が必要です。Reflective Observation:内省的観察
「実際には何が起きたのか」を振り返る。自分がどう感じたかだけではなく、期待していたことと現実に起きたことの差を見ます。Abstract Conceptualization:抽象的概念化
「なぜそうなったのか」「他でも使える原則は何か」を考える。個別の出来事を、別の場面でも使える知識へ変換します。Active Experimentation:能動的実験
得られた仮説を次の仕事で試します。結果を確認し、それをまた新しい経験として振り返ります。
流れとしては、
経験 → 振り返る → 原則をつくる → 試す → 新しい経験 → ……
という循環です。
経験を何度も繰り返せば、仕事には慣れていきます。それは「経験による熟達」です。そこに振り返りが入り、仮説をつくり、次で試す。そうやってぐるぐる回し始めると、経験が学習に変わっていきます。
一番難しいのは「抽象化」かもしれない
私は、ビジネスにおける経験学習では、Kolbの4段階の中でも抽象的概念化がかなり重要で、そして一番難しいと思っています。
たとえばプロジェクトが失敗したとき、「営業部のAさんが協力してくれなかった」で終わったとします。腹は立つかもしれません。でも、それだけだと、その会社、その人にしか使えない経験です。「次はAさんに気をつけよう」という学びでは、かなり用途が狭い。
ここから少し引いて見て、「営業部の評価指標と、このプロジェクトへの協力が結びついていなかった」と考えてみる。さらに抽象化すると、「相手に協力を求めるときは、その行動と相手のインセンティブが整合している必要がある」となります。
ここまで来ると、話は営業部のAさんだけではなくなります。採用、プロジェクトマネジメント、アライアンス、組織設計など、別の問題にも使えるようになる。
エピソード → 構造 → 原則(仮説)へと変換されているわけです。そして、この仮説を次の経験で試してみる。うまくいけば仮説の確度が上がるし、外れればまた考え直す。こうやって経験からの学習が進んでいきます。
だから、経験量と成長量は比例しない
こう考えると、同じ会社に同じ期間いる二人の能力差が、だんだん開いていく理由も見えてきます。
Aさんは毎回、「終わった。次。」と進む。仕事はちゃんと終わっています。忙しいですし、次の案件も待っています。これはこれで、とても普通です。
Bさんは、
予想は何だったか。
実際はどうだったか。
なぜ差が出たか。
次に何を変えるか。
を考える。
二人とも年間100件の仕事を経験していたとしても、Bさんは100件の中から仮説や判断基準を少しずつ蓄積していきます。しかも、その判断基準を次の案件で使うので、次にする経験そのものの質まで上がっていく。
すると、
経験 → 学習 → 能力向上 → より難しい経験 → さらに学習
という自己強化ループができます。
経験学習がおもしろいのは、「経験から学びましょう。以上!」という精神論ではありません。同じ経験量でも、そこから取り出せる学習量は人によって違うというところです。仕事が同じ100件でも、持ち帰っているものは同じとは限りません。
ビジネス書は「他人の経験」と比べるために読む
経験学習のループを回している人は、ビジネス書の読み方も少し変わります。何となく「いいこと書いてないかな」と読むのではなく、すでに自分の中に仮説があるからです。
「自分はこういう経験をして、こう考えた。でも、他の人はどう考えているんだろう?」
この状態で読むと、読書から得られるものも変わります。
適切なビジネス書を選べば、すごい人たちの経験と、そこから得た学びが言語化されています。その内容のすべてが正しいわけではありませんし、自分の経験とは合わないものも多いでしょう。
でも、それでいいのだと思います。自分の仮説を持った状態で他人の経験を読むと、「自分の場合は違ったな」と比較できます。そのズレから、「なぜ違ったんだろう?」とまた考えられる。ビジネス書は正解集というより、自分の経験を別の角度から眺める材料として使うと、かなりおもしろくなります。
10分だけ、やってみませんか?
こういうものは、読んだ直後に一度やってみるのが一番です。「なるほど、勉強になった」でブラウザを閉じると、この記事自体が経験学習されないまま終わってしまいます。それはちょっと悲しい。
10分でできるので、直近の案件について次の5問を考えてみてください。
何を起こそうとしていたか
実際には何が起きたか
なぜ差が生まれたと思うか
そこから他でも使えそうな原則は何か
次回、一つだけ何を変えて試すか
この最後の「次回」がかなり大事です。振り返って「勉強になりました」で終わると、それは内省ではあっても、まだ学習サイクルは閉じていません。
次の行動が変わって初めて、経験学習が一周する。
この捉え方をすると、毎日の仕事が少し違って見えてきます。仕事はただ片づけるものではなく、次の自分の判断材料をつくる場所にもなる。特にビジネスでは、「良い経験をどう獲得するか」まで含めて考え始めると、仕事そのものがかなり面白くなってくる気がします。
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