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「1on1」ではなく「科学的に証明された育成方法」

多くの会社で1on1が行われています。上司と部下が週に一度、あるいは月に一度、30分ほど話し、仕事上の悩みやキャリアについて相談する時間です。

私もこれまで、数多くの1on1を行ってきました。しかし、続けているうちに、これは本当に人材育成として有効なのだろうかと考えるようになりました。

進捗は、プロジェクトの定例会議で確認できます。チームの方針は全員へ同時に説明したほうが効率的ですし、成果物へのフィードバックは、完成した直後に返したほうが分かりやすいでしょう。もちろん、人前では話しにくい問題もあります。ただ、そのような話題が毎週発生するとは限りません。

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1on1の効果を示す研究は、驚くほど少ない

結論から言えば、少なくとも私が確認できた範囲では、直属の上司との定期的な1on1が、部下の能力や仕事の成果を向上させることを直接示した十分な研究は見つかりませんでした。

1on1を扱った2022年の概念レビューでも、多くの職場で1on1が実施されている一方、独立した研究対象としては十分に検証されていないと指摘されています。

1on1への満足度や、上司との関係、従業員エンゲージメントとの関連を調べた研究はあります。しかし、良質な1on1が効果を生んだのか、それとも、もともと良好だった上司と部下の関係が1on1の評価を高めたのかは、簡単には区別できません。1on1への満足度が高くても、企画書の品質や商談力、生産性まで向上したとは限らないのです。

これは、1on1に意味がないという話ではありません。重要なのは、1on1という形式そのものには、人を育てる機能が組み込まれていないということです。

一方で、これまで私が実務で重視し、過去にも調べてきた育成方法には、その有効性を裏づける研究が数多くあります。ここからは、それらを七つに整理して紹介します。

科学的に証明された育成方法

1.育てたい能力を、観察できる行動に変える

最初に行いたいのは、何を育てるのかを具体的に決めることです。

「視座を上げてほしい」「主体性を持ってほしい」「もっと論理的に考えてほしい」と伝える上司は少なくありません。しかし、このような言葉だけでは、部下は何を練習すればよいのか分かりません。上司も、実際に成長したのかを確認できないでしょう。

例えば、「視座を上げる」であれば、次のような仕事へ変換します。

次回の企画提案では、自部署の都合だけでなく、顧客への価値、売上への影響、他部署の負荷、実行コストを整理し、三つの選択肢を比較する。

目標設定研究では、単に「最善を尽くしてください」と求めるより、具体的で難易度のある目標を設定したほうが、成果につながりやすいことが繰り返し示されています。ロックとレイサムによる目標設定研究のレビューでも、具体的で挑戦的な目標と、進捗に関するフィードバックの重要性が整理されています。

育成を始める前に、何ができるようになればよいのか、どの仕事や成果物で確認するのか、どの水準までできればよいのかを決めておく必要があります。

2.手本と、その裏にある判断基準を見せる

経験のない人に「まず自分で考えてみて」と言っても、効率よく学べるとは限りません。初心者は、何を考え、何を基準に判断すればよいのかを、まだ知らないからです。

行動モデリング訓練に関する117研究のメタ分析では、望ましい行動の手本を示し、本人に練習させ、フィードバックを返す方法が、知識やスキル、職場での行動に効果を持つことが示されています。

ただし、優れた企画書や提案資料を渡すだけでは、表面的な部分をまねするだけになりがちです。上司は、なぜこの順番で説明したのか、なぜこの数字を使ったのか、なぜ別の情報を削ったのかまで説明する必要があります。

例えば、企画書を見せながら、次のように伝えます。

最初に顧客の問題を書くのは、社内都合の企画に見せないためです。三案を並べるのは、採用する案だけでなく、何を捨てたのかも意思決定者へ示すためです。

手本だけでなく、その成果物を生み出した判断理由まで見せることが大切です。

3.少し難しい実務を任せる

手本を見て説明を聞くだけでは、仕事はできるようになりません。実際の仕事で試す必要があります。

ただし、いきなり重要顧客や大型案件を丸ごと任せる必要はありません。現在の能力より少し難しく、失敗しても修復できる仕事を選びます。企画書を作った経験が少ない人なら、まずは既存案件の一部分を担当してもらう。営業なら、上司が同席する商談で、ヒアリングの一部を任せてもよいでしょう。

失敗管理訓練を扱った24研究、2,183人のメタ分析では、失敗を避けるために細かな手順を教えるだけでなく、試行錯誤をさせ、失敗から学ぶことを促したほうが、新しい課題への適応に有効であることが示されています。

重要なのは、本人が予想した結果と、実際に起きた結果の間に差が生まれ、その差を検証できることです。失敗したときの影響が大きい仕事では、担当範囲を限定したり、途中にレビューを置いたりすればよいでしょう。

また、難しい仕事を任せるなら、必要な情報、時間、権限も渡す必要があります。現在の仕事を減らさず、必要な会議にも参加させず、失敗だけを本人の能力不足として評価するのは、育成とは言えません。

4.結果が生まれた原因を、本人に考えさせる

仕事が終わると、上司は「今回うまくいったのは、顧客理解が深かったからだ」「失敗したのは、行動量が足りなかったからだ」と評価したくなります。

しかし、上司が仕事のプロセスをすべて観察していないなら、それは推測にすぎません。成果には競合や予算、情報不足など、本人が制御できない要因も含まれます。結果だけを見て、成功や失敗の原因を決めないほうがよいでしょう。

まずは本人に、次の四つを説明してもらいます。

  1. 何を実現しようとしていたか

  2. 実際には何が起きたか

  3. なぜ差が生まれたと考えるか

  4. 次回は何を続け、何を変えるか

このとき、「顧客に寄り添えた」「もっと早く動けばよかった」といった感想だけで終わらせないことが大切です。商談記録、成果物、顧客の反応、仕事が止まった工程など、確認できる事実と結びつけて考えます。

仕事後のデブリーフやAfter Action Reviewを扱ったメタ分析では、構造化された振り返りによって、個人やチームのパフォーマンスが平均で約20〜25%改善し得ると報告されています。

経験は、結果が生まれた原因を振り返り、次の仕事へ転用して初めて学習になります。

5.人格ではなく、仕事へフィードバックする

本人の振り返りを聞いた後は、上司からフィードバックを返します。ただし、フィードバックは多ければよいわけではありません。

クルーガーとデニシによる607の効果量を統合したメタ分析では、フィードバックは平均的にはパフォーマンスを改善していました。一方で、三分の一を超える介入では、フィードバック後にパフォーマンスが低下していました。

特に問題になりやすいのは、「主体性がない」「考えが浅い」といった、本人の注意を仕事から自己評価へ移してしまう伝え方です。これでは、次に何を変えればよいのかが分かりません。

フィードバックは、成果物と評価基準の差へ戻します。

三案を並べていますが、比較軸が書かれていません。そのため、なぜこの案を選んだのかが読み手に伝わりません。次回は、顧客価値、費用、実行期間の三軸で比較してみましょう。

人物を評価するのではなく、成果物と基準の間にどのような差があるのか、その差を埋めるために次は何を変えるのかを伝えます。

6.必ず次の試行を用意する

振り返りをしてフィードバックを伝え、「次から気をつけよう」で終わっても、学習はまだ完了していません。

仕事の能力は、説明を理解した時点ではなく、次の仕事で行動を変えられたときに身につきます。

研修から実務への学習転移を調べた89研究のメタ分析でも、学習内容だけでなく、学んだ能力を職場で使える機会や、上司や同僚からの支援が重要であると整理されています。

そのため、フィードバックの最後には、次の試行を用意します。

次の企画書は本人が初稿を作り、提出前に比較軸が明確になっているかだけを確認する。

改善点をいくつも並べる必要はありません。次の仕事で変えることを一つ決め、その結果を確認すれば十分です。

7.上司の支援を、少しずつ外していく

上司が毎回答えを教え、資料を細かく修正していれば、成果物の品質は保てるかもしれません。しかし、それでは部下が自分で判断できるようになりません。一方で、「任せたから自由にやって」と放置しても、なかなか育たないでしょう。

必要なのは、本人の能力に合わせて、上司の支援を少しずつ外していくことです。

最初は、上司が目的、方法、手順、評価基準を示します。次に、目的と評価基準だけを示し、方法を本人に考えてもらいます。さらに能力が上がってきたら、どの問題に取り組むかという問題設定まで任せます。

上司による自律性支援を扱った72研究、3万2,870人のメタ分析では、本人の視点を聞き、選択肢を与え、自発的な行動を促す上司の行動が、自律的な動機づけや肯定的な職務行動と関連していました。

ただし、この研究領域には観察研究も多いため、自律性を与えれば必ず業績が上がるとまでは言えません。

育成のゴールは、上司の支援を増やすことではありません。部下が自分で担える判断を増やすことです。

あくまでも1on1は、育成の補助として使う

研究によって比較的支持されている育成方法は、次の七つです。

  1. 育てたい能力を、観察できる行動に変える

  2. 手本と判断基準を見せる

  3. 少し難しい実務を任せる

  4. 結果が生まれた原因を本人に考えさせる

  5. 人格ではなく仕事へフィードバックする

  6. 次の試行を用意する

  7. 上司の支援を段階的に外していく

これらは、日常の仕事の中で、一つの育成サイクルとして行います。能力を定義し、手本を示し、仕事を任せる。結果を振り返ってフィードバックし、次の仕事でもう一度試す。できるようになったら、上司の支援を減らしていきます。

1on1を行うなら、このサイクルが回っているかを確認する補助として使うとよいでしょう。今、どの能力を、どの仕事で練習しているのか。前回の学びを次の仕事で試せたか。この二つを確認するだけでも、1on1を行う意味はあります。

一方で、成果物のレビューや仕事後の振り返り、次のアサインを通じて確認できているなら、毎週あらためて1on1を行う必要はないかもしれません。

1on1を行うこと自体を、育成だと思わないほうがよいでしょう。

日常の仕事を、繰り返し学べる仕組みに変えている会社が、人を育てているのです。

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