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Tokyo Gendai 2025 ──国内外の視線が交錯する国際アートフェアの現場から

この記事でわかること
・会場であるパシフィコ横浜の建築的背景とイベントの位置づけ
・国際的なアートフェア「Tokyo Gendai 2025」の全体像
・出展ギャラリーや市場状況、他国との比較
・水戸部七絵やDIEGO、川内理香子、西村有といった注目作家の展示
・来場者の動向や、僕自身の体験・所蔵作品との接続



はじめに──パシフィコ横浜という会場

今回のTokyo Gendai 2025は、横浜・みなとみらいの中心に位置する国際会議場「パシフィコ横浜」で開催されました。
1991年に開業したこの複合施設は、国際展示場・会議場・ホテル・国立大ホールが一体となった構成を持っています。三角帆のようにそびえる屋根が印象的で、ヨットハーバーを思わせる外観はみなとみらい地区のランドマークのひとつです。普段は国際会議や企業展示会、音楽イベントまで多岐にわたって利用されており、「世界へ開かれた都市型展示空間」としての役割を担っています。

パシフィコ横浜外観
1991年開業。会議センター・展示ホール・ホテル・国立大ホールからなるMICE複合。

美術館やギャラリーとは異なり、アートフェアという商業的性格を持つイベントがここで行われることは、建築的にも都市的にも象徴的です。
白い壁で仕切られた無数のブースが並び、そこに世界中から集まったギャラリーが作品を展示する。街を歩くようにブースを巡る体験は、展覧会とはまた違った緊張感と即時性を持ち、買う人・見る人・議論する人が同じ空間を共有するという特異な空気を作り出していました。

入場してすぐの全景
白壁のブースが並ぶフェア特有の視界。初動の導線がわかりやすい配置。

Tokyo Gendai 2025の全体像

第3回目となるTokyo Gendaiは、今年初めて9月開催となりました。これは韓国での「Frieze Seoul」「KIAF」に続く日程を意識したもので、海外コレクターやキュレーターがそのまま東京に足を運べるように設定されているそうです。また、韓国の「Art Busan」との戦略的パートナーシップを結んだことから、韓国ギャラリーの参加も目立ちました。

一方で、前年まで出展していたBLUM(旧 Blum & Poe)やペロタン、SCAI THE BATHHOUSEといった有力ギャラリーの不参加が美術界隈のニュースとしても話題に。しかし、新規参加ギャラリーとして上海のShanghARTやSadie Coles HQといった海外の大手ギャラリーが名を連ねたことも今回の特徴となっています。

アート市場全体に不景気、不透明感が漂うなかでの開催。僕のタイムラインに流れてくる美術界隈の方々のSNSでは「売れ行きが厳しい」「核になる作品が少ない」といった声も見つけました。しかし、僕個人としては「一つでも印象に残る作品との出会いがあれば十分」という気持ちでいつもギャラリーや美術館巡りをしているので、今回の訪問もとても楽しみでした。

アートフェアは売買の場としてだけではなく、自分の鑑賞体験を更新し、作品との偶然の出会いを得る場でもあります。

アートフェアでも、過去に作品を購入したことがあります。昨年のアートフェア東京で山本れいらさんの1.6m x 1.3mの作品を購入しています。いつか購入作品についての解説noteなども書いてみようと思います。


水戸部七絵 ──圧倒的な物質性と顔の連続体

会場に入って、館内をゆっくり巡ります。
すぐに目がついたのは水戸部七絵さんの作品群でした。大量の絵具を重ねて塑像のように立ち上がった作品は、トランプ大統領やデヴィッド・ボウイの顔をモチーフにしつつ、ペインティングとフィギュアが混ざり合うように展示されていました。会場の視線が一気に集中するその存在感は、まさに今回のTokyo Gendaiの「顔」と呼ぶにふさわしいものでした。

厚い絵具が立体化するシリーズ。スターの顔を通して社会的含意まで射程に入れる。

水戸部さんの作品を見たのは、2021年に有楽町CADANで行われたグループ展、そして2022年のオペラシティでの個展でした。3年前には購入を検討して問い合わせまでしたことがありますがウェイティングリストがあり、断念した経緯があります。あれから時間が経ち、再び目の前に立ち上がる作品群を見た時、改めて作品の強さ・美しさに感動しました。

彼女の作品は厚さ最大で数十センチに及ぶ絵具層が積み重なり、絵画と彫刻の境界を揺さぶるものです。スターの顔を描きながら、そこに込められるのはポップな表象だけではなく、社会的・政治的な意味や哀れみ、共感といった複雑な感情です。物質の塊が人間性そのものを問うように迫ってくる迫力をじっくりたっぷり味わいました。格好良かったです。

DIEGO ──ストリートをホワイトキューブに持ち込む作家

水戸部七絵さんの作品と同じスペースで展示されていたDIEGOさんの作品にも強く惹かれました。

2019年に馬喰町のPARCELで行われた「COMIC ABSTRACTION BY WRITERS」で初めてDIEGOさんの作品を見て以来、その表現に強い興味を持ってきました。実際に購入したことはまだありませんが、ワタリウム美術館の地下にあるオンサンデーズで販売されていたマグカップを購入。自宅で愛用しています。

DIEGOさんは1986年生まれで、正式な美術教育を受けていないにもかかわらず、ストリートアートの文脈から頭角を現しました。SIDE COREというコレクティブのメンバーとしても活動し、都市空間の隙間を利用するストリートの感覚をホワイトキューブに持ち込むスタイルが特徴です。
「グラフィティは街で描かれるもの」という固定観念に挑み、キャンバスや美術館にそのダイナミズムを持ち込む。マーケットや制度に依存しないラディカルな姿勢があり、その不条理性が逆に強い説得力を持っています。

今回の展示でも、ストリート特有の即興性と、キューブ空間での緊張感が格好よく交差していました。水戸部作品と同じ場に置かれたことで、より一層「規格外同士」のエネルギーが共鳴していたように感じました。


川内理香子 ──日常に潜む身体性の揺らぎ

鎌倉画廊のブースでは、川内理香子さんの作品が3点展示されていました。僕自身、川内さんの作品を2点コレクションしており、自宅の壁に飾って毎日眺めています。その意味でも、今回の展示は「所蔵者としての視線」と「鑑賞者としての新鮮な体験」が重なった瞬間でもありました。

川内さんの3作品

展示されていた大作も小品も、川内さん特有の厚塗りのマチエールと、身体の断片が交錯するようなダイナミックな構成で、一目で川内作品だとわかる強さがありました。会場を歩いていると、多くの来場者が足を止めて写真を撮っていたのが印象的です。鑑賞者を惹きつける力が確実にあることを目の当たりにしました。

川内さんは1990年生まれで、食を起点に身体やコミュニケーションをテーマに作品を展開してきました。絵画だけでなく、立体や映像も手がけながら、「自己と他者の境界」を探る姿勢を持っています。

僕が自宅に飾っている2作品も、改めて見直すと今回展示されていた大作と地続きにあることを実感しました。生活の中にアートがあることの豊かさを再認識させてくれる体験でした。

自宅に飾っている川内作品
(もう1つの作品もありますが、そちらはいずれnoteで記事にして公開します)

西村有 ──匿名性と記憶の風景

Sadie Colesのブースで展示されていた西村有さんの作品も心に残りました。青を基調にした大きなキャンバスに、アジア人のような顔立ちの人物が淡々と描かれた作品です。匿名的で無機質な存在感を持ちながら、なぜか目を離せなくなる。鑑賞者の記憶を刺激し、自分自身の中の断片と重なっていくような感覚がありました。

西村さんの作品に、僕は6〜7月にヨーロッパを旅行していた際にも出会いました。パリ市立近代美術館の常設展示室に飾られていたのです。その時の偶然の邂逅を思い出しつつ、今回の大作を目の前にした時の感動は一層強いものでした。Sadie Coles HQに所属し、2025年にはDavid Zwirnerとの契約も発表され、世界的な注目度はますます高まっています。

6月末にパリ市立近代美術館で見た西村有さんの作品

繊細な色彩と淡い筆致が、匿名的でありながらどこか普遍的な人間性を呼び覚ます。フェア会場での喧騒の中で、この作品の前だけは静かな空気が漂っていました。


会場全体の空気と僕自身の視点

Tokyo Gendai 2025を通して強く感じたのは、「アートフェアにおける体験の価値」です。

僕のような鑑賞者にとっては一つの印象的な作品との出会いを見つけることができるだけで十分に行く意味がありました。水戸部七絵の圧倒的な物質性、DIEGOのストリート感覚、川内理香子の身体性、西村有の匿名的な記憶の喚起。紹介した4名の作家は過去に様々な美術展で見てきた方たちです。

フェアは作品を買う人だけのものではありません。自分のコレクションと照らし合わせたり、過去に買おうとした作家の現在地を確かめたり、都市や建築との接続を考えたりすることで、アートフェアは文化的な地図の一部となっていきます。

富裕層視点やコレクター視点で見た場合、この限りではないでしょう。そもそもアートフェアへの出展料は高いらしく、誰かが作品を買わない限り、このイベント自体運営できないし、ギャラリーも売り上げを出さなければ死活問題です。だからこそ、僕がフォローしている美術界隈の有識者の方々は苦言を呈すし、その気持ちもよくわかります。人を呼び込むような核となる作品が必要だという意見も理解できます。

SNSのタイムラインでは、最終日、多くのブースで未売作品が目立ったとする投稿をいくつか見かけました。体感値の共有ではあるものの、国内の買い手の母数や景況感は課題だと感じます。開催側は来場導線や国際連携を強めつつ、「ここで買いたい」理由をつくる核企画を増やせるかがポイントだと思いました。運営側のジレンマも想像しました。


おわりに

パシフィコ横浜という都市的空間で開催されたTokyo Gendai 2025。
規模としてはArt Fair Tokyoと(少々少ないながらも)肩を並べながらも、国際的なネットワークの中で自らの位置を探る試みが印象的でした。景気の不透明感や不参加のギャラリーは確かに気になる要素ですが、その一方で新たな出展や注目作家の存在が、このフェアを「今見るべき現場」として成立させていました。

僕にとっては、アートフェアを訪れることそのものがすでに「作品との出会い」であり、「自分の思考を更新する場」でした。そして、今回こうしてnoteに記録することで、その体験がさらに確かなものになったと感じています。最後に気になった作品や会場の風景を沢山の写真と共にお届けします。

中央奥に見えるのは松山智一さんの作品
Andrew Moncrief
Takao Araki
Tomona Matsukawa
Beverly Fishman
Alex Da Corte
kaikaikikiのブース
Carsten Nicolai
Konstantin BESSMERTNY
BERNAR VENET
BERNAR VENET
Elmgreen & Dragset
Elmgreen & Dragset
Koichi Enomoto
ryan gander
Asami Kiyokawa
Daisuke Takahashi
PARK SUNG-TAE
Shourouk Rhaiem
Chie Aoki

📌 次回予告

次回はまだ旅行記には戻らず、今日これから国立新美術館へ行く予定ですので、そこで開催されている【時代のプリズム:日本で生まれた美術表現 1989-2010】展のレポートをお届け予定です。

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Profile

イタクラタツキ/板倉龍城
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現代美術、建築、音楽、ファッション──カルチャーの領域を横断しながら活動するスタイリストです。大学・大学院では建築を学び、現在は東京と大阪を拠点に、広告やファッションを中心に活動しながら、アートディレクションや企画、キャスティングも手がけています。

noteでは、日々の仕事で触れてきた“視覚文化の現場感覚”をもとに、都市やアート、ストリートカルチャーを記録しています。

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