三毛猫 ミーちゃん ~夢の中から、ただいま。~
「最近、ミーちゃんの夢を見たんだよ。」
ある朝、母が朝食の席でぽつりと言いました。
父は新聞を読みながら、
「へぇ〰」と返事をします。
「どんな夢だった?」
私も気になって聞いてみました。
母は少し笑いながら話し始めます。

「昔みたいに玄関から入ってきてね。
『ニャー』って一回だけ鳴いたの。」
「それで?」
「そのまま私の足元をぐるっと一周して、
いつもの座布団に座ったの。」
そこまで話すと、母は少し目を細めました。
「何だかね、『心配しなくていいよ』って
言われた気がしたの。」
誰も何も言いませんでした。
でも、
不思議と食卓には温かい空気が流れていました。
夢だったのか。
それとも、本当に会いに来てくれたのか。
答えは誰にも分かりません。
だけど、そう信じたくなる夢でした。
その頃、天国では。
ミーちゃんは今日も相変わらずの生活を
送っています。
朝は一番日の当たる雲でひなたぼっこ。
昼はお気に入りの木陰でお昼寝。
おやつの時間になると、
誰よりも早く列に並びます。
「今日のちゅーるは何味?」
天使が笑いながら答えます。
「今日はカツオですよ。」

その瞬間。
「にゃっ!」
十五歳を超えていたとは思えない俊敏さ。
周りの猫たちは苦笑いです。
「親分、本当に食べ物だけは若いですね。」
ミーちゃんは振り返りもせず、
夢中で食べています。
「食べられる時に食べる。」
それがミーちゃん流です。
ある日、神様が天国のみんなに尋ねました。
「地上に残してきた人へ、一度だけ夢の中で
会いに行けるとしたら、どうする?」

犬たちは一斉に尻尾を振ります。
「行きたい!」
「早く会いたい!」
猫たちはというと…。
「うーん。」
「別に慌てなくても。」
「そのうち会えるし。」
いかにも猫らしい反応です。
もちろんミーちゃんも、その中の一匹。
神様は笑いました。
「君は行かないのかい?」
ミーちゃんは空を見上げ、小さく伸びをします。
「……。」
しばらく黙っていましたが、
ゆっくり立ち上がりました。

「行く!!」
その返事は短くても、
どこか優しさがにじんでいました。
その夜。
母の夢にミーちゃんは現れました。

若い頃と同じ艶のある毛並み。
丸い目。
少し偉そうな歩き方。
玄関から堂々と入ってきて、
家の中をゆっくり見回します。
父が寝転んでいた場所。
私がよく座っていた場所。
お気に入りだった座布団。
全部覚えていました。
母がしゃがむと、
ミーちゃんは昔と同じように膝へ飛び乗ります。
「重っ。」
母は夢の中でも笑ってしまいました。
ミーちゃんはゴロゴロと喉を鳴らします。
そして、じっと母の顔を見つめました。
言葉はありません。
でも、
その目は確かに語っていました。

「ありがとう。」
「みんなのおかげで幸せだった。」
「だから泣かなくていい。」
母は涙を流しながら何度も頭を撫でます。
「また帰っておいで。」
そう言うと、ミーちゃんは立ち上がり、
玄関へ向かいました。
振り返ることなく歩いていきます。
「あれ?もう帰るの?」
母が慌てて呼ぶと、
ミーちゃんは一度だけ尻尾をピンと立てました。
それは昔から変わらない返事。
「聞こえてるよ。」
その瞬間、夢は終わりました。
翌朝。
母は涙ではなく笑顔で目を覚ましました。
「元気そうだった。」
その一言だけで十分でした。
実家へ帰るたび、
私は今でも座布団を見てしまいます。
もう誰も座っていません。
でも、
不思議と寂しいだけではありませんでした。
見えないだけで、そこにいる気がするのです。
風が吹いた時。
鈴の音に似た音が聞こえた時。
日向に丸い影ができた時。
「ミーちゃん?」
そう声をかけたくなる瞬間があります。
もちろん返事はありません。
……いや。
あるのかもしれません。
カーテンがふわっと揺れたり。
どこからともなく猫の毛が一本見つかったり。
誰もいないのに、
座布団が少しへこんでいるような気がしたり。
「また来てるな。」
家族はそんなことを言って笑います。
科学的な説明をしようと思えば、
いくらでもできるでしょう。
でも、家族には家族だけが信じられる
温かい出来事があります。
それで十分なのです。
その頃、天国では。
神様が新しい座布団を用意していました。
「今日はふかふかの特別仕様ですよ。」
ところが、置いた瞬間。
いつの間にか真ん中にはミーちゃん。
もう丸くなって眠っています。
神様は思わず笑いました。
「まだ誰も座ってないんだけどなあ。」
周りの動物たちも大笑い。
「さすが親分!」
「センターは譲りませんね。」
ミーちゃんは片目だけ開けて、
少しだけ得意そうな顔をします。
「当然でしょ。」
そんな声が聞こえてきそうでした。
家族と過ごした十五年。
それは終わった時間ではありません。
今も思い出として生き続けています。
姿が見えなくなっても、
愛された記憶は消えません。
笑わせてくれた日々も、
癒やしてくれた時間も、
全部が家族の宝物です。
だから今日も、
私たちは空を見上げて心の中でつぶやきます。
「ミーちゃん、元気にしてる?」
すると、どこか遠くの空で、
少し偉そうな三毛猫が大きくあくびを
しながら思っているのでしょう。

「もちろん。今日も私は、
みんなのセンターだからね。」
最後まで読んでいただきありがとうございます😊
三毛猫 ミーちゃんシリーズ、
続編も作成中です。
今後ともよろしくお願いします✨
