新規事業の価格設定|支払意思を確かめる7つの質問
新規事業の価格設定で、「原価に利益を足せばよい」「競合より少し安くすれば売れる」と考えていないでしょうか。
原価だけで決めると、顧客が感じる価値より安く設定して利益を失う可能性があります。競合価格だけを基準にすると、提供範囲や品質の違いを無視した価格競争になりかねません。
一方、顧客へ「いくらなら買いますか」と聞くだけでも、価格は決まりません。
インタビューでは好意的な金額を答えても、実際に価格、提供範囲、契約条件を提示すると購入しないことがあります。特にBtoBでは、話を聞いた人と、予算を持つ人、利用する人、契約を承認する人が別の場合があります。
新規事業の価格は、次の三面をつなげて設計します。
継続して提供できるコスト
顧客が解決に感じる価値
競合だけでなく、内製や現状維持を含む代替手段
そのうえで、発言ではなく、見積依頼、社内稟議、有償テスト、予約金、購入といった行動で確かめます。
この記事では、価格仮説を作る三つの視点と、支払意思を確認する7つの質問を整理します。
価格設定は「コスト・顧客価値・競合」の三面で考える
J-Net21の価格設定に関する解説でも、価格を決める際には、原価、需要、競合状況の三要素を踏まえる考え方が示されています。
どれか一つだけで価格を決めるのではなく、三つの条件が同時に成立する範囲を探します。
1.コスト|いくら未満では続けられないか
最初に、販売するほど損失が増える価格を避けます。
原価には、材料費や仕入費だけでなく、次の費用も含めて確認します。
提供担当者の作業時間
外注費、システム利用料、決済手数料
営業、提案、契約にかかる工数
顧客ごとの導入支援、問い合わせ、修正対応
配送、保管、移動、設置にかかる費用
不良、キャンセル、返金へ備える費用
集客から受注までにかかる顧客獲得費
継続的に発生する管理費
特にサービス事業では、制作時間だけを原価として計算すると、打ち合わせ、提案、修正、連絡、請求などの時間が抜けやすくなります。
一件受注するたびに増える費用と、受注件数にかかわらず発生する固定費を分け、何件販売すれば固定費を回収できるかも確認します。
ただし、計算した原価へ希望利益を足しただけでは、売れる価格になったとは限りません。コストは「これ未満では継続できない」という下限を考える材料です。
2.顧客価値|何を変えるためにお金を払うのか
顧客価値は、商品の機能数ではなく、導入によって顧客の行動や結果がどう変わるかで考えます。
確認したいのは、次のような変化です。
現在発生している作業時間を減らせる
外注費、再作業、廃棄などの支出を減らせる
失注、遅延、事故などのリスクを下げられる
売上機会を増やせる
判断や提供開始までの時間を短縮できる
顧客自身では難しい品質や専門性を得られる
「売上が上がる」「工数を半減できる」といった効果を、確認前に断定してはいけません。
まず、顧客が現在どの方法へ時間や費用を使い、何に困っているかを確認します。そのうえで、新しい商品がどの負担を、どの条件で変えられるかを仮説にします。
顧客価値から考えた価格が高く見えても、実際の提供コストを下回れば継続できません。反対に、原価は低くても、顧客が現在の方法を変える理由がなければ購入されません。
3.競合・代替手段|顧客は何と比べるのか
価格比較の対象は、同業他社だけではありません。
顧客は、次のような選択肢と比べます。
競合する商品・サービス
社内で手作業を続ける
既存ツールの一部機能で代用する
知人や既存取引先へ依頼する
対応を先送りする
問題を解決せず、そのまま受け入れる
月額だけを比較しても、初期費用、契約期間、提供範囲、必要な社内作業、解約条件が違えば同じ商品とはいえません。
価格表を作るときは、少なくとも次を同じ列で比較します。
初期費用と継続費用
商品に含まれる範囲
導入までの期間
顧客側に必要な作業
品質、対応速度、個別対応
最低契約期間と解約条件
導入後に残るリスク
競合より安いことではなく、顧客が「なぜこの条件を選ぶのか」を説明できることが重要です。
なぜ「いくらなら買いますか」だけでは決められないのか
価格を見せずに希望額を聞くと、回答者は商品の範囲や品質を自分で補って答えます。
同じ「10万円」でも、単発の調査、実行支援を含む調査、継続サポート付きの調査では意味が違います。支払期限や契約期間が違っても判断は変わります。
また、回答者には実際に支払う責任がない場合があります。「それくらいなら買いたい」という発言と、見積書を社内へ回す行動は分けて記録します。
インタビューの役割は、正解価格を当ててもらうことではありません。
顧客が何へお金を使っているか
何と比較しているか
誰が決めるか
どの条件で検討が止まるか
を確認し、提示価格を試す条件を作ることです。
支払意思を確かめる7つの質問
質問1|この問題が最後に起きたのはいつですか
一般的な困り事ではなく、直近の出来事を聞きます。
続けて、次を確認します。
何が起きたか
誰が影響を受けたか
どのくらい続いたか
放置すると何が起きたか
問題が具体的な行動として出てこなければ、価格以前に、対象者や課題仮説がずれている可能性があります。
質問2|そのとき、最初に何をしましたか
現在の代替手段を確認する質問です。
「こうすると思う」ではなく、実際に取った行動を順番に聞きます。
自分で調べた
社内の担当者へ頼んだ
既存取引先へ相談した
無料ツールを使った
外部へ見積もりを依頼した
何もせず先送りした
現在の行動が分かると、新商品が置き換える対象が見えてきます。
何もしていない場合も、すぐ「需要がない」とは決めません。問題が軽いのか、解決策を知らないのか、予算や権限がないのかを分けます。
質問3|解決のために、どの費用・時間・社内工数を使いましたか
顧客価値を考えるために、現在の負担を確認します。
正確な金額を答えにくい場合は、無理に聞き出しません。回答可能な範囲や金額帯で確認します。
外部へ支払った費用
担当者が使った時間
管理者や経営者の確認時間
再作業や差し戻し
解決が遅れたことで発生した影響
今の方法を維持するための費用
顧客が現在使っている費用は、新商品の価格上限をそのまま示すものではありません。しかし、「すでにお金や時間を使っている問題か」を判断する重要な証拠になります。
質問4|購入や外注を決めたのは誰ですか
BtoBでは、利用者の評価だけでは購入できないことがあります。
問題を感じている人
商品を利用する人
予算を持つ人
比較・選定する人
契約や情報管理を承認する人
を分けて確認します。
過去に外注した経験がある場合は、誰へ相談し、どの資料を提出し、どの順番で承認されたかを聞きます。
「担当者が欲しいと言った」を支払意思とせず、実際の決裁経路を価格仮説に含めます。
質問5|どの選択肢と比較し、何を理由に選びましたか
過去に検討した商品や方法について聞きます。
最も安い案を選ばなかった理由
高くても選んだ条件
比較したが見送った案
現在の方法を変えない理由
選定時に重視した項目
契約直前で止まった条件
価格が見送り理由に見えても、実際には導入工数、社内説明、契約期間、情報管理への不安が原因の場合があります。
「高い」の一言で終わらせず、何と比べて、どの条件に対して高いと感じたのかを確認します。
質問6|この範囲と提示価格なら、次に社内で何が起きますか
ここでは、提供範囲、納期、価格、支払条件、対象外を具体的に提示します。
そのうえで、感想ではなく次の行動を聞きます。
誰へ説明するか
見積書が必要か
稟議に必要な情報は何か
予算化できる時期はいつか
法務、情報管理、購買部門の確認が必要か
どの条件で検討が止まるか
「良いと思いますか」ではなく、「この後、実際に何をするか」を聞くのがポイントです。
価格だけを変えた複数案を同時に見せると、最も安い選択肢が基準になることがあります。検証では、対象者、商品範囲、価格、契約条件を記録し、何を変えた結果なのか分かるようにします。
質問7|この条件で、小さな有償テストへ進みますか
最後は、可能な範囲で有償行動を確認します。
たとえば、次のような行動です。
正式な見積もりを依頼する
社内稟議へ進める
有償の小規模テストを申し込む
予約金や申込金を支払う
限定範囲で初回発注する
提供できない商品を売ったり、検証目的を隠して支払いを求めたりしてはいけません。提供範囲、料金、キャンセル条件を明示し、実際に履行できる条件で確認します。
進まなかった場合も失敗ではありません。
価格が合わない
解決したい問題が弱い
対象者が違う
提供範囲が足りない
決裁時期が合わない
契約や安全条件を満たせない
のどれかを分けられれば、次の修正につながります。
発言より、有償行動を重く見る
価格検証の証拠は、同じ強さではありません。
比較的弱い証拠:
「あれば便利」
「その価格なら安い」
「発売したら検討する」
無料なら使いたい
一段強い証拠:
見積書を依頼した
決裁者を紹介した
稟議に必要な条件を具体的に伝えた
導入時期と予算枠を確認した
さらに強い証拠:
有償テストを申し込んだ
契約手続きへ進んだ
予約金や代金を支払った
ただし、一件の購入だけで市場全体の価格が確定するわけではありません。特殊な関係、特別な条件、例外的な緊急性による購入かもしれないため、対象条件と購入理由を残します。
価格仮説を検証する順番
価格は、次の順で小さく検証します。
原価と必要利益から、継続できる下限を計算する
顧客が現在使っている費用・時間・代替手段を確認する
競合と現状維持を、同じ提供条件で比較する
対象顧客と決裁者へ具体的な価格仮説を提示する
見積依頼、稟議、有償テスト、購入行動を記録する
見送り理由と対象者ごとの差を比較する
GO・HOLD・STOPと、次に試す価格・提供範囲を決める
検証中に、価格、商品内容、対象顧客、契約期間を同時に変えると、何が結果を変えたのか分からなくなります。一回の検証で変える主要条件を絞ります。
価格を下げなければ売れない場合も、すぐ値下げを確定しません。提供範囲を狭くする、導入手順を簡単にする、対象顧客を変える、原価を下げるなど、価格以外の修正も比較します。
公開情報で確認できる価格設定の考え方
J-Net21は、価格設定について、原価から見た下限と顧客が受け入れる範囲を考え、原価・需要・競合状況を総合して決める考え方を説明しています。
中小企業庁の白書でも、価格設定を考える視点として、コスト、競合価格、顧客に受け入れられる価格が整理されています。
これらは、個別事業の正解価格を示すものではありません。自社の原価、顧客、提供条件、競合・代替手段を確認し、実際の有償行動で検証する必要があります。
まとめ
新規事業の価格設定は、「いくらなら買いますか」という質問だけでは完了しません。
コストから継続できる下限を確認する
顧客価値から支払う理由を確認する
競合と代替手段から比較条件を確認する
具体的な提示価格に対する決裁行動を確認する
最後は有償テストや購入で確かめる
この順番で、発言と行動を分けて記録します。
対象者条件、30分の質問票、発言と解釈の記録、5件比較、継続・修正・中止の判断まで一式で進めたい方は、次の実務キットを利用できます。
顧客インタビュー質問票テンプレート|30分で買う理由・見送る理由を聞く8点セット
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