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#010 なぜ、人によって「重要なこと」が違って見えるのか

同じことを伝えたつもりなのに、相手には違う意味で伝わっていることがあります。

今回は、人と人の間で起きる「伝わり方のズレ」について考えます。


発売まで、あと一か月。

半年以上かけて準備してきた新商品のプロジェクトも、ようやく最後の山場を迎えていた。

今日の会議で発売日を決める。

そう思って会議室に入ると、いつもより少しだけ空気が張り詰めているように感じた。

テーブルには試作品が並び、壁には工程表が映し出されている。

ここまで来れば、あとは最終判断だけ。

誰もが、そう思っていた。


最初に口を開いたのは営業担当だった。

「競合も動き始めています。今月中に出さないと、このチャンスは逃します。」

すると、品質担当が静かに首を振る。

「この状態で出すのは反対です。不具合が出れば、取り返すのに何年もかかります。」

製造担当も資料をめくりながら続けた。

「量産ラインの切り替えが間に合いません。この日程では現場が回りません。」

最後に経理担当が数字を見つめながら言う。

「この原価では利益がほとんど残りません。」


誰も声を荒げているわけではない。
責任逃れをしているわけでもない。

むしろ全員が、このプロジェクトを成功させたいと思っている。

だからこそ、自分が一番大切だと思うことを口にしている。

それなのに、議論は少しずつ同じ場所を回り始めた。


時計を見る。

会議が始まって三十分。

結論はまだ出ていない。

営業は納期を語る。
品質は品質を語る。
製造は供給を語る。
経理は利益を語る。

そのどれもが正しい。

だから否定できない。

しかし、正しいことだけを積み重ねても、前へ進めない会議がある。

そんな場面を経験したことはないだろうか。


「営業は売ることしか考えていない。」

「品質は慎重すぎる。」

そんな言葉で片づけることもできる。

でも、本当にそうなのだろうか。

営業にも理由がある。
品質にも理由がある。
製造にも理由がある。
経理にも理由がある。

誰か一人が間違っているわけではない。

それでも、決められない。

その違和感だけが、少しずつ大きくなっていく。


ホワイトボードに、ここまで議論に出てきた言葉を書き出してみる。

* 品質
* 納期
* 利益
* 市場投入

こうして並べてみると、不思議なことに気づく。

どの言葉にも、誰かが「重要だ」と言っていた。

品質は重要。
納期は重要。
利益は重要。
市場投入のタイミングも重要。

でも、四つとも同時に一番重要であることはできない。


もう一度、会議でのやり取りを思い返してみる。

営業担当は、本当に品質を軽視していたのだろうか。

いや、そんなことはない。

品質担当は、納期を無視していたのだろうか。

それも違う。

経理担当だって、市場投入が遅れてもいいと思っているわけではない。

誰一人として、他の要素が不要だとは言っていない。

それなのに、それぞれが違うものを「最も重要だ」と言う。


違う「重要」を見ているのだろうか。

しばらくホワイトボードを眺めていると、一つのことに気づく。

営業担当は、「今、市場に出すこと」を前提に話していた。
品質担当は、「長く信頼される商品にすること」を前提に話していた。
製造担当は、「安定して供給できること」を前提にしていた。
経理担当は、「事業として利益を残すこと」を前提にしていた。

そこで初めて、議論が噛み合わなかった理由が見えてくる。

彼らは、違う「重要」を見ていたわけではない。

違う目的を前提にしていた。

だから、同じ「重要」という言葉を使っていても、選ぶものが違っていたのだ。

Key Insight
私たちは、「何が重要か」を議論しているようで、
実は、その前提にある「何を実現したいのか」が揃っていないことがある。
そのとき、議論はどれだけ続けても平行線になってしまう。

議論が噛み合わない理由



その日、会議は少しだけ進み方を変えた。

「品質と納期、どちらが重要か。」

そんな問いは、もう出てこなかった。

代わりに、一つの問いが置かれた。

「このプロジェクトで、本当に実現したいことは何だろう。」

すると、不思議なことが起きた。

営業は納期だけを主張しなくなった。
品質担当も、品質だけを語らなくなった。

それぞれが、「何を実現したいのか」を前提に話し始めたからだ。

もちろん、意見の違いは残る。

でも、その違いは「何が重要か」の違いではなく、「何を目指すか」の違いになった。

議論は、ようやく前へ進み始めた。


考えてみれば、私たちは「重要」という言葉を当たり前のように使っている。

「品質が重要です。」
「利益が重要です。」
「スピードが重要です。」

でも、その言葉だけを聞いていては、本当の意味は分からない。

重要さは、物事そのものに備わっている性質ではない。

何を実現したいのか。

その目的との関係の中で決まるものだからだ。


このことは、仕事だけの話ではない。

例えば、子どもがテストで90点を取って帰ってきたとする。

「あと10点だったね。」
そう声をかけることもできる。

「よく頑張ったね。」
そう声をかけることもできる。

どちらが正しいか、ではない。

もし目的が「もっと高い点数を取れるようになること」なら、前者が適しているかもしれない。

もし目的が「学ぶことを好きになってもらうこと」なら、後者の方が大切かもしれない。

同じ90点。
同じ親。
同じ子ども。

それでも、目的が変われば、重要な言葉は変わる。


私たちは、意見が違うと、

「考え方が違う。」
「価値観が違う。」

そう思いがちだ。

もちろん、そういう場面もある。

でも実際には、その前に確かめるべきことがある。

「何を実現したいのだろう。」

この問いを飛ばしたままでは、「重要」という言葉は、人によってまったく違う意味を持ってしまう。

逆に、目的が共有されると、不思議なくらい議論は整理されていく。

Key Insight
「重要」は、物事そのものが持つ性質ではない。
何を実現したいのか。その目的との関係によって決まる。


これから誰かが、

「これが重要です。」

そう言ったときは、一度だけ立ち止まってみてほしい。

「何のために?」

その問いが一つ加わるだけで、見えてくる景色は大きく変わる。

議論が噛み合わない理由も。
優先順位に迷う理由も。

その多くは、「重要」が違うからではない。

目的が違うからなのかもしれない。

重要度とは、目的との距離で決まる。


Layer Zero Lens
重要度は、目的との距離で決まる。

私たちは、「何が重要か」を探そうとする。

でも、その前に考えるべき問いがある。

「何を実現したいのか。」

見えている「重要」は、人それぞれ違うかもしれない。
でも、その奥にある目的が見えたとき、議論は「対立」から「対話」へ変わり始める。


次に読むなら

「何が重要か」が人によって違って見える。その違いをもう一段深くたどると、そもそも私たちは同じ世界を同じようには見ていないことに気づきます。

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