#041 違う意見のまま、決められますか?
意見が違うから、決められない。そう思ってしまうことがあります。
でも、複数の人で決めるとき、本当に必要なのは同じ意見になることでしょうか。
勝つ、譲る、任せる。それぞれの決め方の先には、それぞれ違う結論があります。
今回は、異なる意思を残したまま「私たちの決定」をつくる、そのプロセスを考えます。
旅行先で、翌日の予定を話していた。
せっかくここまで来たのだから観光したい、という人がいる。一方で、最近ずっと忙しかったから、明日くらいはホテルでゆっくりしたいという人もいる。もう一人は、遠くまで出かけなくても、近くを散歩するくらいで十分だと思っている。
「じゃあ、明日はどうする?」
決めるだけなら、それほど難しくない。
多数決を取ることもできるし、一番強く希望している人に合わせることもできる。それぞれが少しずつ譲って、午前中だけ観光するような折衷案をつくることもできる。
どの方法でも、明日の予定は決まる。
でも、もう少しだけ話を続けてみる。
「どうして、そんなに観光したいの?」
聞いてみると、その人は観光地そのものに強い興味があるわけではなかった。3人で旅行する機会なんて、この先それほど多くないかもしれない。だから、せっかくなら何か一つくらい、3人で見た景色を残したかった。
ホテルで過ごしたい人にも、別の理由があった。ここ最近ずっと忙しく、今回の旅行くらいは予定に追われずに過ごしたかった。ホテルにいることそのものより、休みに来てまで疲れたくないという思いの方が大きかった。
そこまで聞くと、最初に見えていた対立が少し違って見えてくる。
「観光したい」と「ホテルにいたい」という二つの希望は、そのままなら両立しにくい。けれど、その奥にあるのは、3人の思い出を残したいという思いと、せっかくの休みをゆっくり過ごしたいという思いだった。
だったら、昼間はそれぞれ好きに過ごして、夕方になったら3人で近くの景色を見に行くのでもいいかもしれない。
「それなら、いいね」
最初には誰も持っていなかった予定に、3人は決めた。

「決まった」だけなら、もっと早かった
この旅行の予定は、多数決でも決められた。
一人が強く主張して、ほかの二人が合わせることもできただろう。全員の希望を少しずつ残しながら、無難なところに着地する方法もあった。
仕事でも、似たようなことは起きている。
会議で意見が割れれば、それぞれが理由を説明し、データを示し、ときには相手の主張の弱いところを突く。議論を重ねた結果、どちらかの案の方が合理的だと判断されれば、その案に決めることができる。
一方で、誰かを勝たせたり負けさせたりしないように、それぞれの意見を少しずつ残しながら着地点を探すこともある。強い反対がなくなるまで調整を重ね、全員が「これなら仕方ない」と言えるところで決める。
どちらも、一つの決め方だ。
ただ、議論に勝った案が、そのまま「私たちの結論」になるとは限らない。反対していた人には、「決まったことだからやるけれど、自分は違うと思っている」という感覚が残ることがある。
反対に、全員が少しずつ譲ったからといって、その真ん中に最も良い答えがあるとも限らない。
勝ったか、負けたか。どこまで譲ったか。
そこだけを見ていても、複数の人が一つの結論をつくるときに起きていることを、まだ十分には捉えられていないのかもしれない。
希望をそのまま扱うと、勝ち負けになる
旅行の話に戻ってみる。
「観光したい」と「ホテルにいたい」を、そのまま二つの選択肢として扱えば、どちらかを選ばなければならない。
観光に決まれば、観光したかった人の希望が通り、ホテルにいたかった人の希望は通らない。決定と同時に、勝ち負けが生まれる。
ところが、「なぜ観光したいのか」まで聞いてみると、話が変わった。
その人が本当に残したかったのは、観光という行動ではなく、3人で過ごした記憶だった。ホテルにいたい人が守りたかったものも、ホテルという場所ではなく、予定に追われず休める時間だった。
人が口にする希望と、その人が本当に大切にしているものは、必ずしも同じではない。
希望は、すでに一つの形になっている。
「観光したい」まで形になれば、「観光しない」とぶつかる。「この案でいきたい」と形になれば、別の案と競争することになる。
でも、その形をいったんほどいて、「なぜそれを望んでいるのか」まで戻ってみると、組み合わせられる余地が生まれる。
思い出を残すことと、ゆっくり休むことは、必ずしも対立しない。
対立していたのは、大切にしているものではなく、それを実現するために最初につくった「答え」の方だったのかもしれない。
理由を聞くのは、説得するためではない
意見が割れたとき、私たちはよく理由を聞く。
「なぜ、そう思うんですか?」
一見すると対話的だけれど、その理由を何に使うかで、話は大きく変わる。
自分はA案で進めたい。相手はB案を主張している。
B案の理由を聞いて、
「なるほど、そこを心配しているんですね。でも、それならこうすれば解決できます。だからA案で大丈夫です」
と返すこともできる。
相手を理解しているようで、ここでは相手の理由を、自分の答えへ説得するために使っている。
もちろん、それが必要な場面もある。
ただ、もう一つの聞き方がある。
B案の理由を聞いたことで、A案そのものが変わる可能性を残しておく。
相手が見ていたものを、自分の答えを補強する材料ではなく、これからつくる答えの材料として受け取る。
前者では、答えは対話の前から存在している。
後者では、答えは対話のあとに変わっていてもいい。
意見を「集める」のではなく、「ほどく」
「みんなの意見を聞こう」
複数の人で何かを決めるとき、よく使われる言葉だ。
でも、Aさんの意見、Bさんの意見、Cさんの意見を順番に聞いて並べるだけなら、意見は増えても、結論には近づかないことがある。
必要なのは、それぞれの意見を完成された答えとして受け取るのではなく、その答えを一度ほどいてみることなのかもしれない。
Aさんは、何を守ろうとしているのか。
Bさんは、何を失いたくないのか。
Cさんは、何を実現したいのか。
そこまで見えてくれば、A、B、Cの中から勝者を選ぶ以外の可能性が生まれる。
誰も最初には持っていなかったDをつくれるかもしれない。あるいはAを選びながら、Bが守ろうとしていたものを別の方法で残せるかもしれない。
答えを比べる前に、答えをほどく。
そこから初めて、異なる人たちが持っていたものを、一つの決定へ編み直すことができる。
全員が同じ意見になる必要はない
もちろん、すべてを両立できるわけではない。
最後には何かを選び、何かを選ばない場面がある。時間がなければ、十分に話せないまま決めなければならないこともある。
だから、全員の希望を叶えることが、よい意思決定なのでもない。
それでも、人は自分の第一希望ではない結論を引き受けることがある。
自分が何を大切にしていたのかが理解され、それがどのように検討され、最終的な結論の中でどう扱われたのかが分かっている。
さらに、なぜ今回はこの選択をするのかまで共有されている。
それなら、
「自分なら別の案を選んだかもしれない。でも、なぜ私たちがこれを選んだのかは分かる」
という状態をつくることができる。
意見は違ったままでも、同じ決定を引き受けることはできる。
リーダーが決める、ということ
役割が違えば、見えているものも違う。
顧客に近い人が持っているものと、現場に近い人が持っているものは違う。短期の数字を見ている人と、数年先を見ている人でも、守ろうとしているものは違う。
だからこそ、リーダー自身が最初から一番良い答えを持っているとは限らない。
もちろん、最後にはリーダーが決めなければならない場面もある。
そのとき問われるのは、決める権限があるかどうかだけではなく、そこにあった異なる意思を、決定の材料にできたかどうかなのかもしれない。
誰かの意見を採用するだけでもない。全員の意見を均等に混ぜることでもない。
それぞれの答えを一度ほどき、その奥にあるものを受け取り、いま置かれている状況の中でもう一度組み直す。
そこで生まれた結論なら、最初に誰かが持っていた答えとは違っていてもいい。
むしろ、誰も最初には持っていなかった答えを、みんなの決定にできる。
そこに、複数の人を一つの方向へ連れていく腕前がある。
違ったまま、一緒に決める
複数の人で何かを決めるとき、意見が割れると不安になる。
もっと話し合えば、同じ意見になるのではないか。全員が賛成できる答えを探した方がいいのではないか。
でも、役割も経験も価値観も違う人たちが集まっているなら、違う答えを持つのは自然なことだ。
その違いをなくしてから決めようとすれば、いつまでも決まらないことがある。
反対に、権限や多数決で違いを押し込めれば、早く決めることはできても、「誰かが決めたこと」が残る。
その間に、もう一つの道がある。
相手の答えを、そのまま受け入れる必要はない。
でも、その答えがどこから来たのかは受け取れる。
自分の答えも、一度ほどいてみる。
それぞれが守ろうとしていたものを持ち寄り、何を残し、何を諦めるのかを一緒に考える。
その先に出てきた結論は、誰か一人の第一希望ではないかもしれない。
それでも、
「私はこう思う」と「私たちはこうする」は、両立できる。
違う意見を持ったまま、一つの方向へ進む。
複数の人で決めるというのは、みんなを同じ答えにすることではない。
違いを消さずに、「私たちの決定」をつくることなのだと思う。

次に読むなら
違うままでも、進む方向は決められる。
でも、決めたあとに誰かへ仕事を任せたら、関係はそこで終わるのでしょうか。
次は、「任せた後、どこで見ているか」を考えます。
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