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たった一通の応募メールを東京へ送った|地方病院の看護師が美容クリニック転職へ動いた日

嫉妬で狂いそうだった。
できることなら彼女に小一時間、どうやって転職したのか問い詰めたかった。
それくらい、病棟を出た彼女が眩しかった。

羨ましすぎて「私の人生も変わってほしい」と思った

彼女とは同じ病院で働いていた。病棟は別だったが、それぞれ地方病院の片隅で、肩身を狭くしながら働いていた仲間だった。
私が仕事の愚痴をこぼしたときも、彼女は否定せずに聞いてくれた。人に見えないところでも努力していたし、目の前の仕事に真面目に向き合う子だった。
そんな彼女が病院を辞め、新しい職場で生き生きと働いている。本当によかったと思った。彼女が頑張っていたことを知っていたから、報われたことがうれしかった。

それなのに、心の中では「なぜ、あの子だけ」という気持ちが、どんどん膨らんでいった。

彼女は何も悪くない。努力して、自分で新しい場所をつかんだだけだ。

分かっている。それでも、彼女だけが先に病院の外へ出て、私はまだ同じ場所で苦しんでいるように思えた。

彼女の転職がうれしい。でも、羨ましくて仕方がない。いや、正直に言えば、嫉妬のほうが大きかった。

私の人生も変わってほしい。心の底からそう思った。

「あの子が行けたなら、私も行けるんじゃない?」

性格のよろしくない私は「あの子でも行けるなら、私も良いところへ転職できるんじゃない?」と思った。
なんともまあ、性格の悪い女である。でも私は、見てしまったのだ。
病院で働いていた頃は、あんなにやつれて疲れていた彼女が、美容クリニックでキラキラと働いている姿を。その姿を見てから「私には無理」と言いながら同じ場所に居続けるほうが苦しくなった。

彼女は、転職する前から華やかな経歴を持っていたわけではない。私と同じように、地方の病院で働いていた看護師だった。
違ったのは彼女は自分で調べ、準備して、今いる場所から動いたことだ。
その間、私は「ここを辞めたい」「先輩が嫌い」と言いながら同じ場所でくすぶっていた。何もしていないのに、愚痴だけは一人前だった。
それから私は、地元にある美容クリニックの求人を、ネットで片っ端から調べ始めた。

地元には、正社員の求人がなかった

ところが私が探した当時、地元の求人はほとんどなかった。ようやく見つけても、正社員の募集ではない。美容クリニックへ行きたいと思ったところで、そもそも選べるほどの求人がなかったのだ。

そんなとき、画面に現れたのが、東京の超大手美容クリニックだった。目を奪われた理由は、わかりやすい。大手で有名。給料もよく、福利厚生もしっかりしていそう。
なにより東京の有名な勤務先から内定をもらえれば、地方にいる親も少しは安心し、上京を強く反対しないのではないかと思った。

高尚な理由なんてない。浅くて見栄っ張り、でも本気だった。

地元で看護師として働き、親元も近い。すると周囲からは、よく言われた。「親御さんも安心ね」悪気のない言葉だと分かっている。それでも、聞くたびに心の底がざわついた。

私は、いつ来るか分からない介護のために、看護師になったわけじゃない

本当は、東京へ行きたい。こんな狭い病棟の片隅で一生を終えたくない。
ずっと心の底に押し込めていた願望が、東京の美容クリニックを見つけたことで、とうとう出てきてしまった。

一度出てきたものを、もう見なかったことにはできなかった。
公式サイトや採用ページを読みあさり、履歴書と職務経歴書を作った。あとは応募メールに添付して送るだけだった。

人生より、明日のペアが誰かのほうが大事だった

応募メールを一通送るだけなのに、指が少し重かった。メールを一通送ったところで、その瞬間に人生が変わるわけではない。

送信した翌日も、私は地方の病棟で働く看護師だった。窓の外の景色も、昨日までと何も変わらなかった。

病棟で働いていると、人生についてゆっくり考える余裕なんてない。

「私の人生、このままでいいのかな」というモヤモヤはあっても、それより明日のペアが誰なのかのほうが切実だった。
数年後の人生より、次の勤務をどう乗り切るか。将来の働き方より、今日の仕事を終わらせて、早く家へ帰ること。
人生を変える方法を考える前に、勤務表を見てため息をつく毎日だった。

それでも応募メールを前にすると、キラキラと働く彼女の姿が脳裏に浮かんだ。

何年、何十年後の私は、今日何もしなかったことを後悔しないか。
答えはたぶんする。

応募して落ちるのも嫌だった。でも応募すらしないまま何年も経って「あのとき送っていれば」と言うほうが、もっと嫌だった。

だから送った。立派な覚悟なんてない。ただ「私だって、ここから出たい」という気持ちが、不安を少しだけ上回った。

その後私は書類選考を通過した。面接を受け、超大手美容クリニックから内定をもらった。配属されたのは、都内の一等地だった。

東京に出ても、キラキラ女子にはなれなかった。キラキラしていたのは、勤務先の住所くらいだ。
それでも地方の病棟以外にも、自分が行ける場所はあると知った。

今、私は当時の応募メールと書類選考を通過した履歴書、職務経歴書を、もう一度開いている。
あの頃の私と同じように
「地方から応募してもいいのかな」
「美容未経験の私には、書けることがない」「東京にコネもツテもない」
と思っている人へ、渡せる形にするためだ。

実際、今の私は東京にいるが美容クリニックでは働いていない。東京も美容クリニックも、行ってみれば「こんなもんね。ふんふん」だった。憧れは、遠くから眺めているときがいちばんよく発光する。

病棟で何度も浮かんだ「私の人生、このままでいいのかな」は、今はもうない。

私はキラキラしなかった。でもあのモヤモヤは消えた。どうやら、私が欲しかったのはそちらだったらしい。


今回はエッセイしりとりでバトンが回ってきました🦭🍵

諏訪さん、バトンありがとうございます✨こういう企画、初めて参加させていただいたのですが皆で繋がっている感じでとても楽しかったです!!

タイトルの最後の文字をしりとりして、バトンを回す。
私のタイトルの最後は「日」なので、次の方は「日」から始まるタイトルで記事をお願いします。すでに回っていたらすみません…。

1人目はわさびの縁側日記|義母生態研究家|21年の観察記録さん
まるで我が家のことを書いているようで読み込んでしまいました。またサムネの猫ちゃんも可愛くていつも癒されています。

2人目は天界記録さん。社会問題に切り込んでいて視点が面白いなと感じました。あと画像が美麗でわくわくします。

お二方、もし宜しければよろしくお願いします。

#エッセイしりとり

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