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60代のリアル|第2幕、第62話【実録・職場の波乱】怒涛の火曜日、1秒を争うエレベーター、迫るタイムリミット


前回までのあらすじ

転院後、「置いていかれた」と感じている母との面会。冷たい雨が降る日曜日、恐る恐る病室を訪ねた私を待っていたのは、「何で来たの?」という刺さるような母の一言でした。

しかし去り際、母は私の手をギュッと強く握りしめ、「明日も来るの?」と本音を覗かせます。

自分の心を守るために「週1回」の面会ペースを崩せない葛藤と罪悪感を抱えながらも、私は「また来週〜♪」と努めて明るく声をかけ、病室を後にしました。

勢いを増す雨の中、母の声なき叫びを感じながら坂道を降りた私でした。

切ない余韻を胸に抱えたまま、現実の怒涛の日常へと戻っていくことになります――。


▼ 前回はこちらです。



アナログとデジタルの挟み撃ち

9月8日(火)

職場に足を踏み入れた瞬間から、私は頭をしっかりと仕事モードへと切り替えます。

目の前の業務だけに全集中しなければならない理由がありました。容赦のない忙しさが押し寄せていたからです。

私の職場では、毎月発送する通常の請求書はシステムから自動生成されます。

しかし、発送先を「総務課」や「経理課」宛てに変えたり、登録とは別の住所へ送る必要がある場合、基幹システムにそのデータが入らない仕様になっています。

システムを改修すれば済む話なのですが、会社に要望を出しても「費用がかかる」とあっさり却下されてしまいました。

入社当初は手作業で毎回打ち込んでいたのですが、流石に効率が悪いため、私は自分で「送付先住所一覧」のExcelを作成し、請求書データの住所をパッと差し替えるVBAを組みました。

おかげで差し替え自体は数分で完了するようになったものの、300枚を超える印刷には変わらず時間がかかります。

さらに大変なのが、10月に発送する分の請求書です。

これには3ヶ月分や6ヶ月分の請求が含まれ、金額すら自動生成されません。

たまにしか発送しない宛先だからこそ「宛所不明」で戻ってくるのを防ぐため、住所変更の有無を1件ずつ確認し、未納や預り金のチェックをして金額を手入力していく……まさに「完全手作り」の膨大な作業が待っています。



元主任が魅せた「ハンコ押し」の神業

しかし、この日に最優先しなければならない、さらに切迫した業務がありました。 督促状の発送です。

実は、翌日の9月9日(水)に休暇を申請していたため、10月発送の手作り請求書は後日に回せるとしても、督促状だけは今日中に発送し切らなければなりません。

その数、約100枚。

ここで立沫ちはだかるのが「公印押し」という地味に大変な作業です。

以前、時間がかかる公印押しを効率化しようと「電子公印の導入」を提案したことがありました。

ですが、あえなく却下。その際、元主任(冗談好きの男性)が私に見せてくれた“職人技”が頭をよぎります。

右利きの主任は、左手の人差し指と中指に指サックをはめ、リズミカルに紙の右上をパッ、パッとめくっていきます。そして右手でハンコを持ち、朱肉と紙の間を高速で往復させるのです。

あっという間に30枚を押し終えた主任は、「こうやって押せば、電子公印なんて要らないでしょ?」と笑っていました。

嫌味ではなく、完全に冗談めかした口調です。

アナログ作業がめっぽう遅い私には真似できない神業でした。結局電子公印はおあずけとなり、地道に押していくしかありません。



15時50分のタイムリミット

「今日は迷っている時間はない」

そう腹をくくり、午前中のうちに通常の業務をなんとか終わらせ、午後はすべての集中力を督促状の発送作業に注ぎ込みました。

1枚ずつ慎重に、かつ急いで公印を押し、夕方15時には紙折り機へ向かいました。そのまま素早く封入作業を済ませ、郵便料金計器で印字を施していきます。

時計の針と睨めっこしながら作業を進め、15時45分。

手元にまとめた督促状を抱え、エレベーターホールの前へと急ぎました。

当社の入っている雑居ビルのエレベーターは老朽化が進んでおり、9月にようやく全ての改修工事が終了したばかりでした。それでも、呼んでから到着するまでにじれったいほど時間がかかるのです。

「頼むから、早く来て……!」

と心の中で祈りながら待っていると、下から上がってきた気配があったものの、無情にも上の階へと通り過ぎていきました。

焦りが募る中、ようやく降りてきたエレベーターでした。

扉が開くと幸いにも乗客は1名だけで、行先ボタンを見ると地下1階が押されていました。1階で降りる私にとっては好都合です。「このまま誰も乗ってこなければ間に合う!」と祈るような心地で乗り込みました。

無事に1階に到着すると、そのままビルに埋め込まれているポストへと向かいました。地下駐車場へ向かうスロープの脇にあるため、普通の人はそこにポストがあるとは気づかないような隠れた場所です。


督促状の束をポストの口へ押し込もうとした瞬間、「あ、まだ回収されていない」と確信しました。

ポストの投入口のすぐ手前まで、すでに郵便物でいっぱいになっていたからです。

ぎゅうぎゅうの投函口になんとか滑り込ませ、すべての督促状を入れ終えると、思わず「はぁ……」と大きなため息と一緒に身体中の緊張が解けていきました。

15時50分というタイムリミットの中、まさに間一髪で間に合った安堵感と達成感。 (よかった、これで明日は安心して休める……)

薄暗いビルの1階で、私はようやく肩の力を抜くことができたのでした。



🌿次回予告

平日の貴重な休みを使い、母のマイナンバーカード更新と区役所での各種手続きへ向かいます。

介護に伴う公的な書類整理と、窓口で奔走したリアルな一日の記録です。

果たして無事に作業を終えられるのでしょうか?

次回、「役所の窓口で向き合ったリアルな手続きの記録」。

次回もどうぞお楽しみに!


▼ 次回はこちらです。



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