60代のリアル|第2幕、第60話【実録・介護の崖っぷち】土砂降りの日曜日、病院へ向かう足取りが重い理由
前回までのあらすじ
迎えた9月3日(木)、懸念していた「PDF変換不能」のトラブルがとうとう現実となってしまいました。
手作業での入力が不可能なほどの膨大なデータを前に、私は旧環境で使っていたサポート切れのツールを急遽起動し、冷や汗をかきながらもなんとかその日の集計を切り抜けることができたのです。
しかし、セキュリティ上の不安を抱えたまま、このやり方を続けるわけにはいきません。
私は多忙を極める翌日からの業務の合間を縫い、自力で検証を重ねて「メモ帳を経由して空白区切りでExcelへ取り込む」という迂回ルートを編み出しました。
レイアウトのズレに合わせて、内緒でVBAコードの微調整も行い、無事に自動集計ができる環境を整えました。
しかし、「VBA修正禁止」という社内ルールと「現場の業務を止めない」という運用の狭間で、これを課長へどう報告すべきか、新たな悩みを抱えることになったのです。
▼ 前回はこちらです。
あいにくの土砂降りと、重い足取り
9月6日(日)
怒涛の集計トラブルと裏での検証を終えて迎えた週末でしたが、外はあいにくの土砂降りでした。
母の面会時間に合わせて、前回と同じ13時20分に家を出ます。傘を叩く強い雨音を聞きながら、心の中で思わずため息が漏れました。
「こんな日に出かけるのは、嫌だなぁ……」
直前の平日まで職場で神経をすり減らしていたこともあり、身体も心もどこか重たく感じられます。それでも、病院のベッドで過ごす母の顔が頭に浮かびました。
もしかすると、私の到着を待っているかもしれない──そんな母の顔が浮かびます。(多分、待ってはいないだろうけれど……と思いつつ)。
自分に言い聞かせるようにして、私は雨の中へと一歩を踏み出しました。
雨の坂道と、静かな公園の風景
病院の最寄り駅を降りると、そこからは坂道の多い道のりが待っています。まずは、なだらかな下り坂です。
水はけの良くない狭い道路を、車が水しぶきを上げながら次々と走り抜けていきます。跳ね上がった雨水が服や靴にかからないよう、足元に気を配りながら慎重に歩を進めました。
途中に、大きな池のある公園があります。
晴れた日ならスイスイとボートが浮かんでいる場所ですが、さすがにこの悪天候とあってボート場は休業のようでした。静まり返った池のほとりに人影はなく、静けさが広がっています。
……と思いきや、よく見ると雨の中でじっと竿を垂らしている釣人が何人か目に入りました。
「こんな雨の日によくやるなぁ」と感心半分、驚き半分で眺めながら、公園を後にします。
公園を過ぎると、今度は息が切れる上り坂です。
雨で濡れた傘が重く、足取りも重いせいでしょうか?
前回来たときよりも、なんだか息が上がるのが早く感じられました。坂を登り切る頃には、すっかり体力を削られていました。
面会受付を済ませ、母の待つ病室へ
ようやく病院のエントランスにたどり着き、濡れた傘を閉じます。
入口で体温を測定し、そのままエレベーターに乗り込んで母の待つ病室がある階へと向かいました。
エレベーターを降り、該当階の受付で面会受付用紙に日付や名前を記入します。ここに来るのもまだ2回目とあって、手続きを進める手元にはどこかぎこちなさと緊張感が残っていました。
受付のペンを置き、いよいよ病室へ向かいます。
前回の面会時、母は何も言わず、ただ無言でじっと私のことを見つめていました。きっと「おうちに帰りたい」という願いが叶わず、怒っているのかもしれない――。
そう思うと、「今日は母に何て声を掛ければいいのだろう」と不安ばかりが募ります。雨のせいでただでさえ重かった足取りが、ここへ来て余計にずっしりと重く感じられました。
私は静かに息を整え、その重い足を引きずるようにして、母の待つ病室へと向かいました。
🌿次回予告
雨で重くなった足を引きずるようにして、たどり着いた病室。 開けっ放しになったドアの向こうでは、同室の方々がお昼を食べ終えて静かに眠りについていました。
しかし、母だけは違いました。
目をしっかりと開けて、まるで私が来るのを待っていたかのように、じっとこちらを見つめていたのです。
笑うでもなく、泣くでもなく、どこか怒っているようなその表情でした。 (そんな顔で私を見ないで……)
次回、「静かな病室と、怒りを秘めた母の視線」。
次回もどうぞお楽しみに!
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