しなの鉄道で「Suica」を使う際に気を付けたいこと(寄り道多め)

先日、名古屋~長野間を結ぶ特急「しなの(SHINANO)」が全車指定席で運転されるということで、自動放送と車内案内表示器がどうなっているかを確かめに行きました。
実はこのチェックは“ついで”で、本当にチェックしたかったのは、しなの鉄道における交通系ICカードの対応状況です。実は同社では3月14日から、東日本旅客鉄道が提供する交通系ICカード「Suica」と、Suicaと相互利用可能な交通系ICカードを乗車券として使えるようになりました。その様子を見に行きたかったんですよw
ということで、今回のnoteは、しなの鉄道でSuicaを含む交通系ICカードを使う際の注意点をまとめていきます。
【更新 : 6月14日10時25分】写真と文章を追加しました。
そもそも「しなの鉄道」とは?

しなの鉄道は、北陸新幹線の高崎~長野間開業に伴いJR東日本が廃止する信越線の軽井沢~篠ノ井間を承継するために発足した鉄道会社です。主要な株主は長野県と沿線自治体、そして地元企業という、典型的な「第3セクター鉄道」でもあります。
同社は、いわゆる「整備新幹線」の開業に伴い廃止される「並行在来線」を承継する“初めての”鉄道会社でもあります。本線たる「しなの鉄道線」が生まれる際の大ざっぱな沿革は以下の通りです。
1991年 : 長野県と沿線自治体などが構成する「長野県第三セクター鉄道検討協議会」が発足
→北陸新幹線の高崎~長野間の建設に伴い廃止される信越線の長野県区間(軽井沢~篠ノ井間 : ※1)を引き継ぐための検討を行う1996年5月 : しなの鉄道が設立される
→JR東日本から鉄道事業を譲受するための準備会社(許認可の取得などを進める)1997年6月 : 軽井沢~篠ノ井間の第1種鉄道事業免許を取得
1997年10月 : JR東日本から信越線の軽井沢~篠ノ井間の鉄道事業を譲受
→路線名は「信越(本)線」ではなく「しなの鉄道線」に(※2)
→JR東日本から鉄道施設に加えて車両も譲受した
→日本貨物鉄道(JR貨物)が西上田~篠ノ井間で第2種鉄道事業を開始(※3)
(※1) 廃止対象区間のうち、群馬県区間(横川~軽井沢間)は完全に廃止され、バス輸送に変更された。これは「需要の少なさ」と「66.7‰(パーミル)の勾配に対応する車両を用意するのが大変」という2点が大きな要因。現時点では「並行在来線」で唯一の“完全廃止”区間である。

(※2) 信越線時代の営業キロは65.6kmだったが、横川~軽井沢間の廃止などを受けて、しなの鉄道線は65.1kmに改めている(約500mの短縮)。
(※3) 定期貨物列車は坂城~篠ノ井間の運転となる(西上田~坂城間は臨時貨物列車のみ運転)。

長野~妙高高原間も引き継ぐことに

北陸新幹線はその後、石川県金沢市の金沢駅までの延伸が決まりました。このことに伴い、JR東日本は信越線の長野~直江津間を廃止する方針を打ち出しました。そして廃止区間のうち、長野~妙高高原間は長野県、妙高高原~直江津間は新潟県が第3セクター企業を通して譲受する方向で話が進みました。
で、長野県が譲受する区間について、同県は新会社設立も含めて検討しましたが、「既存の会社に受け継がせればいいんじゃね?」ということで、しなの鉄道に引き受けさせることにしました。そのおおざっぱな沿革は以下の通りです。
2012年4月 : しなの鉄道が信越線の長野~妙高高原間の譲受を決定
2013年3月 : 譲受する区間の路線名を「北しなの線」に決定
→既存営業区間(しなの鉄道線)との“区別”をハッキリさせるため2014年2月 : しなの鉄道が長野~妙高高原間の第1種鉄道事業免許を取得
2015年3月 : JR東日本から信越線の長野~妙高高原間の鉄道事業を譲受
→妙高高原~直江津間は新潟県などが出資する「えちごトキめき鉄道」が譲受し、「妙高はねうまライン」という路線名に
→妙高高原駅は新潟県にあることから、えちごトキめき鉄道の管轄に
→JR貨物は長野~妙高高原~直江津間の第2種鉄道事業者に(※3)
(※3) 定期貨物列車はない。普通なら第2種鉄道事業を廃止してもいいような気もするが、太平洋側と日本海側を結ぶバックアップルートとして維持されている。最近は乗務員訓練を兼ねた臨時貨物列車がちょくちょく運転されるようになってきた。

なぜかJR線のままの篠ノ井~長野間(これから話すことにも関係)

先ほどの沿革と路線図を見て、「あれ?」と思った人もいるかと思います。というのも、信越線の篠ノ井~長野間は“信越線”のまま、つまりJR東日本が管轄し続けているのです。この区間がある影響で、しなの鉄道の2路線は物理的、そして運賃的に“やや分断”されています(運賃の話は後で)。

なぜこの区間だけ「並行在来線」として廃止(しなの鉄道に譲渡)されなかったのか――その大きな理由は名古屋~長野間で運行されているしなのの存在だとされています。
特急しなのは特別急行(特急)列車です。「何を当たり前のこと言ってるの?」と思うかもしれませんが、特急列車ということは、乗車する際は乗車券の他に「特別急行券」や「特別車両(グリーン)券」を買う必要があります。
何が言いたいのかというと、この区間をしなの鉄道に譲渡した場合、しなの鉄道は特急用に「特別急行料金」「特別車両料金」を設定しなければいけません。特急料金やグリーン料金を設定して徴収するとなると、それはそれでイニシャルコストが掛かります。しなのユーザーの目線に立つと、篠ノ井駅で運賃や料金が“打ち切り”となるため割高感が増してしまいます。

そして、しなのに使われている車両は東海旅客鉄道(JR東海)の383系電車です。JR東日本の車両ではありません。「え、それがどうかした?」と思うかもしれませんが、もしも篠ノ井~長野間もしなの鉄道に移管されていたとしたら、しなの鉄道とJR東海の間で車両の貸借に関する契約を締結しなければいけません。しなの鉄道はJR東日本との間の契約でも結構大変なところ、JR東海とも契約を結ばないといけないとなると…。
信越線の篠ノ井~長野間については「JR東日本が比較的儲かる区間だけ手元に残した」という言説もあります。これはある面で事実ですが、篠ノ井~長野間を譲受すると「特急料金や特別車両料金の設定」や「JR東海との契約」によってしなの鉄道の経営が重くなってしまうのもまた事実です。見方によっては「JR東日本が譲らなかったことが、結果的にしなの鉄道への“支援”になった」のかもしれません(※4)。そして、しなのの乗客を含む篠ノ井線ユーザーへのメリットになったのかなと(しなの鉄道線ユーザーにはデメリットなんですけどね…)。
(※4) しなの鉄道に長野~妙高高原間を引き継がせる方針が決まった際に、「やっぱり篠ノ井~長野間もしなの鉄道に移管すべきじゃね?」という話は再燃し、実際にJR東日本への申し入れも行われたという。しかし、試算すると「しなの鉄道が引き受けたらむしろ経営が重くなる(≒大赤字が生じる)」ことが改めて判明したため、この申し入れは破棄された。
しなの鉄道でSuicaを使う際の注意点(本題)



話が脇道にそれまくりそうなので元に戻します。しなの鉄道では3月14日から全線で交通系ICカードが使えるようになったのですが、いくつか注意点があります。同社が公式に案内しているものも含めて、特に気を付けたいことを紹介していきます。
注意点1 : 交通系ICカードを使う場合は運賃が「1円単位」に


しなの鉄道では、交通系ICカード(Suica)用の運賃を1円単位で刻んで設定しています。距離帯にもよるのですが、Suica用の運賃は紙で乗車券(きっぷ)を買った場合と比べて同額か安くなっています。これはJR東日本(※5)を含むSuica導入鉄道事業者や、首都圏のPASMO導入鉄道事業者(一部を除く)と同様です。
1円単位の運賃には賛否両方あるのですが、個人的には損をすることはないので大歓迎です。電子マネー機能を使ったら、普通に1円単位での減算がなされることもあるので、「1円単位の残額が…」と気にしてもしょうがないですからねw
なお、しなの鉄道ではしなの鉄道線と北しなの線の両線において「通過連絡」(※6)を設定しており、交通系ICカードを使って乗車した場合も適用されます。よって、改札口を出ないで「しなの鉄道線~JR信越線~北しなの線」という乗り継ぎをした場合はしなの鉄道線と北しなの線の運賃を通算できます(別個に運賃を取られることはありません)。
(※5)JR東日本では以前、紙の乗車券よりICカード運賃の方が高い距離帯があったが、3月14日の運賃改定によって全距離帯が「紙の乗車券≧IC運賃」となった。
(※6)発駅から着駅に向かう途中で別事業者の路線を経由した場合に、同一事業者の運賃を通し計算できる仕組み。これにより、別事業者を経由しなければならない乗り継ぎ(直通運転)における運賃の割高感を緩和できる。
なお、通過連絡の話は、過去のnoteでもちょっとだけ触れているので参考にしてほしい。
注意点2 : しなの鉄道は「Suica首都圏エリア」だが…

しなの鉄道線と北しなの線は、JR東日本の「Suica首都圏エリア」に含まれます。これは直通先である信越線の篠ノ井~長野間もSuica首都圏エリアだから、ということで妥当です。
なので、Suica首都圏エリアの各駅から乗車した場合、しなの鉄道線・北しなの線の改札機をタッチすれば普通に出場できるのですが、実は注意しないといけないポイントがあります。

しなの鉄道線の主要駅の1つである「小諸駅」(長野県小諸市)は、JR東日本が運営する小海線の終点駅でもあります。小海線では起点である中央線の「小淵沢駅」(山梨県北杜市)の他、「清里駅」(北杜市)と「野辺山駅」(長野県南牧村)も交通系ICカードで乗降可能です。ただし、清里駅と野辺山駅は「一部対応駅」という扱いで、Suica定期券の発売は行っていません。
で、ここで賢い人は「お、小淵沢駅・清里駅・野辺山駅から小諸駅まで交通系ICカードで乗れるのでは?」と考えるかもしれませんが、ここに罠が潜んでいます。
実は、小淵沢・清里・野辺山~小諸間は交通系ICカードでの乗車が“できない”ことになっています。現に、Suica首都圏エリアマップで小諸駅を見てみると、小海線とつながっていません。
「ことになっています」という表現に引っかかった人、するどいです。実はやろうと思えば小淵沢・清里・野辺山~小諸間を交通系ICカードで乗車することはできます。ただし、以下のルートで乗車としたと見なして運賃計算が行われるので、実際の乗車経路よりも“超割高”になってしまいます。
野辺山駅・清里駅~(小海線)~小淵沢駅~(中央線)~塩尻駅~(篠ノ井線)~篠ノ井駅~(しなの鉄道線)~小諸駅

「どうしてこうなった」感はあるのですが、その端的な答えは「しなの鉄道はJR東日本ではない」という所と、「小海線の2駅はあくまでもSuicaの『一部対応駅』である」という点に尽きるのだと思います。さすがに、小海線全体がSuicaに完全対応するなら何らかの策を講じると思いますが、小海線の状況を見ると難しいのではないかと…。



なお、小諸駅は小海線ホームを含めてしなの鉄道が管理しており、小海線への乗り換え通路には簡易型のSuica改札機があります。
小諸駅でしなの鉄道線から小海線に乗り継ぐ場合は、小海線分の紙の乗車券を用意した上で、交通系ICカードを通路上にある「出場」の改札機にタッチしてください。
逆に、小諸駅で小海線からしなの鉄道線に乗り継ぐ際に交通系ICカードを使う場合は、交通系ICカードを通路上にある「入場」の改札機にタッチしてください。
注意点3 : しなの鉄道では「モバイル」の現金チャージができない

スマートフォンをカード代わりに使う「モバイルSuica」「モバイルPASMO」「モバイルICOCA」(以下まとめて「モバイルIC」)を利用する人が増えています。というか、一般クレジットカードによるチャージや定期券購入に対応してからずっと、私はモバイルSuicaを使い続けています(カード式の交通系ICカードを使うことはまれ)。
JR東日本のSuica対応エリアにある有人駅の多くでは、これらのモバイルICに対応した現金チャージ機や自動精算機を設置しているのですが、しなの鉄道の駅にはモバイルIC対応のチャージ機・精算機は設置されていません。
何らかの理由でモバイルICで現金チャージしなければいけない場合は、面倒でも主要なコンビニエンスストア、あるいは他事業者のモバイルIC対応チャージ機・自動精算機でチャージをしてください。
なお、しなの鉄道の駅にある交通系ICカード対応改札機は、SuicaとPASMOのオートチャージに対応しています。対応クレジットカードをひも付けたSuica・PASMO・モバイルSuica・モバイルPASMOを持っている人は安心してくださいw
注意点4 : しなの鉄道が発売した「Suica定期券」の取り扱い

しなの鉄道では、有人駅の窓口でJR東日本が発行する「Suicaカード」を購入できます。また、窓口ではSuicaカードを記名人式の「My Suica」に切り替えたり、「Suica定期券」を購入したりすることもできます。Suica定期券は新品のSuicaカード(デポジット500円別途)の他、手持ちのSuicaカード(プリペイド専用の記念カードを除く)にも発売可能です。
ここで注意が必要なのが「Suica定期券」で、しなの鉄道で購入したSuica定期券の払い戻しは、しなの鉄道の窓口でのみ行えます。また、しなの鉄道で購入したSuica定期券をなくした場合、紛失(再発行)登録自体はSuica・PASMO事業者の駅で行えますが、再発行をする際はしなの鉄道の窓口に出向く必要があります。
しなの鉄道では信越線・篠ノ井線へのSuica連絡定期券も買えますが、しなの鉄道で購入した場合も上記の扱いは同様です。ただし、逆に「しなの鉄道線・北しなの線へのSuica連絡定期券」をJR東日本で買った場合は、JR東日本のみどりの窓口でのみ払い戻しと再発行を受け付けます
ちなみに、しなの鉄道では自社線で完結する「モバイルSuica定期券」も扱っています。モバイルSuicaを使えるスマホを持っている人は、窓口に出向く必要もありません。
まとめ : 北信・中信はSuicaで事足りるように

ということで、しなの鉄道でSuicaが使えるようになって助かりました、という話でした。実はしなの鉄道と同時に、JR東日本は大糸線の「信濃大町駅」(長野県大町市)と「白馬駅」(長野県白馬村)でもSuicaを使えるようにしました。旅行客が多い駅をピンポイントで狙ってますが、これら2駅を発着するSuica定期券も購入可能ということで(※7)、通勤・通学客もきちんとスコープに入れているようです。
今後、「長野駅」(長野県長野市)を起点とする長野電鉄長野線や、「松本駅」(長野県松本市)を起点とするアルピコ交通上高地線でも交通系ICカードに対応する予定なので、少なくとも「北信」「東信」「中信」の移動は交通系ICカードで何とかなるようになる見通しです。
一方で、「南信」についてはバスも含めて交通系ICカードへの対応がかなり遅れています。「交通系ICカード大好きマン」としては、かなり行きづらい地域になってしまっているのが残念で…。せめて、バスだけでも交通系ICカードへの対応を急いでほしいなと…。
(※7) モバイルSuica定期券では、信濃大町駅・白馬駅を発着駅にできない(従来通り穂高までの対応)。なお、穂高~信濃大町間、信濃大町~白馬間の途中駅はSuicaカードにもカードタイプのSuica定期券にも対応しない。
