AIが忘れるのではありません。こちらが置いていないだけでした
新しい会話を開くたびに、僕は同じ文章を貼っていました。
うちが何をやっている会社か。誰に向けて書くのか。使ってはいけない言い回し。毎回おなじ説明を、毎回いちから貼り直す。
そのころ僕は「AIは前の話を忘れるから仕方がない」と思っていました。忘れていたのは、AIではありませんでした。
「毎回説明している」は、渡せていない合図です
思い返すと、貼る作業そのものが仕事になっていました。文章を書いてもらう前に、二百字くらいの前置きを貼る。返ってきたものが的外れなら、前置きが足りなかったのだと思って、もっと長い前置きを貼る。
前置きはどんどん長くなりました。それでも同じことが起きます。翌日また新しい会話を開くと、前の日の続きから始まってくれません。
ここで僕は「記憶の性能が足りない」と結論づけていました。実際にやっていたのは、毎日その場に紙を出して、帰りにその紙を持って帰る、という作業でした。持って帰るのだから、翌日は当然ゼロです。
これは人に仕事を頼む時なら、まずやりません。新しく入った人に、毎朝おなじ説明を口頭でやり直す人はいないはずです。手順書を渡して、机に置いておく。相手がAIになった途端、僕はその当たり前をやめていました。
貼るのと、置いておくのは、別の作業です
変えたのは一点だけでした。会話に貼るのをやめて、会話の外に置いた。
貼るというのは、こちらが毎回思い出して、毎回出す作業です。だからこちらが忘れた回は、前提のないまま進みます。忙しい日ほど貼り忘れて、忙しい日ほど的外れなものが返ってくる。
置いておくというのは、こちらが何も思い出さなくても、最初から入っている状態のことです。開いた時点でそろっている。ここが違うだけで、結果がまるで変わりました。

やり方は難しくありません。僕が使っているのはClaude Codeですが、要は読ませたい文章を、会話ではなくファイルに書いて置いておくだけです。ChatGPTでも、カスタム指示や共有のメモに同じことができます。道具の名前は本題ではなくて、置く場所を決めたかどうかが本題でした。
置き方を間違えて、二回やり直しました
一回目。全部を一枚に詰め込みました。会社のこと、書き方、断り方、過去の失敗。ぜんぶ入れたら長大な一枚になって、今度は肝心なところが埋もれました。置いてあるのに読まれない。貼っていた頃と大差ありませんでした。
二回目。同じことを二か所に書きました。一枚目にも書いて、担当ごとのメモにも書いた。あとで片方だけ直したので、二つの版が同時に生きている状態になりました。どちらが正しいのか、僕自身が分からなくなりました。
この二つで分かったのは、置き場が要るというより、置き場が一か所であることが要るということでした。二か所に置いた時点で、それは置いたことになりません。
ついでに分かったこともあります。置くものが多いほど良いわけではない、ということです。置いた量ではなく、迷わず読める量かどうかで決まります。長い一枚は、読まれない一枚と同じでした。
いま置いてあるのは、三つだけです
詰め込むのをやめて、置くものを三つに絞りました。

会社の決めごと。前に決めた判断。出す前に見るリスト。この三つだけを、全員が読める一か所に置いています。それ以外は置きません。一回しか使わない情報は、その場で言えば足ります。
逆に置かないものもはっきりしています。まだ決まっていないことは置きません。迷っている段階のものを置くと、迷いがそのまま前提として扱われます。決まってから置く。決まるまでは、その都度こちらが言う。
もう一つ置かないのは、その日限りの事情です。今週だけ急ぎ、この案件だけ例外。こういうものを置くと、来月には嘘になります。置くのは、来月も同じことが言えるものだけにしました。判定はこれで足りています。
変わったのは、説明の回数です
置いてから何が変わったかというと、同じ説明が一回で済むようになりました。一枚を書き換えれば、次から全部そこを見ます。前は同じ直しを、開いた回数だけやっていました。
いま決まった時刻に動いている仕事は33本、役割を決めた担当は13です。この数を回せているのは、増やしたからではなく、全員が同じ一か所を見ているからです。置き場を決める前に本数を増やしていたら、たぶん途中で崩れていました。
ここで「何時間得したか」と書きたくなりますが、僕は時間を計っていないので書けません。はっきり数えられるのは、置いてある物が三つで、書き換える場所が一か所になった、ということだけです。
もう一つ変わったのは、直し方です。前は、出てきたものが違っていたら、その場で言い直していました。いまは置いてある一枚のどこが足りなかったのかを見に行きます。その場の直しは一回きりですが、一枚の直しは次から全部に効きます。同じ間違いが二度出たら、それは一枚の書き漏らしだと考えるようになりました。
今日置くなら、一枚だけ
もし毎回おなじ説明を貼っているなら、いちばん多く貼っている文章を一つだけ選んで、外に出してみてください。新しく書く必要はありません。すでに何度も貼っているものが、そのまま置くべきものです。
全部を置こうとすると、僕と同じように埋もれます。一枚から始めて、足りなければ足せばいい。置き場が決まっていれば、足すのは一行の作業です。
AIが忘れているのではありません。こちらが、毎日持って帰っていただけでした。
僕はAIに会社の実務を渡す話を、毎日1本書いています。
同じことを自分の仕事でも試したい方は、フォローしておくと次の記事が届きます。
▼あわせて読む
▼この続きは有料noteにまとめました(500円)
絶対に渡さない4つ・実際に起きた事故3つ・いま渡している13の担当と、渡すときに使っている指示文の実物まで書いています。
