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【父・息子のこと|エピソード18】葬儀の光と影:火葬場で私を救ったもの


お通夜が始まると、想像を遥かに
超える数の弔問客がやってきました。

皆が涙を流し、「お辛いですね」と
私の背中をさすってくれる。

そのたびに、私は罪悪感に近い
焦りを感じていました。

(どうしよう、私も泣かなくちゃ。
どんな顔をすればいいんだろう)

一滴の涙も出ない自分。

悲しんでいないことがバレては
いけない。

私は必死で「遺族」という役割を
演じ、お辞儀を繰り返していました。

そんな時、ふと視線を上げた先に
勤め始めた会社の先輩たちの姿が
見えました。

「……あ」

一瞬、そこだけ光がてらされている
ように見えました。

彼女たちは、
私を「毒親に苦しむ娘」としても、
「家柄や役割を背負った遺族」と
しても見ていません。

ただ「仕事仲間の私」として、
心から心配して駆けつけてくれた。

その純粋な優しさに触れた瞬間、
張り詰めていた糸が切れ、
私の目から初めて涙がこぼれました。

その涙を見て、周囲の人はさらに
優しく私の頭を撫でてくれます。


(よかった、悲しんでいるように見えている……)

安心している自分自身が、
どこまでも残酷に思えました。


そして翌日。
運命の火葬場へと向かいます。

火葬前の最後のお別れ。

親族や友人たちが涙ながらに
「ありがとう」「さようなら」
と声をかける中、
私はただ父の棺を見つめていました。

何も出ない。

悲しみの涙も、感謝の言葉も。


いよいよ蓋が閉められ、棺が動き出す。

その瞬間、私の口から思いがけない
叫びが漏れました。

「やめて! まだ行かないで!」

それは、
父への愛からではありませんでした。

(まだ謝られてない。
謝って欲しい

お願い。一度でいいから謝ってよ
お父さん!)

もう一生謝ってもらえない

もうなにも取り返せない

私はここから一歩も動けなくなる
ただただ、それが悲しかった。

私の絶望とは無関係に、
父は火の中へと送られました。

火葬を待つ待合室。
私は弔問客の方々にお茶を配り、
用意していた
上用饅頭を振る舞っていました。

すると父の古くからの友人Aさんに
「そこに座れ」と呼び出されました。
隣には、母も座っていました。

「お前なあ、親父さんが生きてる時に散々迷惑をかけて、苦労をかけて……死んでからも恥をかかせるなよ」

Aさんの言葉に、
思考が止まりました。

(え……? 何が……?)

うなづいて聞いている母

母は、この人たちに私のことを
どう話していたのだろう。

生前の父は、私のことを
どう触れ回っていたのだろう。

「お前は散々迷惑をかけた」

そのレッテルを、
父が死んでからもなお、
他人から押し付けられる理不尽。

何が……?
なぜそんなことを言われなきゃ
いけないの……?

反論したくても、悔しさと
理不尽さで声が出ません。

(あんたに何がわかる!)
私の不満が顔に出ていたのでしょう。

Aさんはさらに声を荒らげました。

「そんな態度だからだろう!」

周囲の視線が突き刺さります。

(なんで……なんでこんなこと……)

悔しくて、悲しかった‥‥。
でも泣いたら負けだ。
ぜったいに泣くもんか

そう歯を食いしばっていた‥‥
その時でした。

「お姉ちゃん!
息子くんが饅頭持って逃げてる!
もう10個も食べてる!」

妹の叫び声に顔を上げると、
小さな息子が、両手に饅頭を
握りしめ、ポケットにもパンパンに
詰め込んで必死に走っていました。

一瞬で、場の張り詰めた空気が
抜けました。

「……どれだけ美味しかったのよ」

私は息子を捕まえ、
思わず笑いながら抱きしめます。

息子の温もりに涙が溢れます。

手には握りしめた饅頭が2つ、
ポケットに2つ。

Aさんの説教も、母への不信感も、
ドロドロした感情も、
息子の無邪気すぎる食欲が
すべて吹き飛ばしてくれました。

(助けてくれて、ありがとう)

あの時、もし息子が饅頭を盗んで
走ってくれなかったら、

私はあの場でAさんに言い返し、
葬儀を台無しにし、
さらに「どうしようもないやつ」と
いう刻印を深く刻まれていたかも
しれません。

あるいは、
あの場で壊れてしまっていたかも
しれません。

父は最後まで私を罵倒して
逝ったけれど、

私の腕の中には、
私を救ってくれる温かくて優しい命がありました。



マガジン追加していただきました
ありがとうございます✨

ひかりさん

丁寧な暮らし/パートナーはアルコール依存症‥さん

感謝します
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softly.beyond                         〜そっと‥そのさきへ〜 最後までお読みいただきありがとうございます。 もしこの記事が少しでもお役に立てたり、心に響くものがあったりしたら、チップで応援いただけると嬉しいです。 いただいたご支援は、クリエイターとしての活動費に使わせていただきます

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