見出し画像

「組織の生命力」と手探りで向き合う10年間(後編)


組織の生命力とはなにか


前編では、わたしたちなりの広報支援を振り返りました。

こうした振り返りは、広報という概念の問い直し、捉え直しにもつながります。


経営学の観点からみた広報とは


ここで一度、日本広報学会が2023年に発表した広報の概念に関する定義を見てみましょう。

組織や個人が、目的達成や課題解決のために、多様なステークホルダーとの双方向コミュニケーションによって、社会的に望ましい関係を構築・維持する経営機能である。

日本広報学会 広報概念の定義文

主体(組織や個人)、
目的(目的達成や課題解決)、
客体(多様なステークホルダー)、
手段(双方向コミュニケーション)、
目標(社会的に望ましい関係を構築・維持する)、
分類(経営機能)
という要素で構成されています。

国内外の研究を踏まえて広報の特徴を端的に捉えていますし、「双方向コミュニケーション」をもっと意識しようという実務に対する提言のニュアンスもある、優れた定義だと思います。

ただ、本当に色々なお客さまのご相談に個別に対応しながら、在野で広報のマネジメントと向き合ってくると、以下のような点に戸惑いも感じます。

  • 「社会的に望ましい関係を構築・維持する」ということは目標なのか?関係構築・維持の目的や上位概念、あるいは、構築・維持がなぜ必要かを説明すべきではないか?

  • 「目的」に対する手段として双方向コミュニケーションが設定されているが、それは「関係構築」の手段ではないか?(要素が入り組んでいないか?)

  •  経営機能という「分類」は理解できるが、「機能」(はたらき・役割)そのものの説明にはなっていないのでは?


念のためお伝えすると、決して広報学会の定義を批判したいわけではありません。

一方、実務の現場、在野の立場からみたときに、まったく別角度から広報という概念を捉えることができるのではないか。
あるいは、学術的な定義(きれいに整理するという制約)に囚われずに、自由に発想する選択肢もあるのではないか。

広報学会の定義は、経営学的な観点が強く、背景に「あらゆる人間の活動には経営という行為がある」という考え方がうかがえます。

そこであえて、経営学を前提にせずに、広報を捉えてみたいと思います。


生物学的な観点からみた広報とは


生物の生命力とはなにか

企業・組織は、いわばひとつの生命体です。

わたしが会社をつくったように、企業・組織は生まれることもあれば、元気になったり具合が悪くなったり、死んでしまうこともある(わたしたちの会社はまだ死にたくない!)。

生命体である以上、一度、会社・組織を生物学的な観点から見てみましょう。

まず、生物学的な観点での「生命力」とは何か。

学術的に生命力そのものを明確に定義したものはありませんが、生物学では生命を客観的に観測可能な「生命維持システム」とし、いくつかの機能的特徴を持つと捉えています。

機能的特徴には諸説ありますが、ここでは以下の3つを提示します。

①ホメオスタシス(恒常性維持・自己治癒力)
②アダプテーション(環境適応力・自己変容力)
③リプロダクション(自己複製力・新陳代謝)


この3つの機能が強ければ、生命としてのシステムが盤石である(生命力が強い)と言い換えてよいでしょう。


組織の生命力とはなにか

では上記を、ひとつの生命体である「組織」に置き換えながら整理してみます。

①ホメオスタシス(恒常性維持・自己治癒力)
●生物学的観点

外部環境が変化しても、生体内部の状態を一定に保とうとする働き。
生命維持の最も基礎となる防衛・回復機能。
例:気温が上がれば汗をかいて体温を下げる/ウイルスが侵入すれば白血球が集まって退治する/傷を負えば血小板がかさぶたを作って自律的に修復する
●組織的観点
組織のレジリエンス力

組織がダメージ(不祥事、クレーム、従業員の疲弊など)を受けた際、トップの指示を待つことなく、自律的に異常を検知し、自浄作用を働かせて元の健全な状態に回復しようとする力。

②アダプテーション(環境適応力・自己変容力)
●生物学的観点
生存を脅かす外部環境の変化(気候変動や天敵の出現など)に対して、長い時間をかけて自らの身体的特徴や生態(行動様式)を変化させ、生き残りに適した形へアップデートしていく機能。
●組織的観点
組織の変化適応力

社会の価値観の変化(ESG、多様性など)や新しい市場トレンドに対して、過去の成功体験に固執せず、自らのビジネスモデルや企業文化を柔軟かつダイナミックに変化させる力。

③リプロダクション(自己複製力・新陳代謝)
●生物学的観点
自らの遺伝子(DNA)を次の世代へ残す機能。
単なる完全なコピー(クローン)を作るだけでなく、有性生殖や突然変異を通じて多様性を生み出し、古い細胞を死滅させて新しい細胞を生み出すこと(新陳代謝)で、種全体の生存確率を高める働き。
●組織的観点
組織の伝承・新陳代謝力
創業の精神や企業理念という「DNA」を形骸化させず、時代や環境に合わせて解釈を変えながら伝承し、自己複製(子会社・グループ化等)や新陳代謝(組織の再構築や人財の入れ替わり)をする力。


組織の生命力と広報の関係


広報との関係について、すでにイメージが湧いた方もおられるでしょう。

組織のレジリエンス力は、社内広報と危機管理広報の連動によって広報がアプローチし得るものです。(詳しくは社内広報の接触状況に関する実態調査の最終報告書を参照ください。)

組織の変化適応力は、社会との良好な関係構築、まさに「パブリック・リレーションズ」で、ありとあらゆる社外広報活動の得意領域です。
経営層に対する提言(インテリジェンスの提供)もここに該当するかもしれませんね。

組織の伝承・新陳代謝力は、理念の浸透やグループ広報など社内広報の領域に強みがあります。


生物学的な観点での広報の定義


こうしてみると、広報とは「組織の生命力を維持する」機能の“ひとつ”だと言えます。

むろん、あくまでも一機能で、広報が生命力のすべての源泉になっているわけではありません。

ホメオスタシス、アダプテーション、リプロダクションの3つは、事業・製品・サービスにも求められます。

ただし、それらを生み出す、あるいは、管理をしているのは「人」であり、その先にいるステークホルダーも基本的には「人」に帰結します。

「人の認識・感情・行動にアプローチする態度変容」を原理原則とする広報は、事業・管理活動の担い手やその対象となる「人」の認識・感情・行動に働きかけ、組織のレジリエンス力、組織の変化対応力、組織の伝承・新陳代謝力という組織の生命力の3要素を維持・強化していると言えます。

こうして、組織をひとつの生命体、流動的な存在として認識したうえで、実務の現場・在野の立場からみると、新たな切り口で広報の概念を捉えられそうです。


広報とは、双方向コミュニケーションという「人」の認識・感情・行動に対する働きかけによってステークホルダーと良好な関係を構築し、組織の生命力(組織のレジリエンス力/変化適応力/伝承・新陳代謝力)を維持・強化させる機能のひとつである(組織が存続して社会的役割を遂行することを、人にアプローチして支える業務である)。



あくまで生物学的観点でのこの整理は、わたし自身もはじめてまとめたものです。

今後考え方が変わることがあるでしょうから、あくまでも現時点のものとして参考程度に接していただけるとよいと思います。

わたしが、どうしても「オルタナティブ」な音楽ジャンルが好きなものでして、本流とは少し違う角度で物事を捉えたくなってしまうのです。


あらためてわたしたちの生命力とは

前回、わたしたち、株式会社タンシキの生命力の源泉を3つ紹介しました。

わたしたちの生命力も、生物的観点から見直してみましょう。

①ホメオスタシス
同業他社にはない特徴的なサービスは、タンシキとしての恒常性(広報のマネジメント・コンサル)につながっています。生き抜ける範囲でニーズが存在している限り、「組織のレジリエンス力」が不要になるからです。

②アダプテーション
サービスの領域や対象を柔軟に変化させてきたことは、まさに「組織の変化適応力」です。

③リプロダクション
極めて暗黙的な支援内容による個別対応の積み重ねは、一見すると複製や再生産が難しいもの。しかし、濃密なご支援を通じてお客さまの中で脳内シェアができあがることで、複製(ご紹介)や再生産(リピート)が発生する状態になっています。


今後のnoteについて


2回にわたって、創業から10年を機会に、わたしたちの生命力を振り返り、広報という概念を生命力と結び付けて捉え直してみました。

なんとなく、あるいは、イメージだけでも、わたしたちが仕事やお客さまにどのような姿勢で向き合っているのか、お伝えできたようであれば幸いです。

これから少しずつ、モヤモヤや悩みの多き広報実務の世界で
「組織の生命力の維持・強化に資するマネジメント・コンサルテーション」
を追求してきた、現場の裏側とそこにかける想いをご紹介していきます。


関連記事

実務代行をしない危機管理広報コンサルの舞台裏(総論)


いいなと思ったら応援しよう!