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コラボは打ち出の小槌ではない(後編)——ちいかわコラボ騒動と、徳政令カードを持つ従業員

前回は、人気キャラとのコラボの旨味が「キャラの人気を来店動機に変える」ところにあり、そのために配布の窓口が全国の店舗へ分散し、分散した窓口が不正の窓口にもなる、という構造を見た。今回は、その不正リスクというコストを十分に払わなかったとき、何が起きるのかを考える。

■中止が生む損失の大きさ

くら寿司の中止対象は、景品配布からコラボメニュー、店内装飾、そしてこの先に予定されていた第3弾の皿にまで及んだ。公式には損害額は語られていないが、一般的に考えて、すでに製造・配送された配布品、これから配るために用意されていた在庫、印刷済みの販促物などが宙に浮くことになる。使えなくなった分の廃棄まで含めれば、損失は相当な規模になると見るのが自然だろう。

さらに、コラボ相手の版元との関係や、ブランドへの傷といった、金額に換算しにくい損失もある。中止という判断そのものが、企画で見込んでいた売上を手放す判断でもある。

■従業員個人からは、取り返せない

不正をした従業員と手口が特定できたとして、その損害を全額賠償請求しても、個人が払える額はたかが知れている。盗品の譲渡や窃盗という側面から刑事事件にすることもできるが、それは今後への抑止であって、すでに出てしまった損失を埋めるものではない。

桃太郎電鉄の徳政令カードのようなものだ。あのカードを持っていれば借金がゼロになるように、個人の支払い能力を超えた請求額は、いくら積み上げても回収される額は変わらない。請求が一千万でも一億でも十億でも、実際に取り戻せる分は同じで、差額はまるごと企業側の負担として残る。「厳正に処分する」「法的措置をとる」という対応は、再発を防ぐうえで必要だが、今回空いた穴をふさぎはしない。

だとすれば、対策の重心は事後の請求ではなく、事前に「割に合う不正を作らないこと」へ移る。

■善人と悪人のあいだには、線ではなく傾斜がある

目の前に百万円の札束があって、見つからずに持ち去れそうな状況にあるとする。持ち去るか、踏みとどまるか。ここに、善人と悪人を分ける固定した一本の線があると考えたくなる。自分は当然、持ち去らない側だ、と。

だが、その線は金額と発覚確率で動く。千円の落とし物なら迷わず届ける人が、桁がいくつも変わり、しかも誰にも見られていないとなれば、心は揺れる。物価高や生活の苦しさは、その揺れを不正の側へ倒す圧力として働く。人を「大半は善人、ごく一部が悪人」と二分するより、多くが状況次第でどちらにも傾きうる傾斜の上にいる、と考えるほうが、設計としては堅い。この傾斜そのものは、それだけで一つの主題になるので別稿にゆずり、ここでは設計に必要な範囲でとどめる。

その前提に立つと、設計の目標は二つになる。第一に、不正をすれば一定の確率で発覚すること。ダブルチェックのような確率で守る仕組みを、景品の在庫と現物の突き合わせに効かせる。第二に、一回の不正で得られる旨味を、万一やられても個人から回収できる範囲にとどめること。一人に大量の景品を一括で扱わせない、持ち出しの記録を残す、といった地味な設計がここに効いてくる。

関連記事(ダブルチェックは効くのか——確率で守る仕組みと、それが壊れるとき)

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■信用を取り戻す条件

今回の件では、過去のコラボでも不正を指摘したが十分な対応がなかった、というファンの声が一部で上がっている。ここには二つの、性質の違う事実確認がある。過去に実際に不正があったのか、という確認。そして、そうした声が現に上がっていたこと自体は——少なくとも観測された範囲では——事実だ、という点だ。

もしその指摘が届いていたのに対応されなかったのなら、旨味だけを受け取り、リスク対応のコストを先送りしてきたことになる。先送りされた歪みは消えずに溜まり、今回、いちばん悪い形で表に出た——そういう筋書きが浮かぶ。今回失った信用を取り戻すには、今回の手口の解明だけでは足りない。過去に上がっていた疑いもさかのぼって調べ、その結果を、白なら白と、対応が不足していたなら不足だったと、外に向けて誠実に報告することが要る。

■企画を評価する人への問い

コラボは、キャラの人気を来店へ変える強力な仕組みだ。だが打ち出の小槌ではない。お札を刷るなら金庫がいるように、集客の旨味を取るなら、それを配る全国の窓口で不正が割に合わないようにする設計と、そのコストが、はじめからセットになっている。

企画を評価する立場の人への問いにするなら、こうなる。来店がどれだけ伸びるかの試算と同じ熱量で、「配る窓口はいくつあるか」「一人で抜き取ったとき、いくら儲かってしまうか」「やられたら、いくら取り返せるか」を並べているか。その三つが見積もられていれば、コラボは旨味とコストのそろった企画になる。片方だけを見ていれば、今回のような形で、伏せていたコストがまとめて請求される。

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