YS 1.11 〈記憶〉とは
パタンジャリは、5つの心の作用のみなもとを、現実との関係が近い順に並べました。そんなわけで、最終回になる今回5つめは、前回の〈睡眠〉よりも遠くはなれているという〈記憶〉です。納得か、そうでないか、解説を読み比べながら解剖してみましょう。
※前回はこちらの『YS 1.10 〈睡眠〉とは』をどうぞ。
ヨーガ・スートラ第1章11節
अनुभूतविषयासंप्रमोषः स्मृतिः॥११॥
anu-bhūta-viṣaya-asaṁpramoṣaḥ smr̥tiḥ ॥11॥
アヌブータ ヴィシャヤー アサムプラモシャハ スムルティ
「Not letting the experienced objects escape from the mind is memory」(1)
(経験したことを心にとどめて手放さないことが〈記憶〉である)
過去に経験したことは、時間がたつにつれ、詳細がどんどんあいまいになります。そこを想像で補いながら作られるのが、〈記憶〉です。
たとえば、楽しい思い出も、満足できなかったという感情があった場合、その感情に沿って経験が色付けされていきます。結果として、事実を無視するほどに書き換えることになったとしてもとにかく、〈記憶〉は作られる。そして、意識の深いところに蓄積された〈記憶〉と似たようなことが起こった時、「いまここ」での経験は、その〈記憶〉と結びついて、恐れや苦しみを生み出すことがあります。
これが〈記憶〉と、そこから心の作用(心や感情の揺れ)が発生し、結果としてあまり喜ばしくない心象におちいってしまう仕組みです。
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〈記憶〉も『心の作用には5種類あり、それらは、苦痛に満ちたもの(煩悩性のもの)、あるいは苦痛なきもの(非煩悩性のもの)である(YS 1.5)』です。だから、〈記憶〉が楽しいものや幸せな苦痛なきものとして書き換えられていることもあります。ただ、いざ「いまここ」が楽しい〈記憶〉と結びついたけれど、実際にあれなんか前ほど楽しくないなーと思った時に、今度は 思っていたのと違う という、ハリーシャ (3) 曰く「タグ付けされた」〈記憶〉と結びついちゃったりするよね、ということです。
これは、「いまここ」の楽しいや幸せという感情を否定しているわけではありません。その感情は、享受した方がいい。同じように、苦痛を生み出しそうな悲しいや悔しいという感情も、享受した方がいい(ゆっくりがいいと思うけど)。面倒が起こる可能性を引き起こすのは、それをそのまま享受せずに、意識下に眠る〈記憶〉と結びつけてしまった時だということを知っておくことは、大事。
いま目の前にあるものを、どのくらいそのまま見ているのだろうかと改めて考えてみるいい機会だなと思います。〈記憶〉は自分の中で合成しているので現実からは遠く、いくらでも盲目になれてしまうということに気付くだけでも、だいぶ収穫だな、私は。
インテグラル・ヨーガ (2) が、〈記憶〉には2種類あって、1つめは夢で、もう1つは起きている時に見る夢、つまり白昼夢のことだと書いているのはそういうことなのかなと思います。いま、目の前にある対象をそのまま見ることは、決して簡単ではない。
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フォーチャプター (1) は、いつもの「伝統そのままサンスクリット語満載でごりごりに説明するぜ」な方法で、以下のように〈記憶〉の発生する段階を説明しています。
まず始めに、私たちは対象物を五感のどれかで知覚します。そこから、私たちの心が、インドリヤ(indriya)と呼ばれる外側の世界と接触する手段(わたしたちがこの身体と共にもつ道具)の5つの方法のうちのどれかを使って対象と接触する、そして、もし過去の経験が心にいまだあるのであれば、その過去の経験をもとにつくられた〈記憶〉が、心に接触してくる。
私はこれを読んで、がーんと思ったんですよね。こんなに自分の心の中の動きを細分化しているのかヨガって、と。そして、そんな分厚く作られているシステムを学んでいるのかということ。知っていたけど、学べば学ぶほど先の長さを確認するよう作業だ。それでも、暗闇に光をあてながら、袖振り合うも他生の縁ということでぼちぼち歩こう。
そして、そんな中でも明かりが見えるなと思うことは、少なくとも私たちは対象物をそのまま五感で知覚している時間があると書いていること。その時間が一瞬でもあるなら、その時間を引き延ばす努力は、ゼロをイチにするよりは難しくないはずだということ。
これは、今まで何度か書きましたが、それがヨガでやろうとしていることで、ヨーガ・スートラにその方法を説明してもらっているところなので、私たちは引き続きえいえいおーということです。これはちなみに、読み比べている解説のどれもが、このスートラの解説の最後に書いてくれていることでもあります。
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ややこしければややこしいほど、頭だけいっぱいにならないように、ぜひ音読しましょう。ぜひー!
さて、今まで詳しく見てきた心の作用が起きる原因5つはこちら。
① 実体をそのまま知覚する〈正知〉
② 実体があると勘違いする〈誤解〉
③ ことばによっておこる〈錯覚〉
④ 無の認識に基づいた〈睡眠〉
⑤ 書き換えられた過去の経験からうまれる〈記憶〉
フォーチャプターが、私たちの意識のすべてをカバーしていると書いているというこの5つを確認したうえで、ではどうすれば静かにできるかにトピックがうつっていきます。つくづく良く構成されているヨーガ・スートラ、ぜひ続きもお楽しみに。次回のヨーガ・スートラ第1章12節はこちらから⇩
※ 本記事の参考文献はこちらから。
(2021/04/29 加筆・修正)
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