楽しめた?【昔ばなし】
前回の昔ばなし
🌿
午前9時。
地下鉄を降り、歩道に出て時計を見る。
「まだ時間あるけど…寄り道は無理っぽい。」
涼しくなってきた並木通りを歩きながら、早朝から繰り返しシミュレーションしたものをさらに細かく砕いていく。目的地のホテルまでは、もう数分の距離。
すぐに到着した会場内は、すでに完璧に仕上がっている。
何となく緊張感が漂う空気の中に、自分が居られることに高揚感も感じてた。
式場のような豪華な絨毯の部屋。丸いテーブルが全体にいくつも並び、テーブルの中央には新製品のパッケージがディスプレイされている。
簡単な施術用の商材もすぐ使える状態に整えられている。
壁側に長く仕切りが置かれているところへ向かい、裏を覗くと、何がどこにあるのかパッと一目でわかるように、幾多の種類の山積みの在庫が所狭しと並んでいる。
こういうことが出来るのは、流れを完全に把握している現場の人だろうし、毎年、春と秋に開催される大規模なキャンペーンを熟知していることがよくわかる。いつも誰がやってくれているのだろう。
見るたびに、こういう人に支えられてるんだよなあと眺めながら、この表からは見えない狭い舞台裏が、妙に落ち着くから、することもないのに、打ち合わせの時間がくるまで、そこで在庫に喋りかけていた。1人っきりで。笑
「ハル、時間よ」
すぐ見つかる。笑
十数名の社員や店舗オーナーと開場前の打ち合わせ。
2日間にわたるキャンペーンの流れ確認など、それぞれの担当から伝えられ、最後に売上目標額が言い渡された。
アホみたいな目標額。
笑
並ぶ社員たちが、真剣な眼差しで頷いたり聞き入ってる、そのみんなの顔を見て、「そんな数字、ホントに想像できてんの?」って吹き出しそうになりながら、俯いてこらえるハル。笑
ただ、ほぼ達成はするのだ。
これは説明できないけどわかってる。
そんなもん。(だいぶ端折った 笑)
開場と共に入ってくる、招待状を手に持つお客さん達。ほぼ女性。
テーブルへ案内して、いつものように軽い施術とお喋りをしながら商品を販売していく。
お喋りは、他愛ないことから、商品など美容関連の質問。
瞬時に回答が口からついて出る。「今、ちゃんと脳を通った?」ってぐらい自動で出る。笑
歌うように出てくるセールストーク。笑
それは少し快感でもあったけど、どこか自分じゃないとも感じてた。
「あなたがつけてるのと同じ〇〇が欲しい」
「あなたはどのシリーズを使ってるの?」
「あなたなら、どれを選ぶ?」
道中、ビルのガラスや鏡で何度も自分をチェックするのは、このためでもある。これこそ商売だと思ってた。セールストークなんていらない。
教えてあげるだけ。この時はとても楽で心地よかった。
だんだんとお客が増えていく。
社員たちの、テーブルと楽屋裏を行き来するのも小走りになってくる。
少し離れたテーブルに、上司のTさんが見えた。
そのテーブルは他に比べて一際オーラが輝いてみえる。
彼女はハルの憧れであり、そうなりたいと思う唯一の女性だった。
上戸彩似の美人、いつも笑顔。上から下まで完璧。仕事も完璧。
「非の打ちどころがない」ってまさにTさんのことだと思う・・・
って、吸い込まれてる場合じゃない。
次々と順番を待つお客様の数が渋滞してきた。
ひたすら捌き続けながら、仕切り裏の在庫がどんどん減っていく。
最後のお客が帰り、1日目が終わった。
終わりの挨拶を済ませた途端、
すぐにTさんに駆け寄るハル。(犬。笑)
笑顔のTさんは、一日中お客さんと散々喋ってたのに、今は部下たちから囲まれてまだ喋ってる。
駆けてきたハルに気づき、みんなに向かって、
「じゃ、お先に帰るわね、お疲れさま!また明日ね~!」
Tさんと並んで会場を後にした。
「どうだった、ハル? 今日も楽しめた?」
こんなふうに言う人だった。
「今日も楽しめた?」
仕事の日の夕食は、ほとんど外食。
会食も多いから、帰りは毎日遅い。
出張はほとんどがホテル泊だったけど、
Tさんがいる支社の管轄の時だけは、Tさんのところでお世話になっていた。
30代後半、一人暮らし。
外で見るTさんは、すごくキラキラで華やかだけど、生活はとても普通。
鍵を開け電気をつけて招き入れてくれる。
「お邪魔しまーっす♪」
「はいどーぞ~♪」
「疲れたわね~!お風呂溜めるから待っててね。」
「わ、ありがとうございます♪」
2LDKのマンション。
泊まる時、いつも使わせてもらってる部屋に入り、すぐゴロンするハル。笑
仰向けで大の字になって目を瞑ると、初めて全身に血が巡りだしたかのような感覚になる。脚がジンジン痛む…
だんだんと意識が薄れていく…
「ハルー!!」
すぐ見つかる。笑
「はい、はい、」
リビングのテーブルにお互い鏡を置いて、メイクを落とす。
今日の失敗話や嬉しかったことをTさんに報告しながら。
ピピピッ、ピピピッ♪
「ハル、先に入りなさい。」
「はーい♪」
お風呂から上って、部屋に戻りドライヤーで髪を乾かした後に気づいた。
音がしない。
Tさんが入ってるはずのお風呂の電気が暗い?
え?と思ってお風呂のドアに近づくと揺らめく光が…
もう怖くなって、声をかけた。
Tさん、お風呂で瞑想してた。ローソクたいて。笑
瞑想なんて知らないし、不気味だと感じながらも、それはTさんに必要なことなんだろうなと思った。今日のように、ハルたちと一緒に仕事するような現場は、きっとTさんにとったら楽勝で、普段はセミナーやあれこれで飛び回ってる。きっと想像できないくらいハードなんだろうなと。
「最近、始めたのよ、瞑想。なんかスッキリするのよね」
「暗くて怖くないですか?」
「ハルは暗いの苦手だもんね。笑」
Tさんは、キッチンの棚から、箱を二つ出した。
一つは、レオピンファイブ、もう一つはローヤルゼリー。
カプセルに液体を入れてるのが面白くてじっと見てた。
「ハルも飲む?」
「うん、飲んでみたい♪」
黒いのと白いのと、両方のカプセルを飲んだけど、栄養過多だったのか何なのか、翌朝起きた途端、鼻血を出したハル…笑
急に心細くなって朝食を作ってるTさんのところへ行くと、
「あらッ!まだいらなかったわね~!笑笑」
と爆笑するTさんの手は、鍋にお味噌を溶いていた。
Tさんはとても料理上手で、お味噌汁もちゃんと出汁から取る。お味噌は米みそで、甘じょっぱくてすごく美味しかった。この朝食のお味噌汁が大好きだった。ハルはTさんから料理を学んだと思う。
戦闘服を決め、またテーブルに鏡を並べて、戦闘仮面メイクをするTさんとハル。そして2日目の戦場へ向かった。
カンパーイ☆
アホみたいな目標額は無事達成し、祝杯をあげる。皆で喜び讃え合う。
疲れてるはずなのに気持ちだけが異様に高揚し、お酒もすすむ。今日は自宅に帰る予定のハルは、アルコールはほどほどにして、みんなをボーっと眺めてた。楽しそうだな~って。
Tさんはもうみんなから慕われて囲まれて、大変なことになってる。笑
でもTさんも嬉しそうだからハルも嬉しい。いつかあの人になろう。
Tさんみたいなじゃなくて、Tさんになろうって思った。
駅では常に走ってる。最終のJRに飛び乗った。
車両のいちばん後ろの席にドカッと座った。Tさんが持たせてくれた鯖寿司を、前の座席から下ろしたテーブルに乗せて、真っ暗な窓を眺める。窓に映った戦闘メイクの自分に見惚れるハル。
ふと、車両の通路を覗き見ると、左右からワイシャツの腕がダランと垂れてたり、空いた座席でゴロンしてるのか頭がはみ出てたり、ネクタイもヨレヨレな企業戦士たちだらけ。
みんな疲れてるな~って、ちょっと吹いた。笑
ヒールを脱いだ。
脚がジンジン痛む。。
その時だった。
「ハルは、可哀想だよな」
Mさんの声がした。
書き出したらあれこれ思い出したな~…もう眩暈がする。笑
みんな、いったいナニ読まされてんだ?って感じだよなあ。笑
すみません♪笑
オワリ♪
のつもりが、思い出した。ここ追記。笑
これは、エッセイしりとりだった!!
もう完全に忘れてた🤣
バトンをいただいたコハクシスさんの記事
でも、偶然!「楽しめた?」ってフレーズが入ったタイトルだったから即変更できた。あ~良かった。笑
最終話
